日産自動車が7月31日に発売する「リーフNISMO」(筆者撮影)

日産自動車の電気自動車(EV)「リーフ」に、スポーツグレードである「リーフNISMO」が設定され、7月31日に発売される。

一足早く試乗した感想を一言で言うなら、電気自動車の走りにおける、さらに大きな可能性を感じさせる1台だった。

果たしてそれは何かといえば……の前にリーフNISMOのプロフィールを記しておこう。

さまざまな専用パーツを装着

「NISMO(ニスモ)」は、日産のモータースポーツ活動や、そのノウハウを活かしたチューニングパーツの開発などに携わるニッサン・モータースポーツ・インターナショナルの通称だ。その名が冠されたリーフNISMOは、リーフをベースにさまざまな専用パーツが与えられる。

エクステリアでは専用の前後バンパーを装着したが、これは空力的な変更を行うため。電気自動車にとって空気抵抗は少しでも下げて電費を稼ぎたいが、スポーツグレードとしてはボディを地面へ押し付けてハンドリング向上を狙いたい。そこでリーフNISMOでは専用開発した前後バンパーやサイドステップを与えて、Cd値はノーマルと同じ数値を維持しつつ、ダウンフォースを発生させた。これによって高速での安定性が向上したという。

またフロントグリルやトランクにはNISMOのロゴを与えたほか、NISMOのアイコンともいえる赤の差し色を使ってスポーティな装いを引き立てている。

インテリアではまず、赤いステッチを配してスポーツモデルの典型的なしつらえとし、ステアリングは専用アルカンターラを巻いた、触感に優れたものとした。加えて電動シフトやコンビメーター、カーボン調フィニッシャーなど専用装備品も与えている。そして専用シート地とドアトリムでスポーティな雰囲気を作り上げている。

実際に走らせてまず印象的なのは、ノーマルのリーフに比べて力強い加速が実現されていること。ノーマルでも十分以上に、静かで滑らかで力強い加速を実現するリーフだが、NISMOは胸のすく、さらに力強い加速を味わわせる。特にアクセルを踏み込んだ時の反応の速さと力強さは圧巻で、高速で巡航している状態から再加速しても、ドライバーの頭をヘッドレストに押し付けるほどの力を生み出してくれる。

そして加減速に対しての応答がより素早くなるような変更も加えられているので、ペダル操作に対してよりキビキビとした反応を見せてくれるのもノーマルのリーフと違うところだ。

しかしながらこのリーフNISMO。モーターとバッテリーそのものは、ノーマルのリーフと変わらぬものを用いているという。

ではどのようにチューニングしたのか。VCM(ヴィークル・コントロール・モジュール)と呼ばれる制御用コンピューターを専用セッティングとしたのがポイントだ。

電気自動車の場合は、モーターが同じ出力、バッテリーが同じ容量であっても、それをどのように出力してどのように使うかを制御用コンピューターで自在にセッティングできる。

Dレンジに加え、Bレンジではさらに力強く

リーフNISMOでは、ノーマルモードでのDレンジをNISMO専用の力強い加速を実現するモードとし、加えてBレンジではさらに力強い加速と素早い加減速の応答を作り込んだモードとした。これにより、特にBレンジでは、アクセルを踏み込むと俊敏な加速レスポンスを生み、一方でアクセルを離すとより早く減速へ移行するようになっている。

さらにシャシーでは、サスペンションが専用チューニングとなって、より高い操縦安定性と乗り心地を両立。これはショックアブソーバーのチューニングに始まり、装着タイヤを18インチの「コンチネンタル・スポーツコンタクト5」に変更。そして専用のアルミホイールを与えた。

上記のようなハードウエア的なチューニングだけでなく、車速感応式電動パワーステアリング、電動型制御ブレーキ、インテリジェントトレースコントロールを専用制御とするソフトウエア的な変更を行っているのも電気自動車ならではのチューニングだ。

ハードウエアのチューニングはNISMOのお家芸だが、こちらに関しても仕上がりは上々で、乗り心地的にはスポーツモデルゆえの硬さは生まれているが、高速域で姿勢をしっかりと安定させるフラットな乗り味が作り込まれており、どこまでも突き進むイメージが生まれている。

そしてコーナリングでもより高い旋回性能を手に入れており、リーフの低重心と相まってかなりのGを伴うコーナリングを実現しているほどだった。

さて、今回のリーフNISMOで、筆者が感じた走りの大きな可能性とは何だったのか? 

それは電気自動車のほうが、これまでの内燃機関の自動車よりもさらに、クルマとドライバーとの対話が楽しめる、きめ細かなドライビング環境が作れるのではないか?ということ。またそこから発展して、電気自動車のほうがより多くの人に優れた運転環境を提供できるのではないか?ということだ。

エンジン車の「アクセルレスポンス」とは次元が違う

ハードウエア的にもソフトウエア的にもチューニングされたリーフNISMOを走らせていて気がついたのは、アクセルに対するレスポンスが実に優れていることなのだが、それはいわゆる内燃機関、エンジン車のクルマでいう「アクセルに対するレスポンスが実に優れている」という表現とは、比べものにならないレベルで差がある。

