結婚、転職、起業…重大な選択をする時にやっておくべき「人生の棚卸」とは

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転職や起業、結婚など、人生には転機になりうる節目がかならず訪れる。その時にどんな針路をとるかという決断は重大で、人によってはなかなか腹を決められないものだ。

そんな時、自分のこれまでの人生を洗いざらい記憶の中から引っ張り出して、目の前に並べ、整理してみると、後悔のない決断をするのに役立つかもしれない。つまり「人生の棚卸」をするのだ。

『神の味噌汁』(鬼頭誠司著、秀和システム刊)は、この「人生の棚卸し」をテーマにした、不思議な居酒屋の物語である。



とある繁華街の路地裏にある「呑み屋神」に気づく人はほとんどいない。あまりにもひっそりとした佇まい、そして常に「準備中」の札がかかっているので、足を止める者もいない。

というのも、店主の神龍一はこの店で儲ける気がない。そもそも、表のパイプ椅子に座り、通り過ぎる人々を一日中眺めているだけだ。そして「この人」と見定めた人を毎日一人だけ、店の中に招き入れる。

もちろん、神が呼び止めるのはただの人ではない。人生に行き詰まっていたり、過去にとらわれて前に進めなかったり、それぞれに暗い影を背負った「ワケあり」の人々だ。

彼らは、自分の心の裡の闇を、神の前では不思議とさらけ出したくなる。「呑み屋神」は、神を聞き手に、人生の棚卸をする場所なのだ。

ある女性は、神の店のカウンターに座ると、子どもの頃に姉を失くし、親の愛情を感じられずに育ったこと、高校時代から交際していた男性と幸せな結婚をしたが、娘が生まれた直後に彼と死別したこと、やむなくケンカ別れした実家に出戻りしたこと、二度目の結婚も夫のDVにより続かなかったことなど、過去の出来事を語った。

それらの「棚卸」は、単なる懐古趣味ではない。過去をすべて明かし、人生を整理することは、未来の生き方を考えることにつながるからだ。この女性の場合も、過去の告白は「娘が無事に成人した今、自分はこれからどう生きるのか」という、彼女にとっての本質的な問いに思いを及ばせた。

家族を殺した殺人犯への復讐を遂げた男、会社を倒産させた経営者、セックス依存症の女など、本書ではそれぞれに闇を抱えた男女が、神の前で「人生の棚卸」を行い、失ったもの、大切にすべきものに気づいてゆく。それらのプロセスは、私たち自身が人生の棚卸をするのに大いに参考になるはずだ。

ちなみに、この小説のどの登場人物も、後日再び「呑み屋神」を訪れるが、そこには店などなく、もちろん店主の神もいない。

「人生の棚卸」は夢だったのか?

そうではない。その秘密も本の中で明かされる。
(新刊JP編集部)

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