【24耐】レースカーに隠された秘密とは?「ニュルブルクリンク耐久レース」SUBARUチームインタビュー
ドイツの人口200人足らずの町、ニュルブルク。この小さな町が6月20日〜21日、熱く燃え上がる。ニュルブルクにあるサーキット「ニュルブルクリンク」で24時間耐久レースが開催されるのだ。世界中から集まった「我こそ世界一」と豪語する車メーカー、ドライバー、そしてメカニックの男達が熱い戦いを繰り広げる。
■STIチーム総監督 辰己英治の戦慄
今から20年前。辰己英治(現STI「SUBARU TECNICA INTERNATIONAL」チーム総監督)は、このニュルブルクリンクに足を運んだ。そこには驚愕の世界が広がっていた。
日本では当然の如く極秘のテストコースで行われる新型車のテスト走行を、欧州車メーカーは、堂々とこのサーキットで行っていたのだ。レストランに極秘の塊であるテストカーで乗り付ける光景を見て、辰己は戦慄を覚えた。「日本のクルマはこのままでは欧州車に負け続ける」。
■そしてニュルブルクリンク24時間耐久レース参戦へ
路面は日本の整備されたサーキットとはほど遠い「悪路」と言ってよいコンディションで、日本では当たり前の安全地帯もない。日本の一般道路の悪い方に近いと言ってもよいコースコンディションに辰己は「ここだ。ここが一番ユーザーに近いテストができる。」と考えた。
そして開発途上のSUBARU車のテストを、ここニュルブルクリンクで繰り返し、15年の歳月が流れた。そして6年前、SUBARUはニュルブルクリンク24時間耐久レースに参戦を断行した。
辰己は断言する。
「世界一のクルマとはっきり言える根拠とは何か。それはレースで優勝した車だ。しかし、一般道を気持ちよく走るための技術とレースで早く走るための技術は、実は同じ技術ということが、戦っていく中でわかった。ということはレースで優勝したクルマは、世界一の気持ちいいクルマとも誇れる。
技術屋に生まれたからには、一番のクルマを作りたい、NO.1であることが、SUBARUに関係する全員の誇りになるんだよ。SUBARU車に乗る人にも、世界一のクルマと堂々と言うことができる。ニュルブルクリンク24時間耐久レースは、何といっても楽しいね」
■レースカーに隠された秘密
ニュルブルクリンク24時間耐久レースに出場するレースカーは、変わっているのは外見だけで、実は中身は市販車とほとんど変わらない。エンジンに至っては市販車のエンジンを多少改造したもの。ニュルブルクリンクは前述したとおり、一般道路に近いサーキットなので、そこにもてあそぶだけのGT向け大馬力のエンジンはいらないとの結論だ。
それよりも24時間無事に走りきってくれる信頼性について、辰己は「結局いきつくのは、試行錯誤して造り込んだ市販車の部品が、最高の信頼性を持っているということ」と言う。そしてそれがレース勝利への最重要ポイントだと考えている。
現にSUBARUは参戦してから、「6年連続完走」の快挙を成し遂げている。部品の一つ一つに最高の信頼性がなければできないことであることは間違いない。
「選べるなら、なるべく量産品を使う。レースのためだけに作られた部品は、24時間走っている中で、壊れないかハラハラさせるよ。量産品にはそれがないから安心だね」
このように辰己が言う意味を、筆者はこう解釈する。ノーマルパーツ(量産品)の性能に絶対の自信があるからレースに使う。それがドライバーに安心感を与えて、「この部品は大丈夫だろうか、あの部品は大丈夫だろうか」と、ドライバーが潜在的に感じるハラハラ感からくる操縦ミスを減らしてくれる。
確かに24時間保たない部品がどうやって、より様々な環境に置かれる市販車に使われて10年10万キロ以上、保つことがあろうか。
■日本車の底力を結集。そこにドラマが……
