迎えた合宿最終日は、サガン鳥栖との練習試合に臨んだ。中野は62分から右SBで出場。終盤はMF喜田拓也(横浜F・マリノス)が負傷退場したため左SBでプレーしたが、ボールが回ってくる場面も少なく、アピール成功とは言い難かった。本人も「アピールできたかどうかは分からない。自分の中で初めてのポジションだったし、できた基準がよく分からない」と苦笑いを浮かべながら素直な感想を口にした。

 一方で、苦悩した5日間に大きな収穫もあった。一つは守備での課題がはっきりと見えたこと。「自分はやっぱり攻撃を得意とする選手で、いつも点を取ろうとやっているけど、守備面ではもう少し止められないといけない。前の選手を上手く使えるようになること、自分のところでもっと止められるようになること。慣れない競り合いでもボールを取れるようにやっていきたい」。中野の武器であるドリブルで、いかに攻撃に厚みを持たせることができるかは川崎で証明済み。そこに守備能力が加われば、それこそ手倉森監督が求めているユーティリティ性が高まり、最終メンバー入りの可能性も出てくる。

 もう一つは、実際に代表メンバーとピッチに立ったことで感じたものだ。5日間の合宿を終えた感想を聞いた時、次のような答えが返ってきた。

「新しいメンバーとやる中でも、自分を出さないといけないことを痛感した。今回、少しはできたと思うけど、他の選手を見ていると、急造で集まったとしてもやっぱり自分をしっかりと表現できていた。代表に選ばれる人はそういう選手。自分もチームでできているだけじゃダメだと思った。自分のスタイルを持ちながら、色んなサッカーに適応できる能力を高めたい」

 代表ではクラブと異なる戦術に短期間で順応し、指揮官が求めるものを表現しながら自分の持ち味を発揮しなければならない。ライバルたちとしのぎを削る中で、そのことを痛感したはずだ。中野の表情や口調からは「もっとやれたはず」という自責の念がうかがえた。

 今回、実戦で与えられたチャンスはごくわずか。しかも不慣れなポジションでのプレーだった。ただ、悔恨の思いはあれど下を向いている暇はない。不完全燃焼に終わった手倉森ジャパンでの経験を糧に自らの殻を破れば、もう一段階ステップアップできる。プロ1年目の中野が、初代表の場で味わった悔しさを成長へと変えていく。

文=高尾太恵子