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<IMFの予測ではベネズエラのインフレ率は年内に100万%に達する見込み。1930年代のドイツや2000年代前半のジンバブエに匹敵する惨事だという>

高い失業率、食料不足、減少する燃料備蓄、基本的な医薬品の欠如......すでにたいへんな苦境にあるベネズエラ。国際通貨基金(IMF)はこのほど、同国のインプレ率は2018年末までに100万%に達する可能性があると警告した。

ベネズエラのインフレ率はすでに高水準で、通貨ボリバルの価値は今年、史上最低にまで下落しかねない。危機的状況にもかかわらず、ベネズエラ政府は原油価格の急落による国家予算の穴を埋めるために、紙幣を印刷し続けている。

IMF西半球部門のアレハンドロ・ワーナー局長によれば、現在のベネズエラの状況はハイパーインフレにより国内通貨の価値が失われた1930年代のドイツや2000年代前半のジンバブエに匹敵する。

史上最悪の月間インフレ率を記録したのは、1946年のハンガリーのハイパーインフレだった。当時の通貨ペンゲーのインフレ率は4京1900兆%、物価は15.3時間ごとに倍増した。

ワーナーはブログで、ベネズエラの2018年の経済成長率はにマイナス18%で、2019年はさらにマイナス5%になると予測した。ワーナーは現在の状況を「深刻な経済・社会的危機」と評した。

「経済活動の崩壊、ハイパーインフレ、公共財の供給不足、補助金つきの食料の不足が、大規模な国外への移住につながっている。近隣諸国にも大きな影響を与えるだろう」と、ワーナーは指摘した。

経済統計の公表は停止

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、生活条件が悪化し、経済は回復の兆しを見せないため、すでにベネズエラから100万人以上が脱出した。UNHCRの推定では、ベネズエラを出国する移民は1日約5千人に達し、その多くが隣国コロンビアに向かう。

ニコラス・マドゥロ大統領は経済改革の実施を拒み、現在の危機を、国内の反政府派がアメリカやその他の競争相手国と手をくんで仕掛けた「経済戦争」のせいだとしている。政府機関は、国の崩壊の本当の姿を隠すために、経済統計の公表を停止している。

2015年12月以来、公式のインフレ率は公表されていないが、野党主導の国会は、5月のインフレ率は2万4600%を超えたと発表した。

ブルームバーグは独自に、ベネズエラの首都カラカス東部にあるベーカリーのコーヒー1杯の値段を調査し、経済指標として使っている。「カフェ・コン・レチェ指数」と呼ばれるこの指標によれば、過去12カ月間でインフレ率は6万%上昇した。上昇はさらに加速しており、過去3カ月のインフレ率は年率で30万%を記録した。

通貨の崩壊により、海外からの食糧や燃料、医療品の輸入もままならず、もともと低い生活水準はさらに悪化している。国の保健当局に適切な予防や治療のための資源がないため、麻疹やマラリアも流行している。

国民を飢えさせないため、マドゥロは今年4回、最低賃金を引き上げた。ロイター通信によれば、最低賃金は月300万ボリバルに達しているが、闇市場の為替レートではわずか1.14ドルだ。マドゥロはまた、食料価格の高騰に対抗するため労働者に追加の食事券を配ると約束した。


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デービッド・ブレナン