地球〜宇宙間の移動に革命をもたらすかもしれない「宇宙エレベーター」のイメージ(画像提供:大林組)。

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2050年の「宇宙エレベーター」完成を目指している大林組が、国際宇宙ステーション(ISS)でカーボンナノチューブの耐久性実験を開始しました。SFの世界でしかなかった宇宙エレベーターはいま、一歩ずつ現実へ近づいているようです。

SFの“ガジェット”でしかなかったものが

 総合建設業の大林組は、2015年5月より国際宇宙ステーション(ISS)にて、宇宙エレベーターの建設材料として期待されるカーボンナノチューブの耐久性実験を開始しました。2050年の宇宙エレベーター完成を目指している大林組。これはその壮大な計画の一部であると共に、「宇宙エレベーター」現実化の“鍵”を握る実験、といえるかもしれません。

「宇宙エレベーター」、あるいは「軌道エレベーター」と呼称されるこの乗りものは、静止軌道以上まで伸びる建造物(塔、レール、ケーブルなど)に昇降機を設け、宇宙空間に物資や人を運搬するもので、ロケットよりはるかに安全かつ低コストで宇宙への人員・物資の輸送が可能になると期待されるもの。約100年前、帝政ロシアおよびソビエト連邦の科学者であるコンスタンチン・ツィオルコフスキーが考案したとされます。

 とはいえ、その実現性の乏しさから、宇宙エレベーターは永らくSF作品の“ガジェット”として扱われる程度の、概念的なものにすぎませんでした。宇宙エレベーターを建築するのに必要な強度を持つ素材が存在しなかったことが、その最大の理由です。

 その問題を解決に導く糸口となったのが1991(平成3)年当時、NEC筑波研究所に所属していた飯島澄男さんによる「カーボンナノチューブ」の発見です。この軽量かつ極めて強度の高い新素材の発見により、宇宙エレベーターは現状の技術でも実現可能な範疇にあるものとして脚光を浴びることとなります。

状況を一変させた「カーボンナノチューブ」とは?

 2012年2月に地球と宇宙をつなぐ「宇宙エレベーター建設構想」を公表、2050年の完成を目指すことを明らかにした大林組。その現状や展望、また今回始まったカーボンナノチューブの耐久性実験について、同社宇宙エレベーター要素技術実証研究開発チーム幹事の石川洋二さんに話を聞きました。

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――カーボンナノチューブ耐久性実験の内容、目的についてお教えください。

 宇宙環境にカーボンナノチューブ材料を1〜2年間曝露し、その耐久性を確認します。実際に宇宙エレベーターでそれを使用する際は、紫外線や宇宙線などが飛び交う宇宙環境に何十年間もさらされるわけですが、カーボンナノチューブがそうした環境においてどのくらい実用に耐えられるのかはわかっておらず、今回の実験がその第一歩となります。

――そもそも「カーボンナノチューブ」とはどういった素材なのでしょうか?

 カーボン、すなわち炭素100%の素材です。「ナノ」とはとても小さい単位のことで、つまり「非常に小さいカーボンで作られたチューブ」ということになります。“引っ張りに耐えられる強さ”が特徴で、地上にあるもので最も強いと考えられており、鋼鉄の20倍程度の引っ張りに耐えられるとされています。また、その軽さも特徴です。

 吊り橋のワイヤーや海洋に浮かべる構造物をつなぐケーブルなどにも使えないかと考えていますが、価格がかなり高いため、建設用に使うにはまだハードルが高いですね。それにカーボン結晶の紐は、まだ長さ3cm程度しか作れないので、ケーブルとしての実用段階にはありません。今回の曝露実験では長さ2mmの繊維を寄り合わせ、10cmぐらいにして使っています。

――「カーボンナノチューブにより宇宙エレベーターが実現する」とされる理由はなんでしょうか?

 たとえば宇宙エレベーターのケーブルに鉄を使うとすると、引っ張りの強度が足りず、とてつもなく太くしないと耐えられません。なので、これまでの材料では非現実的でした。その状況を一変させたのがカーボンナノチューブの発明です。引っ張りにも強いことが分かり、現実的なレベルの太さで宇宙エレベーターのケーブルを作れる可能性が出てきたのです。

「宇宙エレベーター」は宇宙行きの電車?

――大林組で宇宙エレベーターの建設を検討したきっかけはなんでしょうか?

 バブルの頃には、すでに宇宙関係の部署がありました。その後、2012年に東京スカイツリーの竣工があり、このとき「塔を造る技術を極める」「究極のタワーを」ということで、建設構想を打ち立てました。

――どのように地上と宇宙を結ぶのでしょうか?

 静止軌道(地球の引力がゼロになるところ。赤道上だと高度約3万6000km)ステーションから、上下にケーブルが延びているとお考えください。ケーブルの長さは約10万kmで、一端は地上(アースポート)、もう一端は宇宙です。

 このケーブルは地球の自転と同期しており、24時間で1周します。また、自転による遠心力でケーブルが宇宙側へ引っ張られ、直立します。

 そして宇宙側の端には、遠心力と地球の引力とのバランスを取るため、カウンターウェイトを置きます。これがない場合、つまりケーブルの重さだけでバランスを取る場合、ケーブルの長さは14万4000kmも必要になってしまいます。

――宇宙エレベーターのケーブルには、そうした遠心力など様々な力が働くため、先出した「引っ張りの強度」が必要なわけですね。エレベーターを宇宙まで引き上げる動力はどうするのでしょうか?

 電力です。クライマー(昇降機)は電気で駆動し、車輪で上っていきます。電車をイメージしてみてください。エネルギーの供給は、地上から無線送電することを考えています。

――風や天候に影響されないのでしょうか?

 風が吹く領域はごくわずかで、地上10km程度までです。全長約10万kmのスケールだと、それほど影響はありません。雷についてはこれからの研究課題です。

いったいどうやって建設する?

――アースポートは赤道上の海上に建設するといいますが、なぜですか?

 海上に作るのはセキュリティの問題で、ホテルや飛行場は陸地に造る構想です。具体的な場所はまだ未定ですが。

 また赤道の直上にケーブルを引く理由は、遠心力と地球の引力のバランスを取るためです。アースポートについては、北緯35度から南緯35度のあいだでずらしても大丈夫という説もありますが、そうした場合、ケーブルを斜めに引くことになります。そのぶん長さが無駄になってしまうので、アースポートも赤道上に置こうというわけです。

――話に出てくる数字の大きさにも表れているように、まさに壮大な計画です。そんな巨大構造物を、どのように建造するのでしょうか?

 まずケーブルを作るのが大仕事ですね。最終的には1本のケーブルとなり、これが7000tの重さなります。まずロケットで20tのケーブルを静止軌道まで運び、上下に延ばしていき、地球側に垂らしたケーブルを地上でつなぎ留め、ここまでが第一段階です。第二段階からケーブルを太く補強していく工程になります。第一段階が1年、第二段階の補強に18年を想定しています。

――建設開始はいつ頃を予定しているのでしょうか?

 2030年を予定していますが、いまの技術ではまだ不可能な技術的課題が残されています。なので、これから10年以内にそれらの技術開発が必要です。カーボンナノチューブの長さと強さ、10万km先までの無線送電、実用に耐えうるクライマーの開発。この3つの研究が必要ですね。

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「宇宙エレベーター」、課題は残されているとはいえ、実現へ向けて着実に動き始めています。35年後、そこにはかつてSF作家たちが夢想した「未来の乗りもの」が、きっと現実のものとなっていることでしょう。