今年のニュルブルクリンク24時間耐久レースには、現在はトヨタ、ニッサン、今年からはマツダもロードスターで参戦する。そして辰己はライバル関係にある日本他メーカー参戦を大いに歓迎している。
「例えば、トヨタさんはうち(SUBARU)より比較にならないくらい、でかい影響力をもっている。そのトヨタが参戦するというのは、実は日本の自動車メーカーが活気づく要素なんですよ。日本車ファンがいなかったら、レースはただ車が走っているだけの茶番劇にすぎない」
たしかに、その通りだ。見てくれる人がいなかったら、テストコースを走っているのと、全く同じつまらないものになるだろう。辰己は続ける。
「SUBARUの市販車ベースの車が24時間走り続けるそのドラマを楽しんでほしい。ただ車は『たすき・バトン』に過ぎない。人間のドラマがそこにあるんだよ。
裏方だけど、メカニックの活躍も是非見てほしいな。今年は12名中、6名を全国のSUBARUディーラーの現役メカニックから選抜した。普段はディーラーで整備を黙々とやっているメカニックが24時間のうち、たった1秒を削る思いで、タイヤ交換する生き様を見てほしいね。ドライバーもアスリートだけど、メカニックもアスリートである必要があるんだよ」
■ドライバー、吉田寿博と佐々木孝太の熱い思い
ニュルブルクリンク24時間耐久レースは日本人2名と外国人2名の4名のドライバーが参戦する。
吉田寿博は「勝つために行く。ドライバーのミスを極力減らす体制ができあがっている」と断言し、佐々木孝太は「1年に一度しかないレースで昨年は負けた(2位)。とても悔しかった気持ちは、総監督の辰己にも、ドライバーにもメカニックにも広がっている」とチームの士気の高さを語ってくれた。
ドライバーがコンスタントにラップを重ねる。文字でいうのはいかにも簡単。交代もあるが、ひとりあたま平均8時間、コンディションが良いとは言えないニュルブルクリンクでのコースでぶっ通しの限界状態が続くのだ。なんと言っても、1台しかないマシンの操縦に常にミスは許されない。
しかしながら、どんなピンチが起こるかわからないその緊張感を、見ている側だけでなく、総監督・ドライバー・メカニックの勝負している側も、警戒しつつ楽しんでいると、両ドライバーは笑顔で語ってくれた。やはり、ニュルブルクリンク24時間耐久レースは、「世界一の草レース」なのだ。緊張感の中にこそ、本当の楽しさがある。
■ファンへの恩返しが最大のつとめ
「注目ポイントは、もちろん車なんですが、実はピット作業の光景。裏方の仕事ぶりも是非見てほしい。Ustreamの生放送が楽しみですね」と佐々木。
ふたりとも日本から生放送をみてツイートされてくるサポーターのメッセージを喜んで見ているという。そしてそのツイートから、活を入れるパワーを得られるとのこと。サッカーの日本代表と同じ気持ちで、自分たちはSUBARU代表ではなく、日本代表としてニュルブルクリンクに行っている想いに等しいと、ふたりから心強い言葉をもらった。
また、SUBARUファンだけでなく、Ustreamを見る人にぜひサポーターになってほしいという言葉もあった。サポーターは一緒に戦っている気持ちにされてくれる貴重な存在だと、ふたりは口を揃えて言う。ぜひ最後まで戦う男の様を見届けてほしい。
ブラジルではサッカーワールドカップが開幕し、日本のチームプレーが注目されているが、『ニュルブルクリンク24時間耐久レース』もチームプレーの塊であることがおわかりいただけるであろう。モータースポーツはエンジンが車を動かすのではなく、心が車を動かす。そんな気分に浸れる2日間(6月20日予選、6月21日決勝)を是非堪能しようではないか。
24時間をチームで戦い抜く熱い男のドラマを、SUBARUではUstreamでスタートからゴールまですべて生中継! これは「必見」の2文字がふさわしい。