ネットもテレビと同じ凋落の道/純丘曜彰 教授博士
ネット、というよりポータルサイトだ。老舗のYahoo! JAPAN(ソフトバンク系)、goo(NTT系)、MSN(マイクロソフト直営)、Infoseek(楽天直営)、excite(伊藤忠系)、そしてlivedoor(韓国ネイバー系)。その他、それぞれのプロバイダも、BBS(電子掲示板)以来のポータルサイトを持っている。問題は、これらのポータルが、早くも凋落していってしまっていること。
ただの検索ポータルのころは、メカニカルに、キーワード関連の外部サイトが表示されるだけだった。しかし、複数の検索ポータル間の争いが生じ、シェアと広告のためにPV(ページヴュー、来訪者)を稼ごうと、直リンクの「おすすめ」が前面に押し出されることになった。ここにおいては、それぞれのポータルの現有顧客の志向により迎合していった方がPVが稼げる。
しかし、「おすすめ」の前面化は、同時にそこに、それぞれのポータルの編集方針が介入することとなる。そして、結晶化、つまり、編集方針と顧客志向のプラスフィードバックが働く。さらには、ポータルの経営側の都合で、顧客の志向とは異なる意図的な扇動、情報の歪曲を含むようになる。また、編集部として、実際に「数字」を持っている特定サイトや特定ブロガーをさらに前面に押し出したり、実質的に編集部がプロダクション化してしまい、まったく未知数の縁故者を「有名人」と称し、勝手にプロモーションしたり、ということが起こる。
だが、これは、テレビが凋落したのと同じ道。売れているものを、それどころか売れてもいないものを、さらに強引に売り出そうとする情報操作は、結晶化した同じ顧客たちのリピートによって、それどころか、その頻度昂進で、視聴率を一時的に引き上げる。局の都合、番組の縁故のゴリ押し、はやってもいないものをはやっていると言いふらす情報歪曲も、局や番組そのものが数字を持っている場合、たしかにある程度までは可能だ。だが、これらの手法は、その背後で、新規の顧客の途絶えさせ、従来の顧客を離反させてしまう。このことことを見失っていると、ある日突然、視聴率が急落する。
かつて私もテレビ局に関わらせてもらい、多くのことを教わった。新陳代謝こそ、テレビの要諦。ピークを過ぎたタレントはすぐに切れ、番組を心中させるな。新人はどれにも肩入れするな、視聴者の選択を待て。ところが、その後、あちこちの大手タレント事務所が直接番組制作に乗り出し、自分のところや縁故のところの「大御所」や「注目の新人」のタレントたちをゴリ押しして、このテレビの「旬」の常識をねじ曲げた。その結果、テレビというメディアそのものが、すっかりダメになった。人が寄りつかなくなった。
すでにネットポータルの多くも、スマホシフトに乗り損ねている。スマホの小さな画面に、ポータルの経営側や編集部の「おすすめ」ばかりを上に押し出し、テレビの雛壇芸人のように並べても、顧客をそそらない。長文も、写真も、小さなスマホ向きの素材ではない。スマホは、もともと個人の電話機と手帳がくっついたもの。あくまでパーソナルメディア。その小さな画面において、そのリンクは、ひたすら時間軸に沿ってのみ、単線的に奥へ延びている。だから、ゲームやLINE、ピン芸人動画がはやる。
広い画面上に大量の「おすすめ」を静止平面的に分散配置するような概念レイアウト(画面デザインでなく、情報観そのもの)でのポータル経営は、もはや完全に時代から遅れてしまっている。単線時間軸的リンク構造、ポータルプッシュではなく顧客プル(オンデマンド)、雛壇型ではなく狭い画面でのピン芸人型の固定メディア。現状は、youtubeなど、むしろ昔の単純メカニカルな検索ポータルに戻った観がある。時間軸リンクとしての「チャンネル」化は、いまだいろいろな個人がそこで模索中というところ。しかし、今後、顧客からより高度の質が求められ、メディアとしてマスの影響力をそこに企業が発揮しようとするとき、そこにどんな戦略が成り立つのか。Facebookのいいねボタン、LINEスタンプやtwitterの#タグなど、顧客サイト埋め込まれ型のヴァイラルは、その一つの方向だろうが、これもまた、いまだうまく軌道に乗っているとは言いがたい。
いずれにせよ、ゴリ押し当然のような、古いテレビやネットの「上から目線」のメディア経営感覚を引きずっていては対応できない。発酵し続けている新しい酒には、もっと柔軟な新しい革袋こそが必要だ。
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。著書に『夢見る幽霊:オバカオバケたちのドタバタ本格密室ミステリ』『悪魔は涙を流さない:カトリックマフィアvsフリーメイソン 洗礼者聖ヨハネの知恵とナポレオンの財宝を組み込んだパーマネントトラヴェラーファンド「英雄」運用報告書』などがある。)