米ツイッターにとって日本事業は本国米国に次ぐ規模に成長。その分、ヘイトスピーチ対策など多くの課題に直面している(写真:Twitter)

米国のトランプ大統領が情報発信に活用し始めたことで注目を集めたのが、「ツイッター」だ。政治家のほか、経営者や芸能人といった著名人が自らの言説を広く発信したり、個人がちょっとした記録や友人とのやり取りに使ったりしている。
米ツイッターは2018年1〜3月の3カ月間で6億6490万ドル(約730億円)の売上高を稼いだが、実はその20%近くを占めるのが日本市場だ。前年同期と比べて6割の増収となり、今や本国米国に次ぐ規模となった。
日本国内では若年層などから高い支持を得るサービスへと成長したツイッターだが、ヘイトスピーチ(差別的内容を含む投稿)への対応の遅れなど、さまざまな問題点が指摘されている。目の前の課題にどう対応し、今後の成長戦略を描くのか。ツイッタージャパンの笹本裕代表に聞いた。

日本の成長はツイッター全体のヒントに

――米国本社が発表した直近の決算では、日本での成長ぶりが強調されていました。

5年くらい前を振り返ってみると、ツイッターというサービスの認知は一般に広がっていたものの、ビジネスの規模はまだ小さく、日本にオフィスがあることすら知られていなかった。それが今や、日本が全社売上高の18%(2018年1〜3月期)を稼ぐところまできた。この成長は、今後のツイッターのグローバルな成長のヒントになりうると思っている。

――そもそも、ツイッターが特に日本市場に「ハマった」理由とは?


ツイッタージャパンの笹本裕代表は、日本事業の成長ぶりに自信を見せた(撮影:尾形文繁)

日本は通勤・通学に公共交通機関を使う人が多く、単純にスマートフォンへの接触時間やアプリの利用時間が長くなる傾向がある。また、電車の遅延情報などを検索する際、最新情報を知りたいならまずツイッター、という文化が根付いた。実際日本では、ツイッターにおける1人当たりのサーチ(検索機能)利用数が欧米に比べ非常に多い。今起きていることを即時に知る場として浸透したといえる。

今起きていること、新しいことを知りたいと考えるユーザーは、たとえば新商品をアピールしたい、発売から1週間でしっかりコンビニの棚を取りたい、という広告主にとって貴重だ。最近では広告効果の高さを実感し、単に広告を見てもらうだけでなく、ユーザーに「拡散」してもらうために、広告に用いる画像や動画、ハッシュタグを工夫する広告主も増えてきた。

――特に需要が高い広告のプランはありますか。

1年半ほど前から提供している「ファーストビュー」という広告枠だ。1日1社限定の掲載で、ツイッターのアプリを開いた際、必ずタイムラインのトップに表示されるもの。その日に発売される新商品、その週に開催されるイベントなどの告知に重宝されており、日本では連日ほぼ枠が埋まっている。グローバルに展開する広告商材だが、日本でのニーズの高さはずば抜けている。


ツイッターのアプリを開いた際、トップ画面に必ず表示される広告枠「ファーストビュー」(画像:Twitter)

――ただ、ネット広告の出稿先として圧倒的な存在感を誇るのは、世界でも日本でもフェイスブックです。ツイッターがここまで差をつけられてしまったのはなぜでしょう?

要因は2つある。まず全世界で見ると、フェイスブックは強力なリーチ(たくさんのユーザーに広告を届ける力)を持つ。そもそもネット広告は「効率よくリーチを買う」という考え方が基本なので、この差は大きい。さらにフェイスブックは年代や性別など、多種多様な属性でのターゲティングに強みを持つ。これも従来のマーケティング手法の延長で考えれば、とても魅力的だ。

一方で、僕らツイッターは、フェイスブックに比べると商売が下手なのかもしれないが……。(米国の)上場企業なので、もちろん収益は追い求めなければならない。だが最も重要なのは、ツイッターとしての特徴やバリューを損なわずに独自の新しい広告価値を提供し、ビジネスを拡大することだと思っている。

ツイッターには正直な感情が集約されている

――ツイッターならではの広告価値とは?

年齢や性別ではなく、興味・関心を軸にしたターゲティングだ。ツイッターのユーザーの皆さんは、いわゆる”リア充”な着飾ったものではなく、自分のストレートな気持ちを発信する傾向にある。つまり、ツイッターは正直な喜怒哀楽や欲求がいちばん集約されている場所といえる。


従来のマーケティングの王道は、年齢や性別などターゲットの属性を想定し広告企画を立てることだったが、最近は変わってきている。特に若年層になればなるほど興味・関心やライフスタイルは多様化しており、「この属性の人は皆これが好き」と単純にくくることはできなくなった。

ツイッターでは、ユーザーの興味・関心のシグナルをつかむことができる。自動車の購入を検討している人は、自動車メーカーのアカウントをフォローしたり、自動車関連のことをつぶやいたり、関連ワードで検索をかけたりする。そうしたシグナルをデータとして蓄積・分析し、適切なターゲットに広告を配信できるのがツイッターの強みだ。

特に米国には新しいマーケティングの潮流に敏感な企業が多く、出稿先としてツイッターを指名してもらう機会が増えてきた。ネット広告市場で確固たるポジションを築くのにはまだ時間がかかるかもしれないが、日本でも確実に需要を掘り起こせるはずだ。

――フェイスブックの個人情報流出が記憶に新しいですが、ツイッター社としてはこの事件をどう受け止めたのでしょう?