アクセルに対するレスポンスという表現は同じだが、内燃機関の場合、アクセルを踏んだ信号によってスロットルが作動して開き、空気を大量に取り込むことでエンジンの回転が上がりパワーが出る……という流れのうえでの話。これが電気自動車の場合は、アクセルを踏んだ信号がモーターの駆動力を大きくする……といった具合で、操作が瞬時に作動に変わる、その差はかなり大きいわけだ。

そしてこれはあらゆるシーンでこれまでの内燃機関のクルマとの違いとして感じられる。例えば停止から発進する時も電気自動車は、アクセルを踏み込んだ瞬間からスッとタイムラグなく加速するし、高速巡航からさらにアクセルを踏み込んで再加速する際も全く間髪入れずに力強く前へ進む。そしてこの感覚に慣れてしまうと、内燃機関の反応はダルでまったりしたものに思えてくるのも実際である。

それだけに、リーフNISMOのようなスポーツモデルでスポーツドライビングをすると、わずかなアクセル操作でクルマを極めて微妙にコントロールできると気がつく。

例えばコーナリング中にアクセル操作をすると、コーナリング・ラインは変化する。アクセルを少し緩めて少しイン側を攻めたり、あるいは逆にインに行きすぎているなら踏み込めばアウト側へ膨らませたりもできる。

もちろんこれは内燃機関のクルマでも同じようにできるが、その操作をする際に、電気自動車ならばより操作を忠実に素早く反映できるモーターという機構を持つがゆえに、内燃機関よりもさらに幅広く、きめ細かな操作性が実現できるのである。

そしてこれはドライビングにおいて、クルマとドライバーの対話性をこれまで以上に高めることができて、クルマを走らせた時に感じる一体感もより高い次元へと昇華できる可能性のひとつになる。電気自動車が用いるモーターはもっともっときめ細かに、そして人間の意思に忠実に制御してあげることができるはずで、そうすると、これまでにない異次元のドライビング環境が作り出せる可能性も生まれてくるのである。

さらにそうした制御の幅広さときめ細かさを応用すれば、より多くの人に優れた運転環境を提供できると考えられる。なぜならこれほどまでにきめ細かで幅広く制御することが可能ならば、今度は逆にドライバーによっては曖昧だし、大きな差のある運転操作をクルマの側で補正して、最適で安全なアウトプットへと変換できるからだ。

きめ細かなコントロールを可能にする

事実、リーフではすでにそうした制御は入っている。例えば氷上のツルツルの路面の上でも、無意識にハンドル操作してアクセルを踏めば、想像以上に自然に走れてしまう。これはクルマの側でインテリジェントトレースコントロールやトラクションコントロールが働いているからだ。

もちろんこうした制御は内燃機関のクルマでも同じものが入っている。だが、先に記した通りで内燃機関をコントロールするのと、モーターをコントロールするのでは幅広さやきめ細かさ、レスポンスの次元が全く異なる。それだけに、氷上などでは1万分の1秒単位で制御が可能な電気自動車が類い稀な操作性を実現する。

「今回のリーフNISMOは、おっしゃるように今後の電気自動車における走りの可能性を感じていただく商品です。また同時に今後の電気自動車というジャンルにおいて、スポーツモデルが必要かどうか? それを探るための意味合いも含まれています」

リーフNISMO試乗後の別日にインタビューした、日産の常務執行役員でEV製品開発を担当する赤石永一氏は言う。

「まずはリーフのバリエーションとして今回のNISMOのようなプロダクトを出すことで、お客様の反応も含めて、例えば今後の電気自動車に、独立したスポーツモデルの可能性があるのか否かということの検討材料にもなります」


EV製品開発担当の赤石永一常務執行役員(筆者撮影)

実際に日産では現在、2019年の中国市場向けにシルフィの電気自動車を送り出すことを北京ショーで発表済みである。また今後のEVのラインナップに関しても、

「既にアナウンス済みですが、今後は軽自動車の電気自動車や、クロスオーバーの電気自動車を導入します」

赤石氏は明言する。そうした中にあって重要なのは、

「これまでは通常の内燃機関と比べての電気自動車という立ち位置で独自の走りや個性に関して心配は少なかったわけですが、今後は他社も電気自動車を多く送り出してくる中で、電気自動車と電気自動車の勝負になります。そうした時に、日産の電気自動車として何を個性とするか?は重要で、既にリーフでもプロパイロットやプロパイロットパーキング、そしてe-Pedalといった独自性も付加して個性としています。が、今後はさらに走りに関してもハードウエア的な制御だけでなく、ソフトウエア的な制御も含めて他にないものを作り込んでいく必要はあると思っています」(赤石氏)

走行性能だけでなく安全、安心、快適にも

やはり今回のリーフNISMOで筆者が感じたような走りの可能性や、より多くの人に優れた運転環境を提供できる方向性が重要になってくる。また今後登場するクロスオーバーや軽自動車の電気自動車に関しても、それぞれのクラスやキャラクターに合った走りの特性や作り込みは重要なところで、先に記した電気自動車ならではの走りにおける大きな可能性を、単に走行性能向上というだけでなく、走りにおける安全や安心、快適といったさまざまな方向に振り分けて使うこともできそうだ。

2019年には中国での電気自動車の勝負が始まり、その先には各メーカーが送り出す次世代の電気自動車での勝負が始まっていく。そうした時に、果たしてそこでどんな要素がブランドを分ける個性として用いられるのか? それを考えると、一層今後の電気自動車の可能性に期待が持てるのである。