張本勲氏

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野球解説者の張本勲氏が「炎上」しています。ことの発端は、12日に放映されたTBS「サンデーモーニング」内での張本氏の発言でした。張本氏は4月5日の明治安田生命J2リーグ第6節における、三浦知良選手(横浜FC)のJリーグ最年長得点記録更新のニュースについて「カズファンには悪いけどもね、もうお辞めなさい」「野球で言えば2軍だから」「若い選手に席を譲ってやらないと」とコメント。後進の指導など、新たな道を模索するよう促したのです。

番組内でも予見されたように、このコメントに対しては三浦選手のファン、サッカーファンから多くの反発が上がりました。これは当然のことです。なぜなら、張本氏は野球とサッカーの仕組みを混同して発言しており、「野球で言えば2軍だから」などとする見方は、まったくもって見当外れのものだからです。

Jリーグにおける「J2」所属のクラブは、「J1」所属のクラブとの1・2軍関係にあるものではなく、独立して存在するものです。また、今年で言えばセレッソ大阪やジュビロ磐田、過去においてはガンバ大阪や浦和レッズなど日本を代表するクラブもJ2で戦った経験があり、実力の面においてJ1より劣ると言い切れるものではありません。セレッソ大阪のフォルラン選手のように世界的に評価された選手もJ2にはいますし、J2所属のクラブから日本代表選手が選ばれることもあります。J2は「2軍」などではないのです。

しかし、その間違いを指摘するだけでは張本氏的な批判に対しての十分な反駁とは言えないのも確かです。

J1とJ2の間には昇格・降格の関係があるわけで、「J1よりJ2が下」であることは間違いありません。ファン・サポーターも降格を恐れ、昇格を喜ぶのですから「J1よりJ2が下」と意識しているはずです。独立した別物ではあるが、決して同格ではない。実態として、かつての「セ・リーグ」「パ・リーグ」のごとく「人気や華やかさはJ1が上だが、実力は必ずしもそうとはかぎらない」という関係性であったとしても、「セ・パ」のように「J1・J2」は並び立つものではないのです。「J1よりJ2が下」なのです。これでは張本氏的な批判における「野球で言えば2軍」「J2で頑張るより指導者になる方が有意義」という意識は払拭されないでしょう。

さらに2014年からは「J3」という新たなリーグも誕生しました。張本氏的な批判者からすれば、「J3もあるのか。まだ下に行けるな」「これならいくらでも最年長記録を更新できるのではないか?」「そんな記録に価値があるのだろうか」という考えも生まれるでしょう。極論を言えば「J99リーグ」でゴールしても記録更新となるものに何の意味があるのかと。

張本氏的な批判には、まず「J2」というクラスが「J3」や「J99」とは一線を画す特別なクラスであることを示す必要があります。そもそもJ1やJ2に参加するには、各クラブの施設面・体制面・財務面などの評価に基づいて公布される「Jリーグクラブライセンス」が必要です。このクラブライセンスは、アジアサッカー連盟(AFC)によるAFCチャンピオンズリーグの参加資格に沿うものです。J2所属の22クラブ中の18クラブが「J1ライセンス」という最上位のライセンスを所持しており、天皇杯で優勝すればAFCチャンピオンズリーグへの出場権を得ることができます。(※J1ライセンスがなければ日本のクラブはAFCチャンピオンズリーグに出場できない)

AFCチャンピオンズリーグに参加するということはすなわち、勝ち抜いていけばクラブワールドカップにおいて「クラブ世界一」に到達する可能性があるということです。要するに、J1と入れ替えが行なわれるリーグで戦っているということは、「世界一決定戦」に参加しているということなのです。「J1よりJ2は下」ですが、どちらも「世界一決定戦の参加者」という意味では大差ないのです。そう言われれば、J2での戦いやJ2での記録には「カズほどの選手が挑戦する価値」があるのだと、張本氏的な批判者にも理解してもらえるでしょう。

今回の張本氏の批判を受けて、サッカー界はふたつの気づきを得たように思います。「J2」というだけで「2軍」か何かのように誤解されているという点。そして、J2から世界一につながる道が伸びていることが知られていないという点。これはいずれも、誤解であったり、説明不足であったり、単純にサッカー界が損をしているという現象です。

もしも、J1が「Jプレミア」という名前で、J2が「Jチャンピオンシップ」という名前だったなら、張本氏などはどっちが上か下かもわからなかったでしょう。当然、「J2は2軍」などという誤解もしなかったはず。張本氏にかぎらず、同じように「J2は価値のないクラス」と思っている人がいるのならばもったいない話。別に「J2」という名前がカッコイイから名乗っているということでもないわけですし。

こうした単純な部分で、まだまだ検討の余地があるということ、サッカー界にもよい発見となったのではないでしょうか。張本氏みたいな人にも見てもらえるリーグ、張本氏みたいな人も取り込めるリーグになれたら、そのほうがサッカー界にとっても好ましい状態のはずですからね。

(文=フモフモ編集長 http://blog.livedoor.jp/vitaminw/