欧米のカップル文化が生んだ「地獄の婚活映画」

映画を見て、欧米文化の中で生きるのマジで無理と思うのは、様々なイベントが基本的にカップル参加だったりすることです。基本的にたくさんの見知らぬ人の中で自分の立ち位置を見つけるのが苦手な私は、もしそこに「基本はカップル参加」みたいな不文律が加えられ、会場で誰かに挨拶するたびに「あれこの人、1人で来てるんだ…」みたいな空気が漂う――とか考えただけでお腹が痛くなります。

こんな過敏性腸症候群を引き起こしかねない状況を、欧米ではプロムとかブームなんて形で中高生から経験させるなんて信じられません。「カップル文化に慣れるための第一歩」なのでしょうけれど、外見とか親が金持ちとか派手とかスポーツできるとか、その後の10年でほぼ無意味化もしくは変化するような要素で、最も多感な時期にジャッジされるトラウマの重要性を考えないんでしょうか。

――と、ほどよく熱くなったところで、今回のネタは、そんな文化から生まれたに違いないシュールなコメディ『ロブスター』。「地獄の婚活映画」と呼ばれるこの作品が描くのは、独り身が許されない社会で強制参加させられる45日間の「婚活合宿」。この期間内にカップル成立にならなければ、特殊な手術の末に動物にされてしまいます。どえらい設定です。

「まだ結婚してないの」と聞いてくる親戚

物語の舞台は、婚活合宿のために用意されたホテルで、集められたのは死別とか離婚とか様々な状況から独り身になった老若男女。その中に、おそらくまだ20代前半の金髪とブルネットの女子2人組がいます。ふたりは学生時代からの親友、プロムの相手が見つからずに一緒に悩んだ仲ですが、この合宿では早々にカップル成立したブルネットに対し、金髪は相手が見つかりません。そしてついにきた婚活合宿最後の日、ブルネットは用意した「別れの手紙」を金髪相手に読み上げます。

「あと数日あれば、私のようになれたのに。だって髪はサラサラだし巨乳で……私がその髪に嫉妬してたの、知ってるよね。寂しくなるわ。町に戻れば新しい友達もたくさんできるけど、本当の親友はあなただけ……」

ここまで聞いて、金髪はブルネットに強烈なビンタをお見舞いします。

映画に描かれるのは本当に不公平で歪なカップル至上社会で、ブルネットの信じがたい上から目線は「独身者=動物=人間以下」という設定ゆえ。でもクリスマスからお正月にかけてのこの季節、そうした状況は現実社会と完全にシンクロします。やっととれた休みに旅行を計画すれば、友人は「クリスマスに一人旅なんてカッコいい! 私は寂しくてイヤだけど」と無邪気に言い、年末年始に集まった親戚の「まだ結婚してないの?」的な言葉が、やまびこのようにほうぼうから聞こえてくる――考えただけでお腹が痛くなります。

頼もしさを覚えるのは、この映画に登場するもう少し上の世代の女子キャラたちのバラエティの豊かさです。パートナーを婚活施設の一室に住まわせ、合宿を仕切る女マネージャー。施設から逃げ出した独身者を束ね、レジスタンスを組織する女リーダー。偽装結婚して婚活合宿に潜入する独身者の女スパイ。婚活合宿のもうひとつの義務=独身者狩りの、非情な凄腕女ハンター。

どんなに不公平で歪なカップル至上社会にも、別の生きながらえ方がある。十代と同じくらい多感なアラサーの年末年始、まずはよく効く胃腸薬を準備して。さあ、始まりますよ。

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