ノロウイルスが日本中で猛威をふるっている。まだその勢いは止まらないようだ。過去最多といわれる患者報告数になっている同ウイルスに関して、その由来と対処法をまとめておきたい。

 テレビ媒体でもすっかりおなじみになったこのウイルスは、その由来もよく知られるようになってきた。1968年に米オハイオ州ノーウォークの小学校で集団発生したことからノーウォークウイルスと呼ばれていたが、72年にそのウイルスを電子顕微鏡により同定。同ウイルスがウイルスの中でも比較的小さなもので、球形をしていたことから「小型球形ウイルス(SRSV)」とその後呼ばれていたものが、02年に国際ウイルス学会でノロウイルスと正式に命名された。日本でも翌年の食品衛生法の改正を機に、このノロウイルスの名称を使うようになったものだ。

 これもまたよく知られるようになったその感染経路は、カキやアサリといった二枚貝の生食による食中毒のほか、感染した人の便やおう吐物あるいはそれが乾燥したものの塵埃(じんあい)による経口感染があるとされる。全国の集団感染の中でも、東京・池袋の有名ホテルで起こったものは、客のおう吐物の消毒が不十分だったために、カーペットに残されたおう吐物が乾燥、ウイルスが空中飛散して次々感染したといわれている。事実なら恐ろしいことだろう。

 こうした例でも分かるように、ウイルスはヒトの体内でものすごい勢いで増えるし、一部は胃に逆流しおう吐物としてまき散らされる。さらにヒトに感染するときには、わずか10個程度でも十分に感染力を持つとされるので、かなりの注意と予防の努力が必要になるということだ。

 一度感染すると、24〜48時間で発症。症状は激しい下痢やおう吐、発熱などだが、通常3日以内で回復する。普通の免疫力を持っている人は心配ないものの、体力のない子どもや老人の場合に肺炎などを併発して死に至るケースもあり得るので、十分な注意が必要となる。

 さて予防法。これは、手洗いの励行に尽きるだろう。世の中にはトイレに行っても手を洗わない人がかなりの割合で存在するらしいが、これは極めて危険だ。感染経路等を考えても、トイレの便器やドアノブ、手洗い場での感染も十分に考えられるので完全な消毒が求められることを意識したい。

 その際、一般的なアルコール消毒液や逆性せっけんでは効果的な除去はできにくいとされている。そこで最近、メディアでも盛んに喧伝(けんでん)されているのが「次亜塩素酸ナトリウム」。これは台所用塩素系漂白剤の主成分になっているもので、いわゆる「○○ハイター」とか呼ばれているものだ。こうした漂白剤でふきんやまな板、食器その他を洗浄することは日常で大いにススメられる消毒法といえるだろう。また、熱に弱いので食品は必ず加熱すること。

 話は少し変わるが、皆さんは細菌とウイルスの違いをご存じだろうか。カゼにも細菌性のカゼとウイルス性のものがあり、ウイルス性の代表格がインフルエンザ。その違いは理解しておいた方が対処しやすい。

 ひと言でいうと、細菌は自己増殖できる単細胞生物だが、ウイルスは単体では増殖できない。必ず生物の細胞に侵入してその力を借りて増殖していく。その性状から生物と無生物の中間に当たるようなものといわれる所以(ゆえん)である。

 また、大きさも特徴的な指標で、ここでは詳しく説明しないがウイルスは細菌よりかなりの程度小さい。さらに、細菌にはいわゆる抗生物質が効くが、ウイルスには役に立たないこともこの際、覚えておきたい。

 05年の統計では食中毒の総患者数は約2万7000人。ノロウイルスはこの約32%を占め、患者数では第1位。これまで初冬から春先にかけてのカゼで、激しい下痢症状を伴う種類とされていたものも、実際にはこのノロウイルスを原因にしていたことは考えられる。カゼの場合と同様に、手洗いやうがいが非常に有効であることをシッカリ肝に銘じておくことが必要だろう。【了】

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国立感染症研究所