濃霧や台風で試合が中止になったケースに出くわしたことはあるが、選手を乗せたバスが渋滞に巻き込まれ、到着が開始時刻に間に合うかどうかが危ぶまれるというのは、これが初の経験だ。

 ウォーミングアップもそこそこに始まることになったベネズエラ戦。観客の多くも同様に渋滞に巻き込まれていたので、スタンドには空席が目立った。試合は、どこか緊張感を欠く緩いムードのなかで滑り出した。


ベネズエラ戦で先制ゴールを決めた酒井宏樹

 そんな序盤、チャンスを多くつかんだのはベネズエラだった。前半12分、ゴール前でワンツーを阻止しようとした佐々木翔(サンフレッチェ広島)のクリアが日本ゴール前へ。反応したのは、武藤嘉紀(ニューカッスル)のチームメイトで、今季、彼より多い出場時間を誇るFWサロモン・ロンドンだった。代表初キャップのGKシュミット・ダニエル(ベガルダ仙台)をかわし、日本ゴールにシュートを流し込んだかに見えた。

 日本に幸いしたのは、そのシュートが優しかったこと。右足アウトで放たれたシュートがゴールに入る直前にCBの冨安健洋(シント・トロインデン)が際どく掻き出したのだが、試合前の準備が行き届き、身体が温まっていれば、シュートは決まっていたと思わせる、危険な瞬間だった。

 ピンチは続く。直後の前半13分。中盤で柴崎岳(ヘタフェ)が致命的なパスミスを犯し、ウディネーゼに所属するダルウィン・マチスにボールを運ばれる。柴崎は自らペナルティエリアのライン手前で反則で止め、FKに。柴崎の肩を持つわけではないが、これもアップ不足が災いしているように見えた。

 選手のバスが渋滞で遅刻するとは、日本の劣化を象徴する一件とは言えないだろうか。

 それはともかく、日本に訪れた決定機は前半26分だった。右サイドから中島翔哉(ポルティモネンセ)、遠藤航(シント・トロインデン)、南野拓実(ザルツブルク)、大迫勇也(ブレーメン)とつなぎ、最後は堂安律(フローニンゲン)が右足シュートを放ったが、精度をわずかに欠き、ポスト脇に外れていく。

 いまや日本の売りとなった前線の4人(中島、堂安、大迫、南野)は、この頃になると、身体が温まったのか、次第に本領を発揮し始めるようになる。前半31分には吉田麻也(サウサンプトン)の縦パスから南野が大迫に惜しいラストパスを送れば、34分には中島がGKと1対1になるシーンを作った。

 日本の先制ゴールは前半39分。右から中島が蹴ったFKを酒井宏樹(マルセイユ)が蹴り込んだセットプレーによるものだが、ゲームの流れは日本に傾いていた。必然性の高いゴールと言えた。

 しかしこの日、日本が挙げたゴールはこの1点のみ。前線の4人はその後も期待どおり見せ場を作った。魅力を振りまき、渋滞でスタジアム入りが遅れることになった大分のファンを喜ばせた。

 この4人は4-3で勝利した前戦、ウルグアイ戦に続いてのスタメンだった。GKダニエル・シュミット、CB冨安以外の9人がそうだった。森保監督はテストより、勝ちに比重を置いて戦ったわけだ。

 ウルグアイ戦では選手交代が6人できるにもかかわらず、2人に終わった。サブに与えられた時間は、のべ27分(追加タイム4分含む)。ウルグアイ代表のオスカール・タバレス監督の174分(同4分含む)と比較すれば、その差は歴然としていた。交代枠6人を使い切り、テストという命題をこなしながら敗れたウルグアイに対し、森保ジャパンは、それを怠り4-3で勝利した。大喜びすべきではない勝利とはこのことである。

 その流れは、このベネズエラ戦にも引き継がれた。勝利を欲するあまり、テストを疎かにした。先細り感を露呈させることになった。代表監督のスタンダードから外れた、その方向性を疑わざるを得ない方向に森保監督は進んでいる。

 ウルグアイに同点ゴールが生まれたのは81分。酒井が自軍ペナルティエリア内で勢いよく相手に衝突、PKを取られた結果だった。前半39分、代表初ゴールに気をよくした選手が、興奮を抑えられず、自軍のエリア内でもファイトする。サッカーによくありがちな展開だが、ホームで、南米下位のベネズエラに、勝利至上主義に走りながら引き分ける姿は、まったくもっていただけない。

 ちなみに森保監督はこの日も、相手のラファエル・ドゥダメル監督が6人の交代枠をすべて使ったのに対し、4人しか代えず、サブに与えた時間でも、のべ126分対90分(追加タイム5分含む)と大きく劣った。

 代表の活動は4年周期で、いまはその1年目の前半戦だ。来年1月にアジアカップを控えているが、11人だけで最大7試合戦うアジアカップは戦えない。20人のフィールドプレーヤー全員が戦力にならないと準決勝、決勝あたりで息切れする。そこから逆算して考える思考法が、代表監督には求められている。

 危うさを覚えずにはいられない。選手と監督。どちらのレベルが高いかという視点で、現在の代表を眺めると軍配は選手に上がる。

 メンバーを4人しか代えることができなかった森保監督だが、代えた4人の顔ぶれからも、森保ジャパンの問題を垣間見ることができる。

 中島、大迫、堂安、南野。交代でピッチを後にしたのは前線の4人だ。森保ジャパンを代表する4人ではあるが、足が鈍ったアタッカーを、「お疲れ様」と言って順に切っていくのは交代の王道。常識的な交代と言える。だが、他を一切代えなかったということは、4人以外のパフォーマンスに監督は満足していることを意味するのだ。

 サッカー自体には特段の問題はない。森保監督は試合後の会見でも、そうした意味の台詞を吐いていた。はたしてそうだろうか。

 前線の4人はピッチを後にするまで、従来どおり活躍した。10段階評価で8は出せないが、7点前後は出せる活躍をした。にもかかわらず、得点はセットプレーによる1点のみで、南米下位のベネズエラにホーム戦で引き分けてしまった。4人以外に問題があるから、そうなったとは思わないのだろうか。

 4人の活躍は、言ってみれば散発的だった。コンスタントではなく、回数も思いのほか少なかった。チームが構造的に作成したチャンスというより、彼ら個人の頑張りに委ねられている気がした。

 具体的に言えばDF陣。4バックが重たいのだ。とりわけ両サイドバックのポジショニングが低い。酒井と堂安(右)、佐々木と中島(左)が、相手陣深くで絡んだケースは何回あっただろうか。そこでコンビネーションプレーで局面を打開したことは何度あっただろうか。

 森保監督は、試合後の会見で「サイドを膨らまして……」と、幾度となくサイド攻撃の重要性を語ったが、そのチャンスの大半は、中島、堂安の単独プレーだった。散発になる原因であるし、後半、疲れてしまう原因でもある。前の4人の中でもサイドの2人の負担は重く見える。

 これでは後半、チームとして失速する。この日、結局、1-1で引き分けてしまった原因でもある。

 使えそうな選手の絶対数が足りていない。前線の4人しかセールスポイントが見出せない。ベネズエラ戦を通して見つかったアジアカップに向けての不安要素はこの2つだ。

 日本に問われているのは、選手というより監督の力。あいかわらずコメント力の足りなさも目立つ。魅力的な4人がいるにもかかわらず、代表人気がいま一歩である原因だろう。代表監督のスタンダードが上がらないと、盛り上がるものも盛り上がらないのである。