飲み過ぎ食べ過ぎで気をつけたい「逆流性食道炎」の注意点

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■年末年始の飲み過ぎ食べ過ぎに要注意!

年末年始は職場の仲間や友人、家族との会食、宴会が多く、飲み過ぎ食べ過ぎになりやすい。そんな時期こそ気をつけたいのが「胃食道逆流症(逆流性食道炎)」だ。

典型的な症状は、胸焼け、ゲップ、酸っぱいものがこみあげてくる、胸の痛みや違和感。なかには、胃酸が逆流し夜中に目覚めてしまったり仕事に支障をきたしたりする人もいる。背中の曲がった高齢女性やお腹が出たメタボリックシンドローム体型の男性に多い病気だが、暴飲暴食が続いたり寝る前に飲食したりすれば誰でもなる可能性がある。週に何回も胸焼けなどの症状がある、あるいは、そのために生活に支障が出ている場合には治療を受けたほうがいいだろう。

そもそも食道と胃の間には「括約筋」があり、飲食したものの逆流を防いでいる。しかし、揚げ物など脂っこいものを食べたり、一度に大量に飲食したりすると一時的に括約筋が緩んで食道のぜん動運動が弱まり胃酸の逆流が起き、胸焼けなど不快な症状を引き起こす。メタボ体型の人は、腹部についた脂肪で胃が圧迫され逆流が起きやすいという。

食道には胃酸を防御する機能はないため、たびたび胃酸が逆流すると炎症が生じ痛みや不快感を引き起こす。炎症があると逆流性食道炎と呼ばれることもある。ただ、胃食道逆流症と診断された人の6〜7割は炎症がないのに痛みや症状がある人で、ストレスなどで知覚過敏になり、炎症がなくても痛みなどを感じやすくなっているとみられる。

40代の会社員・A子さんは、30代の前半頃から職場の付き合いで飲んで帰ることや残業で夜10時以降に夕食をとる日が多く、食べてすぐに入浴しベッドに入る日々が続いていた。そのうち、酸っぱくて茶色い液体が寝ている間に急に出て、たびたび飛び起きるようになった。ひどいときには枕やパジャマが茶色に染まり、夜中に着替えなければならない日もあったという。

「いま考えれば、胃酸が逆流していたのだと思いますが、そのときは単なる飲み過ぎのせいで病気だとは思ってもみませんでした」

生活習慣の改善で症状が治まる人も

そう話すA子さんが病院へ行き「胃食道逆流症」と診断されたのは、最初にそういった症状が出てから約10年後のことだった。A子さんの場合、食道が胃酸で変化し、「バレット食道」と呼ばれる状態になっていた。

食道はもともと「扁平上皮」と呼ばれる粘膜で覆われている。バレッド食道とは、何度も胃酸の逆流を繰り返すうちに、食道の粘膜が胃と同じ「円柱上皮」に変化すること。そこまで進む人は今のところ日本人には少ないが、バレッド食道になると食道がんになるリスクが20〜30倍に高くなる。ちなみに、A子さんはメタボ体型ではなくスリムな女性だ。

胃食道逆流症の治療には、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)の服用が有効である。市販のH2ブロッカーで症状が改善すればいいが、H2ブロッカーはPPIに比べて日中の胃酸を抑える力が弱い。市販薬でよくならない場合には、消化器内科のある医療機関を受診してみよう。

また、脂肪分の多い食事、暴飲暴食、早食いをやめ、就寝前3時間は食べないようにするなど、生活習慣を改善しただけで症状がほとんどなくなる人もいる。便秘だと胃が圧迫されて胃酸の逆流が起きやすいので便秘を解消し、知覚過敏にならないようストレスと上手に付き合うことも大切だ。かなり稀だが、PPIが効かず、食道の筋肉が厚くなって食道運動異常が起きているようなら手術が有効な場合もある。

この病気が増えているのは、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の保菌者が減少していることも一因といわれる。ピロリ菌が胃の粘膜にすみつくと慢性胃炎や萎縮性胃炎が起こって胃酸の分泌量が減るため、胃食道逆流症は起こりにくくなるからだ。ピロリ菌陰性の人は、陽性の人に比べて、胃食道逆流症の発症率が2〜5倍高いという。

40代以下の人はピロリ菌の保菌率が低く、胃酸の分泌を促すスナック菓子やファストフードを子供のときから大量に食べている人が多いのでなおさら胃食道逆流症になりやすい。ピロリ菌の除菌をした人は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんになるリスクは下がるが、胃食道逆流症を発症しやすくなるので注意しよう。

(医療ジャーナリスト 福島安紀=文)