復活した、『元祖!大食い王決定戦』

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「それは、小林が、神の領域に踏み込む瞬間であった…!」

ただ、飯を早く食べているだけなのに、何という大業な煽りでしょうか。上記の一言をベテランナレーター・野田圭一氏がシリアスな調子で解説するものだから、何とも滑稽……いや、シュールです。

とはいえ、この大袈裟さこそが、2001年から2002年にかけて放送されたバラエティ『フードバトルクラブ』の醍醐味。集団生活においてはエンゲル係数を上昇させるだけの忌むべき「大飯喰い」を、アスリートのようにかっこよく持ち上げていた同番組。
それは、大型アスレチック完全制覇のために、転職・リストラを繰り返す一般社会においては白眼視されかねない人たちを「SASUKEオールスターズ」としてブランディングした「SASUKE」にも共通する、TBS的方法論の結晶体といえるでしょう。

番組を盛り上げた多彩なフードファイターたち


そんな、煽り演出において欠かせないのが、各フードファイターにつけられたキャッチコピーです。

小林尊⇒「底知れぬ貴公子」「地上最強の胃袋」
赤阪尊子 ⇒「飢えるジャンヌ・ダルク」
射手矢侑大 ⇒「尾張の荒武者」
小国敬史⇒ 「食のストリートファイター」

くどいようですが、彼ら・彼女らはただ食べてるだけです。にも関わらず、これほど多彩なネーミングを創出するあたり、見事という他ありません。

草なぎ剛主演のドラマ『フードファイター』も登場


なお、この『フードバトルクラブ』には、モデルとなった番組企画がありました。テレビ東京のバラエティ『TVチャンピオン』における大食い選手権です。
同番組にTBSがインスパイアを受けたのは、放送される競技の類似性からも明らか。出場する選手もほとんど流用するという、パクリと糾弾されても仕方のない内容でしたが、2つの番組は持ちつ持たれつのような関係性を保ちながら、「大食い」の社会的地位確立に貢献。

さらに日テレで野島伸司脚本・草なぎ剛主演の『フードファイター』なるドラマまで放送され、21世紀最初の1年は空前の大食いブームとなったのです。

給食の時間にパンの早食い対決をした結果…


社会現象となった大食いでしたが、2002年、突如として終焉の時がやってきます。きっかけとなったのは、愛知県のとある中学校で起こった死亡事故。男子学生が給食で出されたパンを喉に詰まらせて、窒息死してしまったのです。
事件当初、なぜ男子学生がそのような死に方をしたのか、学校側は不明としていました。しかし警察が捜査を行った結果、テレビで放送されている大食い番組のマネをしてクラスメートと早食い競争したために起こった事故だと判明します。

もともと、「食べ物を粗末にし過ぎ」など批判も多かった大食い番組でしたが、この一件が決定打となり、各局で放送自粛が決定。『フードバトルクラブ』、『TVチャンピオン 全国大食い選手権』、『TVチャンピオン全国早食い選手権』いずれも、2002年の春からぱったりとテレビで見ることはなくなってしまいました。

大食い=神に許された者だけができる競技?


その後、 TVチャンピオンの大食い選手権は、『元祖!大食い王決定戦』として2005年に復活。安全性やモラルを大切にする目的で「大食いは健康であれ」「早食い厳禁」「食べ物に感謝を」という「大食い3ヶ条」なる条項を自主的に作成。番組の最初に説明し、健全な企画であることを宣誓しています。
また、ゲストして招かれた片岡鶴太郎は「大食いは神に許された者だけができる競技」とも発言。神に許された者……つまり、選ばれし者しかできない大食いを、一般人が安易に真似するな、と言いたいわけです。

そう考えると、本記事冒頭に紹介した「神の領域に…!」という煽りも、非常に的を射ているのかも知れません。最も、より分かりやすいカタチで注意勧告した方が良かったのですが……。
(こじへい)

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