25、26日の両日、東京ドームで「2012グループスMLB開幕戦」のプレシーズンゲームが行われた。阪神タイガースシアトル・マリナーズオークランド・アスレチックスに連勝し、アスレチックスに破れた読売ジャイアンツはマリナーズに勝利した。

 マリナーズとアスレチックスは28日の開幕戦で戦い、ジャイアンツとタイガースは30日、それぞれ東京ヤクルトスワローズ横浜DeNAベイスターズと激突する。
 
 25日のジャイアンツ対アスレチックス戦、26日のジャイアンツ対マリナーズ戦をそれぞれテレビ観戦したのだが、試合の結果や内容よりも、日米の文化の違いの方が興味深かった。 

 例えば、投手の牽制球に対するファンの反応。対アスレチックス戦では、ジャイアンツは2回に1点を失い、なおも2死ながら走者1、3塁のピンチを招いた。そこでジャイアンツの先発投手、宮國椋丞が2度、3塁に牽制球を放る素振りを見せたのだが、そのとたん、スタンドのアスレチックスのファンからブーイングが起きた。
 わが国でも、なかなか打者に投げようとしない投手はブーイングを浴びるが、それはファンによるささやかな援護射撃。ファンは、相手チームの投手の気を少しでも紛らわせようと、ブーイングをする。
 方やメジャーリーグではときに、敵味方問わず、投手にブーイングすることがある。「俺たちは退屈しているんだ。さっさと投げてくれよ」とヤジを飛ばす。

 なかなかストライクゾーンに投げない投手も、ブーイングの標的になる。投手が相手打者をノーボール・2ストライクに追い込んだら、わが国ではバッテリーがボールゾーンに1、2球、多いときには3球放ることは、ファンも織り込み済みだ。
 これに対しメジャーリーグでいっきに3球勝負に挑むことが多いのは、先発投手の球数制限もさることながら、ファンサービスの意味合いもある。2ストライクに追い込んだのに、なかなか勝負を挑まない投手はファンから嫌われる。同じ理由で、捕手のサインに何度も首を振る投手は、好かれない。

 実況・解説も、いかにも日本風だった。アスレチックスのブライアン・フエンテスは、変則的なサイドハンドの投手。その特異なフォームから、コロラド・ロッキーズ時代は「T−REX(ティラノザウルス)」と呼ばれていたが、解説者は「日本なら、すぐにコーチに修正される」と指摘した。
 また、試合開始直前にも関わらず、熱心な守備練習を繰り返す日本人選手に驚きを隠せないメジャーリーガーの声も紹介していた。(わが国では、試合開始前のノックは当たり前の光景だが、メジャーリーグでは選手はウォーミングアップ程度しかしない)

 日本びいきの解説・コメントも多かった。実況・解説者は、アスレチックスの捕手、カート・スズキ日系アメリカ人3世であることを何度も紹介。そのカート・スズキが対ジャイアンツ戦でヒーローに選ばれると、インタビューでは開幕戦での対イチロー対策に質問が集中した。
 ジャイアンツ対マリナーズ戦では、「マリナーズの本拠地であるシアトルには親日家が多い」とし、その理由に、これまで多くの日本人選手が在籍し、活躍したことを挙げた。

 日本の放送局による日本人向けの中継だから当然と言えば当然だが、アスレチックスのファンはカート・スズキのバックグラウンドよりもチームの調子、開幕戦の対イチローよりも対マリナーズ対策を聞きたかったのではなかろうか。
 シアトルにはたして親日家が多いかはわからないが、日本人メジャーリーガーにそこまで影響力があるのかは疑問だ。

 このように日米の異文化交流野球対ベースボールに興味が集中したこのカードだが、わが国の野球とアメリカのベースボールに優劣をつけるつもりはない。むしろ、互いの文化を尊重しつつ、ときに異文化に触れ、自分たちの文化を改めて見直すことの方が重要だ。

 ただ、わが国はやはり野球の方があっているのだろう。野球は実に日本的だ。投手が相手打者を追い込んでも勝負に慎重になるのは、石橋を叩いて渡る国民性に合っている。われわれの一般社会でも、事前に綿密な調査を行い、会議に会議を重ねてから決断を下している。
 選手が試合開始直前まで練習を繰り返すことも、調査と会議を重ねることで失敗の危険性を最小化する一般社会に通じるものがある。

 また、わが国は先達が築き上げてきた型に美を見出している弓道華道茶道と同じように、野球も試合結果や内容ぐらい、ときにはそれ以上に型やフォームに重点が置かれている。

 これらの国民性は、グローバル・スタンダードとは言い難い。特に、物事の決定に慎重な姿勢については、日本人は会議好きと揶揄されている。日本の練習風景は、練習のための練習と言われている。
 型やフォームに拘る姿勢についてもそうだ。外国人が華道や茶道などに興味を示すことはあるが、野球のフォームの重要性については理解されているとは言い難い。

 国際的には異端とも見られるわが国の国民性だが、少なくとも日本人は自らの国民性に安心感を覚え、美を見出している。このことはプロ野球にも明確に現れている。

 わが国でもメジャーリーグ人気が高まって久しい。日本人スター選手が毎年のように海を渡り、ファンの興味もメジャーリーグに向けられている。
 これについて球界では危機感が強まっているが、野球が日本人の国民性を反映している限り、少なくとも、いっきにメジャーリーグにその牙城を崩されることはないのではなかろうか
 そんなことを、プレシーズンゲームを見ながら思った。