■数学の理論を五感で学ぶ

元国税局職員で日本お笑い数学協会のメンバーでもあるお笑い芸人のさんきゅう倉田さんから、「数学を単に教科書に示された数式や図形から理解するのではなく、目で見ながら体験学習できる場所があるので行ってみませんか」と誘われて向かったのが、東京のJR総武線・飯田橋駅から歩いて5分ほどの東京理科大学「数学体験館」だ。

写真=iStock.com/Imgorthand

展示されているのは、館長である数学者の秋山仁氏がNHK教育テレビの番組に出演していた際、高校生や中学生、そして小学生にわかりやすく説明するために作った70点ほどの模型や教具だ。

「無味乾燥に感じがちな数学の世界を五感で体感し、いかに自分たちに身近なものであるのかを理解していただくことと、教師を目指す学生が教えることを練習する場所づくりを目的に、2013年10月にオープンしました」と技術員の山口康之さんはいう。

もちろん、大人でも十分に楽しめて、「へぇ〜」「なるほど」と感心するものばかり。山口さんがビジネスパーソンにお勧めの教材として紹介してくれたのが「二項分布パチンコ」である。板に等間隔に釘が打たれ、下にはA〜Iまで9つのレーンが設けられている。そして上の中心部からいくつもの小玉を転がすのだが、その前に「下のレーンにどのように集まると思いますか」と、山口さんから問題が出された。

「釘は等間隔なのだから、すべてのレーンに同じ数の小玉が分散されるんじゃないですか」と答えると、「では、実際にどうなるかやってみましょう」といいながら山口さんが小玉を流し始めた。すると驚くことに、真ん中のEのレーンに一番多くの小玉が集まり、両端にいくほど少なくなっているではないか。残念ながら、正答することができなかった。

「ほぼ左右対称の山形になりましたね。最上段の中央の釘にぶつかった小玉が2段目以降のそれぞれの釘まで落下する経路の個数は、いわゆる『二項係数』で表せます。したがって、小玉の分布は統計の基本である二項分布の形に近づくのです」と山口さんは説明する。

実は、このことはビジネスの現場にも応用ができる。たとえば、衣料品店の店主が5種類のサイズがある服の仕入れを考えていたとする。問題は各サイズの仕入れの量なのだが、真ん中のサイズを平均身長に合わせてあるのなら、そのサイズの服を一番多く用意しておき、両端のサイズの服の量を少しずつ少なく用意すればいい。そのことを理屈ではなく、体感を通して理解できるのが、数学音痴のビジネスパーソンにとっては本当にありがたい。

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東京理科大学 数学体験館
住所●東京都新宿区神楽坂1-3 近代科学資料館 地下1階 開館時間●12:00〜16:00(土曜・日曜10:00〜16:00) 休館日●月曜・火曜・祝日、大学の休業日 入場料●無料

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(プレジデント編集部 伊藤 博之 撮影=加々美義人 写真=iStock.com)