――撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?

黒沢:現場にいる時は楽しくて仕方がなかったです。実際、監督がつくった作品は様々な側面を持った複数の猟奇的殺人事件をインスパイアされてご自身で台本を書きあげたものなんですけれども、現場は本当に家族って感じ。監督を中心に家族という絆が一本一本増えていって、細かった糸が太くなって連帯に繋がっていく、そういうものを感じられる現場でした。

――黒沢さんが園監督をかなりリスペクトされているというお話を伺ったのですが、どのような面に惹かれたのでしょうか?

黒沢:愛子を演じるには、やっぱり園監督じゃないと駄目だなって、傍にいて感じました。監督は私が演じる愛子に「こうして欲しい」ということがあれば、すぐにモニターの前から走って来られて、傍で直接助言してくださるんです。そういう姿を見せてくださるとやはり共に作っているんだなぁって気持ちを私に与えてくれます。そうするとやっぱり園監督が喜ぶことを、私が出来る限りの力を持ってお返ししたい、表現したいっていう風になって行く。あれは魔法?魔法を一日一日かけられていくんですかね(笑)

――園監督は、大変魅力がある監督なのですね。

黒沢:監督ご自身が多分純粋な方ですね。決して、驕るでもない、粗ぶるわけでもない。お酒を飲んだら別ですけど(笑)。だけど、映画を作るにあたっての監督ご自身の生き様って言うのは枠を超えている。外れて飛び抜けている。そういうことは感じられました。

――特にどの部分で飛び抜けていると感じましたか?

黒沢:特に血糊を使うシーン。そこにはものすごくこだわりを持っていらっしゃいました(笑)。

――それはすごいですね(笑)。他にも演技指導などで枠を超えていると感じた部分はありますか?

黒沢:台本はきっちりしたものはあるけれど、そこに演じる俳優達が台詞や動きを合わせていくと、そこから新しい台詞が監督の中に浮かんできたり、演じている私達の中にも言葉がぽんと喉をついて飛び出たりするんですね。一応、枠はあるけれども「自然の動きの中で沸き立ってきたものは押し込める必要はない」「アイディアがあればどんどん出してくれていい」「気持ちが繋がっていればそれでいい」とおっしゃる監督で、そう感じました。

――熱帯魚店を営む狂気の男・村田役のでんでんさんの演技がかなり強烈な印象を受けましたが、その妻役として演じて黒沢さんはどのように感じましたか?

黒沢:私も家庭があるのですが、でんでんさんも娘さんがいて家庭を築いてらっしゃる。あくまでも俳優は仕事であって、仕事とは離れたもう一つの世界“家庭”を本当に大切に日々生活されていて、すごく真面目な方です。その真面目な方が村田のような役を演じるからこそ、観る者に多大なる影響と何とも言えない凄みを見せることができるんだなと傍にいて思いましたね。

――狂気の男・村田と一緒に悪行を重ねる顧問弁護士の筒井、本当にこんな人物がいたら惹かれますか?

黒沢:ないですね。なんか嫌ですね(笑)

――敢えて選ぶとしたら?

黒沢:自分に置き換えるとしたら、選ばないですね(笑)。何か、ぬめっとしている世界観が嫌です。それを想像するだけで生理的に嫌だって思います。それだけ強烈なんです。あっ、役が嫌いということで、でんでんさんや哲さんが嫌いと言うわけではないです(笑)。筒井を演じた哲さんもすごく真面目で紳士な方ですよ。哲さんとは肌を合せなければいけないシーンがありましたけど、女優に対して、こんな私に対しても「大丈夫?」「痛くない?」「僕はこういう風にするからね」と言って、本当に演じることとは別に、サポートしてくださる所に本当に救われました。だから逆に伸び伸びできました。別に肌を合せる役回りではなくても、人に心を懸けるそういう余裕がある方、懐が深い方は、こんなにも頑なになりそうな気持ちをほぐしてくれて、ダイナミックに自分が演じられるようにしてくれるんだなと。本当に救われました。