ギフトが展開する家系ラーメンチェーン「町田商店」。関東を中心に50店以上の直営店を構える(撮影:大澤 誠)

10月の中旬のとある平日――。住宅が建ち並ぶ東京都町田市の路上で、真っ赤な看板に筆文字で書かれた「町田商店」というラーメン店に、仕事帰りとおぼしきサラリーマンが次々と吸い寄せられていく。

10月19日、このラーメン店を展開するギフトが東証マザーズに上場した。初値は3710円と、公募価格の2090円を上回った。

ラーメン店のプロデュースも

主力業態の町田商店では、横浜家系ラーメンという豚骨しょうゆベースのスープに中太麺を合わせた商品を提供している。麺は自社製造で、3種類の小麦を独自に配合。スープは牛・豚・鶏のさまざまな部位の骨を15時間炊き込んで作るが、こちらの製造は一部を外部に委託している。


町田商店の看板商品である横浜家系ラーメン(写真:ギフト)

ギフトでは町田商店のほか、「釜焚きとんこつ ばってんラーメン」や「釜焚きとんこつ がっとん」などの業態も手掛ける。2018年7月末時点で、東京や神奈川を中心に54店を直営展開しており、駅チカのみならず、地方のロードサイドにも進出。ロードサイドでは、強みとするこってり系のラーメンだけではなく、あっさりとしたラーメンやサイドメニューを充実させることで、車で来店するファミリー層も取り込んでいる。

直営店の運営に加えて、ギフトの事業を支えるのが2010年から始めたプロデュース事業だ。資金力がありラーメン事業を経営したい人に向けて、店舗デザインや社員研修など運営ノウハウなどを提供する。

フランチャイズ契約とは異なり、保証金や加盟料、経営指導料(ロイヤルティ)は不要。食材やスープを購入してもらう形態で、これまでに約350店のプロデュースを手掛けてきた。


ギフトの創業者で社長を務める田川翔氏は、中学生の頃に家系ラーメンでの起業を決意した(撮影:大澤 誠)

ギフトの源流は2008年、田川翔社長が仲間2人と東京都町田市で「町田商店」を開店したことにさかのぼる。横浜が地元だった田川社長は、中学時代の終わり頃から好物の家系ラーメンで起業したいと思うようになった。高校卒後に横浜家系ラーメンの有名店で修行を始め、25歳のときに独立した。

「当たり前のことをやり続ける」

開業から半年程度は、味が安定せず店を閉めざるを得ない状況に陥ることもあったほか、従業員の育成も思うようにいかなかったという。ただ、味だけではなく、目線や笑顔、あいさつをするタイミングなど日々改善を続けることで、徐々にリピーターが増えていった。「変わったことはしていない。当たり前のことをやり続けようと言い続けた」(田川社長)。

2010年8月に2号店を開業すると、みるみるうちに直営店を増やしていった。2014年3月には国内の直営店が10店舗、同年12月には20店舗を達成した。

外食の世界では創業店舗が繁盛したことをきっかけに多店舗展開をした結果、目が行き届かなくなり、業績不振に陥るケースも少なくない。その解決策として導入されているのが、店舗ごとの“頑張り”が従業員に還元されるインセンティブ制度だ。

業績に合わせて年収が増えることから、中には年収1000万円超の店長もいるという。こうした仕組みは「(ラーメン業界で)他社にはあまりない」(田川社長)。店長のマネジメント能力の向上によって、スムーズな多店舗展開を可能にしている。

田川社長が上場を考え始めたのは3年ほど前のこと。2017年10月期の売上高は56億円(前期比24%増)、経常利益は6.3億円(同47%増)。上場を目指せる規模に拡大したうえ、金銭面や採用、交渉などいずれにおいてもメリットになることから、上場を決断した。

今後狙うのは”関東以外”

今回の上場で得る資金は店舗展開に充てる。富士経済の調査によれば2017年のラーメンの市場規模は4402億円(前年比0.8%増)と、ここ数年は横ばい傾向が続く。2022年の市場規模が4453億円と予測されるなど、今後も大きな伸びは期待しにくい。


田川氏は家系ラーメンの出店余地は多いと強調する(撮影:大澤 誠)

ただ家系ラーメンに限れば、東京や神奈川以外を見渡すと空白地域もあり、「まだまだ成長性がある」と田川社長は強調する。北海道や九州などご当地ラーメンが強いところではハードルがやや高いが、「家系ラーメンの支持に地域性はあまり感じていない」(同)。

今後は、出店数が少ない関東以外での出店では力を入れる方針だ。並行して、「町田商店」以外にもにんにくや野菜、背脂などを入れた”がっつり系”の「豚山」にも注力し、幅広いニーズを取り込む。

海外では、2016年のシンガポールを皮切りに、アメリカのロサンゼルスとニューヨークに直営店を出店しており、積極的な展開を続けている。中長期では国内外それぞれで1000店舗体制を目指す。市民権を得て多くの屋号が乱立する家系ラーメン。その中でギフトは”確固たる地位”を築くことはできるだろうか。