スマートフォンゲームの業界では、ガンホー・オンライン・エンターテインメントの『パズル&ドラゴンズ』やミクシィの『モンスターストライク』に次ぐヒットが生まれにくくなっている(写真:各アプリの画面をキャプチャ)

「スマートフォンゲームは今、レッドオーシャンを超えたブラックオーシャンになっている。新規タイトル(作品)を出してもすぐに消えてしまう」

大ヒットゲーム『パズル&ドラゴンズ』を手掛けるスマホゲーム大手ガンホー・オンライン・エンターテイメントの森下一喜社長は、7月末の決算説明会で、スマホゲーム市場の厳しさをそう表現した。

主要企業の7割は減益・赤字に

森下氏は数年前から同様の発言を繰り返してきたが、いよいよスマホゲーム市場の“ブラック化”が本格化してきた。それを象徴するのが、スマホゲームを展開する主要24社の直近四半期(3カ月間)の業績である。全体の75%にあたる18社が前年同期比で減益、もしくは赤字となった。


一方で増益となった6社は、新型ゲーム機「ニンテンドースイッチ」が牽引する任天堂や、家庭用ゲーム機向けソフト『モンスターハンター:ワールド』がヒットしたカプコンなど、スマホゲームへの依存率の低い会社が大半だ。

スマホゲームが苦戦する背景には、市場が成熟したことがある。2012年に話題となった『パズドラ』の空前の大ヒットから約6年半が経過。右肩上がりで1兆円規模に成長したスマホゲーム市場の成長は鈍化傾向にある。新作のヒットが出にくくなり、開発コストは右肩上がりで上昇。結果、各社のスマホゲーム事業の採算が悪化しているのだ。

四半期ごとの国内ゲームアプリ消費額を見ると、2018年4〜6月は3410億円。前年同期比約7%増と成長は続いているが、10%を軽く超える成長率を示していた数年前と比較すれば、勢いは落ち着きつつある。


直近1年間の消費総額は約1兆4000億円。単純計算で日本人1人当たり年間1万円以上消費していることになる。スマホ自体の普及もおおむね一巡した。今後の成長に対する懸念は高まっている。

個別タイトル同士の競争も激しさを増している。今年7月時点の国内スマホゲーム売り上げランキングのトップ30を配信日順に並べると、スマホゲーム市場が立ち上がって以降の大まかな傾向が見て取れる。

黎明期となる2012年から数年は『パズドラ』を皮切りに、ミクシィの『モンスターストライク』、コロプラの『白猫プロジェクト』など、新興企業からヒットタイトルが続出。いわゆる「ガラケー」向けソーシャルゲームからスマホ向けへの転換にいち早く成功したベンチャー企業が躍進した。


スマホゲームが一大市場になった2014年ごろからは「IPモノ」と呼ばれるジャンルが本格的に普及してくる。IPモノとは、家庭用向けゲームやアニメなど、既存の作品やキャラクターの知的財産(IP: Intellectual Property)を使用したスマホゲームのことだ。

『ポケモン GO』など有力IPタイトルが増加

有力なIPを活用すれば、従来、スマホゲームに触れてこなかった人や、すでにほかのタイトルを遊んでいる人に対しても訴求できる。米グーグルから独立したナイアンティックと、株式会社ポケモンが共同開発した『ポケモン GO』はその代表例。ナイアンティックが持つ位置情報ゲームの技術と世界的に有名なポケモンを組み合わせたことで爆発的なヒットにつながった。累計ダウンロード数は全世界で8億を超えている。

『ポケモン GO』以外にも、人気の高いIPを保有する大手企業はこぞってIPモノを投入している。2014年以降に配信されたヒットタイトルの大部分がIPモノだ。

だが直近1年は、新作の不発が目立つ。昨年7月以降に配信が始まった日系タイトルのうち、トップ30にランクインしたのはわずか2つだった。コロプラの馬場功淳社長は8月初旬の決算会見で、「当社も他社も新規タイトルが当初の期待に届かないか、届いても長続きしなくなっている」としたうえで、「ユーザーの遊ぶ時間が既存タイトルに取られ、新規タイトルに回っていないという理由もあるが、主因はわれわれが新しい遊びを提案できていないことではないか」と分析している。

PCゲームで台頭した中韓企業が攻勢

日本企業が苦戦する中で勢いづいているのが、海外企業だ。昨年7月以降の1年間で配信され、今年7月時点でトップ30入りした6タイトルのうち、4つは中国や韓国の企業が手掛けたものだ。

家庭用ゲーム機が普及した日本と違い、中国と韓国のゲーム文化はPCオンラインゲームを中心に発達してきた。スマホの性能が進化しPCゲームに近いクオリティのゲームを遊べるようになったことで、大型タイトルをグローバル展開する動きが強まっている。


日本でも人気が高まっている中国発のシューティングゲーム『荒野行動』(写真:アプリ画面をキャプチャ)

たとえば、2017年8月に韓国のネットマーブルが配信した多人数参加型RPG『リネージュ2 レボリューション』は、人気PCゲーム『リネージュ』シリーズのスマホ版。同年11月に中国ネットイースがリリースしたシューティングゲーム『荒野行動』は、昨年からPCゲームを中心に人気が高まっている、多人数が1つのフィールドで戦う「バトルロイヤル」と呼ばれるジャンルをスマホゲームで実現した。

さらに、動画サイトを運営する中国ビリビリの子会社が開発した『アズールレーン』(日本ではヨースターが配信)は、日本アニメ風のキャラクターが高く評価されたことで日本国内でもヒット。日本文化を取り入れた人気ゲームも出てきている。ある国内大手ゲーム会社幹部は「結局のところ、日本企業は新しい遊びを提供できず、中韓企業はできた。その結果だろう」と話す。

新作でヒットを生み出す難易度は年々上がっている。市場全体の大きな伸びは見込めないため、既存の有力タイトルからシェアを奪う必要がある。強力な海外勢との競争にも勝たなければならない。スマホゲーム各社は一様にIPを活用した展開の強化を図るものの、有力IPの多くはすでにスマホゲーム化されているため、それも簡単ではない。

開発費は黎明期の5倍以上の水準に

新作のヒット率が下がる一方で、ゲームに求められる品質は高まり、開発費の高騰が止まらない。黎明期は1億円以下が多数だった1本当たりの開発費は、今や5億円以上になることも珍しくない。

売り切り型のゲームとは違い、運用にも人手と費用がかかる。別のスマホゲーム会社幹部は「コストに比例して、収支のハードルも年々上がっている。今はオリジナルで月商3億円、IPモノなら5億円のタイトルを毎年コンスタントに出して、ようやく採算が合う」と難しさを語る。

今年6月には、ゲーム開発会社のシリコンスタジオが自社企画のスマホゲーム開発・運営事業を売却するなど、スマホゲーム開発から手を引く動きも出てきている。今後、業界再編の動きは活発化するのか。前出の国内大手ゲーム会社幹部は、「証券会社などから持ち込まれる売却案件は確かに増えている」と明かす一方、「買い手がどれだけいるか。少なくともウチは今さら同業のゲーム会社が欲しいとは思わない」と話す。

かつては多くの新興企業が“一獲千金”を果たしたスマホゲーム業界。今でも巨大市場であることは変わらず、ヒットすればそれだけリターンも大きい。一方で、高騰する開発費に耐えられるだけの財務的体力も求められる。特に中堅以下のスマホゲーム専業会社にとっては、厳しい局面が続きそうだ。