森川 大作 / 株式会社インサイト・コンサルティング

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というのが幾つも幾つも続き始めると、だんだん改革路線は迷走し始めます。この原因には、関係者の間の対立障壁があります。一般的に分類すると、次のような3次元で描けるでしょう。

X.時間軸
長期視点に立つのか短期視点で構えるのかということです。多少長く時間がかかっても抜本的な改革をこの機にしたいという視点もあれば、ジリ貧なので少しでも結果が出るものからどんどん手をつけたい。でも、それをしていると最終像に対しては二度手間になり、手戻りが生じるから、結果的には時間がかかるなど。ビッグバンでやるか、パッチワークで行くかというの議論です。別の例では、改革内容が人材育成や教育が関わるものであれば、どうしても長期視点に立たざるを得ない半面、業績に繋げるためにはある程度短期視点で臨まなければならない。新規事業の立ち上げに伴う改革とするか、既存事業の早期改善を積み上げるかなどの議論もあるでしょう。

Y.空間軸
全体最適のために部分不最適はやむを得ない、でも部分最適されなければやる意味がないし、非協力者にどう対応すればよいのか・・・。管理者にとっては有用だが、現場にとっては負担を強いる。全体コストは低減できるが、この工程については余計なコストがかかる。全体が見えるようになるだけで、何のメリットがあるのか、現場での作業ごとにすでに最適化されている。そうなれば、結果としてどれだけのコスト増になるか検討がつかない。特に、人員削減を伴う場合、管理側と現場側の主張の行き違いがつき物ですし、そのためにコストや品質はどうなるのか、会社全体として最終的には不利益になるのではないか、などの議論があることでしょう。

Z.評価軸
改革の指標を何に置くのか、あっちか立てばこっちが立たない、2つの指標の間で揺れる場合です。たとえば、生産ラインの時間を短縮させ、リードタイムを改革指標にしたら、不良品率が上昇するとか、売上増大の施策を掘り下げるためには、コストにある程度目をつぶらなければならないとか、物流コスト低減のために発注ロットを大きくすると、在庫回転率が落ちて結果としてコスト増大を招くなど。この改革は結局何を目指しているのかなどというそもそも論に立ち戻ってしまう要因になりやすい軸です。

これら3次元の対立障壁を意識し、対立解消のためにとるべき施策は論理的に考えて3つです。

A.どちらか一方だけで完全に割り切ってしまう
色々な要素を考えてしまうあまり人々の目線が小さくまとまってしまう場合、抜本改革の必要性をみなで共有する雰囲気作りには、リスクがあるもののシンプルな方がまとまりやすい。思い切って人々を今ある場所から解き放つために、チェンジレーダーが言い切ってしまうという方法を取ることにより、対立障壁をなくします。

B.片方の犠牲を特定する
あっちがよくなるなら、こっちはこれくらいは大丈夫というトレードオフの考え方です。この場合、評価指標は2つになります。たとえば、リードタイムを5%改善するなら、不良品率を1%まで許容する。売上が20%増なら、コスト10%増まではOK。などという交換条件により対立障壁をなくす方法で、この2つの指標をトレードオフ指標といいます。

C.両立させる
あえて二兎を追う、一驚両得のやり方です。たとえば、業務目標の達成と人材育成の推進は、限られた業務時間の中では相対する障壁となるとすれば、日常の業務遂行の中でいかにして人材育成もやってしまうという発想の転換をすることです。そのためにはどうしたらよいかということを考えて、対立障壁をなくしていきます。結局は企業利益の最大化を大目標としていますので、よく考えれば両立のための解決策は見つかるでしょう。ただし、対立点が美辞麗句で曖昧にされてしまい、総論賛成各論反対の罠に陥ってしまわないような「仕掛け」作りがどうしても必要です。