フェイスブック、ツイッター、LINEなどは同じSNSというくくりで語られることが多いが、ツイッターはネットワークサービスではなく今起きていることを知る場、ニュースメディアに近い場とわれわれ自身は考えている。実際サービス上でも個人を特定する形を取っておらず、その点でフェイスブックと同じ土台に立っているわけではない。

もちろんサービスの形態にかかわらず、ユーザーにとって安心・安全は最重要だ。フェイスブックの件を受け、当社もユーザーの情報の扱い方について再度見直しを行い、セキュリティを強化していく方針だ。

健全性と透明性を開発の最優先事項に

――もう一つ、ツイッターの課題として注目されているのがヘイト投稿です。どう対策を進めていますか。

国内外のツイッター社員一同、決して誰もヘイトを「よし」とはしていない。一方で、表現の自由を担保しつつヘイトと向き合うのは、すごく難しい課題だ。特に日本では、これだけ多くのユーザーに使ってもらえて非常にありがたい反面、問題の多さも比例している。


ツイッターのジャック・ドーシーCEOはプラットフォームの健全性と透明性を重視する(写真:Twitter)

今年1月からは体制の強化を始めている。ジャック・ドーシー(ツイッターCEO)が昨年11月の経営会議で、プラットフォームの透明性や健全性をもっと可視化していこうという方針を打ち出し、今年からはそれが開発のトッププライオリティに位置づけられた。

具体的な人員数などは言えないが、直近では開発部隊とツイート監視部隊において、健全性と透明性の確保に必要な人的リソースを重点的に配分している。日本語の対応に関しても、日本語がわかる、話せるというだけでなく、日本語の文脈をきちんと理解できる人材を急ピッチで採用している。

――機能面でも新たな対策はあるのでしょうか。

直ちにツイート削除やアカウント凍結につながるポリシー違反でなくても、表現が特定の誰かを傷つけるというケースは多くある。そこで、そういうたぐいのツイートを、多くの人の目に触れないよう「非表示」にする新しいアプローチを試みている。


攻撃的、不快と思うツイートを報告する画面(画像:ツイッターのウェブサイトをキャプチャ)

“荒らし”といわれる、悪さをしようとする人には一定の傾向がある。昨日今日作られたばかりの“捨てアカ”(捨てることが前提のアカウント)を使っていたり、似ている内容を繰り返し投稿したり、フォローしていないアカウント宛に返信したりといった具合だ。これらの行動シグナルと、人やAIによる文脈理解を組み合わせて、不適切と判断されるツイートは非表示化していく。

成果も見えている。ツイッターでは、ユーザーが攻撃的だ、不快だと思ったツイートを「報告」できる機能を設けているが、非表示化の措置を取り入れてから報告の数が、検索結果の画面においては4%、タイムライン画面においては8%減少した。

――ユーザーの目に入る「不快なツイート」が減ったと。

明確なポリシー違反は取り締まってきたが、あいまいなものへの対応は今までなかったため、これまではヘイトがヘイトを生み、助長するようなところがあったと思う。今回の非表示化はあくまで一つのテストケースであり、今後グローバルにどう導入していくかは何も決まっていない。これが完璧な方法だとも思っていない。ただ、多少でも効果が見えた部分はあった。


笹本裕(ささもと・ゆう)/1988年獨協大学法学部卒業後、リクルート入社。その後MTVジャパンや日本マイクロソフトなどの要職を経て、2014年2月からツイッタージャパン代表(撮影:尾形文繁)

表現の自由を担保しつつ、ヘイト問題に対峙するのにふさわしい方法を見つけるのは簡単ではない。今後も健全性を高めるために、あらゆる改善・改良を加え、ぜひ早い段階で皆さんに納得していただけるようなサービス体制を築きたい。

――昨年ごろからアカウント凍結の数や、それに関するユーザーの声が大きくなっている印象です。

確かに実数として(アカウント凍結は)増えている。多くは、複数アカウントの不正運用に関する措置だ。ツイッターでは一定のルールの下で複数アカウントの使用を認めているものの、APIを通してアプリを作り複数アカウントから同じツイートを何回もするようなスパム行為は禁止している。その取り締まりを本格的に始めたため、凍結も増えた。

アカウント凍結の基準に疑問の声も


アカウント凍結の理由を説明する通知画面(画像:Twitter)

これ以外にもアカウント凍結に至るケースはさまざまあるが、直近では、どういった理由で凍結になったかを本人にメールで知らせる機能を追加した。「この表現がNG」と具体的に言いすぎると回避策が生まれてしまうので、たとえば「過度に暴力的な表現なのでNG」とか、大枠で知らせる。昨年来、「なぜ自分のアカウントが凍結されたのかわからない」という問い合わせが増えたことを受けて対策を行った。

ツイッターはサービスの拡大とともに、社会的責任もますます拡大している。ヘイト撲滅だけでなく、フェイク情報の撲滅や自殺防止など、やるべきことは多い。一つひとつ、取り組みをブラッシュアップしていく。