「黒板を消してるぼくを消してくれ」 『お〜いお茶新俳句大賞』26年の歴史から応募者の人生が窺えた

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美味しいものが一年中食べられたり、エアコンは便利だったり、なかなか季節を感じられない世の中になったものだ……と思ったのも束の間、やっぱ暑いっすねぇ。何だかんだで、しっかり夏を感じています。
この気分を、何かに反映できないだろうか? 例えば夏の気分を季語にして、お茶でも飲みながら俳句を作ってみたり。お〜い、お茶!

そういえば、皆さんおなじみ「伊藤園 お〜いお茶新俳句大賞」が今年で26年目(平成元年からスタート)を迎えたそうです。この深くて長い歴史が、なんと1冊の書籍としてまとまりました。7月7日に発売されるは、その名も『お〜い俳句 伊藤園お〜いお茶新俳句大賞傑作選』(マガジンハウス刊)。

「年明けにテレビ東京『共感百景』という番組を観ていたのですが、日常の“あるある”を短い言葉で表現する文学を改めて面白いと感じました。そんな時に何気なく『お〜いお茶』のパッケージを見たら、ほのぼのした作品の中に鋭く心に刺さる作品が紛れていることに気付いたんです」(マガジンハウス担当者)
調べてみると「お〜いお茶新俳句大賞」には26年の歴史があるし、応募人数や年齢層は国内最大級のスケールだし、キャッチフレーズは「心の風景を、書きとめよう」だし……。「これは、多くの人の“心の風景”=“あるある”が集まっているに違いない!」と、書籍化につながったようです。

ちなみに皆さん、同大賞にどんなイメージを持っています? ふんわりした作品ばかりとでも? とんでもない!
なにせ、26年間の累計応募総数は2800万句を超えており、応募者の年齢層は“小学校入学前の子ども”から“100歳を超えるお年寄り”までと、とんでもないレンジを誇っています。ならば、エッジの効いた作品だって寄せられてるに決まってる。
例えば、以下のような……。

●「おでんの日ちくわの中におにいちゃん」(富山県・小川颯・7歳)

●「二次元に恋をしたっていいじゃんか」(鹿児島県・田中菜奈・17歳)
●「ただいまにアンパン一つこたつの上」(香川県・高木晴・9歳)
●「暖房があるのにつけない化学教諭」(長崎県・末續耕平・18歳)

●「黒板を消してるぼくを消してくれ」(埼玉県・長井順平・17歳)

●「提案もなくて会議の窓に鳩」(東京都・高木達樹・37歳)

「おでんの日〜」からは得体の知れないスペイシーな発想力がうかがえるし、「ただいまに〜」からは9歳とは思えない哀愁を感じます。「暖房が〜」から漂う強烈な批評(皮肉)精神には共感するし、「黒板を〜」では“表現に向かうしかない思春期ゆえの刺”がみずみずしく感じられました。

ここで私が言いたいのは、作品の一つ一つから応募者の人生が透けて見えるということ。この辺をより掘り下げるべく、担当者さんにお話を伺いましょう。結果、同俳句大賞には知られざるエピソードがあるということが判明しています。
「これまでの入賞作品を振り返ると、100歳を超える方からの応募を何件も見かけ、第19回では実際に100歳の方が文部科学大臣賞を受賞しました。受賞作を石碑に刻んだ受賞者の方もいるようです。ちなみに現時点での最高齢応募者は105歳の方で、『ユニーク賞』を受賞しています」(マガジンハウス担当者)
せっかくだから、それらの作品もご紹介しましょうか。

●「百才の笑みこぼしつつ星祭る」(東京都・石本イト・100歳)※第19回 文部科学大臣賞
●「生きてただ生きて百五や初点前」(栃木県・佐藤利夫・105歳)※第3回 ユニーク賞

「『季語はあってもなくてもいい、定型にこだわらない』という自由なコンテストなので、子どもも100歳前後のご長寿の方も垣根なく応募しやすいのではないでしょうか」(マガジンハウス担当者)

もちろん書籍でも、応募者の「俳句」と「人生」にまつわるエピソードの数々が紹介されています。「父母子で応募し、全ての作品が入賞した3人家族がいる(確率は約10億分の1!)」、「高校時代に3年連続で入選した女性が高校教諭となり、34人の教え子を入選させた」、「海外74カ国からも応募があり、『英語俳句の部』も設けられている」などなど、それぞれの逸話が一人ひとりの人生を伝わらせますよ……!

「本書では26年分の作品を扱っており、応募当時からだいぶ時間が経過しているケースもあります。出版に際し作者の方にお知らせをしたところ、なかには残念ながらお亡くなりになっている方もいらっしゃいました……。その時はご家族が対応くださり、『本を仏壇に飾ります』と言ってくださいました」(マガジンハウス担当者)

他にも「応募当時は小さい子どもだったが今は大きくなり、家を離れて○○の仕事をしているんですよ」と懐かしそうに近況を語ってくれるご家族もいたそう。受賞したその時だけでなく、何年経っても作者とその家族の思い出の1ページに「伊藤園 お〜いお茶新俳句大賞」は深く刻まれているようです。

そんな同大賞の第26回入賞作品は「伊藤園新俳句大賞」のサイトにて7月7日に公開されるとのこと。どんな俳句が、大賞を受賞するのか? ワクワクしつつ、お茶を飲みつつ、発表を待ちましょうか。お〜い、お茶!
(寺西ジャジューカ)