金正恩氏

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北朝鮮の金正恩党委員長は今年1月末、国家保衛省(秘密警察)に対して、「職権を乱用して金儲けをするな」、「住民に対する暴行、拷問などの人権侵害をやめよ」などといった指示を出した。

これを受け国家保衛省は、従来のやり方を改める素振りを見せており、ついには専売特許の「公開処刑」をも、一時的にせよ封印しようとしている。

340人を処刑

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、保衛相は昨年まで、韓流ドラマ・映画の視聴、脱北やそのほう助、不穏な言動をした者を公開裁判にかけて、一部を銃殺にしていた。

(参考記事: 謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」

ところが、今年に入ってから状況が一変した。

3月初め、会寧(フェリョン)市で、数十回に渡って脱北幇助を行っていた40代男性が逮捕された。保衛省や人民保安省(警察)は、以前ならあたかも大物スパイを捕まえたかのように大騒ぎしていたところだが、公開裁判は行われなかった。

韓国の国家情報院傘下のシンクタンク・国家安保戦略研究院は、昨年12月に出した「金正恩執権5年 失政白書」で、金恩氏は3代世襲を固めるために、叔父の張成沢(チャン・ソンテク)氏をはじめ、高官や一般住民など340人を公開銃殺したり、粛清したりするなどの反人道的行為を行ったと指摘している。

しかしこうした「見せしめ」が逆効果を生み、金正恩氏に対する世論が悪化したことを受け、公開処刑や人権侵害を禁じる命令が出されたようだ。

両江道(リャンガンド)の別の内部情報筋によると、「皆、口に出しては言わないが、今まで続いた恐怖政治で金正恩氏に対して背を向けた人が少なくない。朝鮮半島を取り巻く情勢の緊張や、春の食糧難で敏感になっているのに、下手なことをすれば何が起こるかわからない」という。

また情報筋は、金正恩氏が政権について6年目に入り、自信を持ったことも影響していると見ている。

「言うことを聞かない幹部や住民に凶器を突きつける恐怖政治でやってきたが、大きな政治的事件が怒らない限りは、多少のことは寛大に受け入れる『包容政治』でやっていこうとしているのかもしれない」(情報筋)

だが、昨日の本欄でも述べた通り、正恩氏は韓流ビデオなどの売買について、死刑を含む重罰で臨む方針も示しているとされる。たったそれだけのことで死刑にするなど、それ自体が重大な人権侵害であるということがわかっていないわけだ。

これまで公開していた処刑を、非公開にしたからといって、北朝鮮の人権状況が改善されたことにはならないのである。