今年3月にグランドオープンした日本一高いビル、あべのハルカス。7路線もの鉄道の交差点という立地もあり、近畿圏のさまざまなところから客がやってくる。海外からの訪問客も増加している。

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大型商業施設が続々オープン、USJのV字回復など大阪から明るい話題が聞こえてくる。
現状はどうなのか探ってみると、そこには地方再生のヒントにもなる、大阪の新しい挑戦が見えてきた。

※第1回はこちら(http://president.jp/articles/-/14196)

■キタ・ミナミに続く阿倍野エリアの開発

大阪市阿倍野区に3月に開業したあべのハルカスもまた、新しいランドマークだ。日本一高い高層ビルに、展望台、近鉄百貨店、ホテル、オフィス、美術館などが入居する複合施設である。百貨店部門、特に若い女性向け専門店の不振が伝えられるが、8月末までの全館の入場者数は2220万人という。

近鉄、JR、阪堺電車、地下鉄などの路線が集まる交通の要衝にあり、関空まで30分ほどと、交通の利便性は高い。そんな好立地で、ショッピング、宿泊、食事などが1カ所で楽しめることに、期待が集まる。

ビルを運営する近畿日本鉄道の取締役専務執行役員、赤坂秀則氏によれば、ハルカス300(展望台)が好評だという。58階の天空庭園と、60階の大阪平野を一望するガラス張りの天上回廊など3フロアで構成されている。

「施設間の連携を売りのひとつにしていきたいと考えています。たとえばホテルに宿泊のお客様には、百貨店でお買い上げされた品物をお部屋までお運びしますし、朝は展望台の営業時間前に特別にご案内してご来光を見ていただいたりしております。宿泊の6割くらいが、朝の展望台に上がってこられます」

60階の天上回廊のさらに上のヘリポートにも、1回30名、1日に10回程度に限って、案内しているという。
「そこが地上300メートル。ここからの景色は絶景です。六甲山に夕陽が沈むときなどは息を呑むほどですよ」

ハルカス展望台は、大阪を代表する新たな絶景ポイント。海外からの旅行者にも来てもらうべく、今後、現地へのPR活動なども積極的に展開していくという。7月以降、USJの袋を持った外国人の姿を見ることも少なくないという。ここでも、強い吸引力で海外から顧客を引き付けるUSJとの相乗効果が認められる。

では、あべのハルカスやUSJなどの集客力のある施設が、周辺に及ぼす経済効果はどうなのか。

まずは、あべのハルカス。関西大学大学院教授の宮本勝浩氏の試算によれば、大阪府におけるあべのハルカスの経済波及効果は、建設費なども含む初年度で約4549億円、開業翌年からの平年度は約2410億円になる。また、この平年の経済波及効果は、この後長年にわたって大阪経済を潤すことになるとのことだ。

一方のUSJは、12年時点で、そこからの10年間に、新たなテーマパークやアトラクションを導入した場合を想定し、10年間トータルの経済波及効果を試算した。その結果、USJが新しいテーマパークやアトラクションを導入した場合の近畿地方における経済波及効果は約3兆1400億円、全国における全経済波及効果は、実に約5兆6200億円にのぼった。

この巨額の試算について、ユー・エス・ジェイ執行役員の森岡毅氏はこう言う。

「テーマパークというのは街みたいなもの。街には物販業者も飲食店員も、イベントプランナーもエンターテイナーも、企画や経理、管理の人もいる。多くの雇用を生み出しているところが大きいですよね。それと、5兆6000億円というのは、GDPにもなんらかの影響があるくらいの金額です。テーマパークという業態が、経済効果の異様に高い業態だということをこの試算で教えていただいた気がします」

森岡氏は、この経済効果の規模の大きさを知り、さらに筋肉質の攻める経営が必要だと言う。

「USJの持つ、世界で最も効率的に大型集客施設を運営するノウハウの輸出など、まだまだ構想は尽きませんが、日本を元気にするため、アジアのリーディングカンパニーへの階段をのぼるためにも、先を見据えながら大阪への投資を大事にしていきたい。今は、ハリー・ポッターファンをUSJファンにいかに変えるか。そのためにイベントのクオリティーも昨年より上げているし、『進撃の巨人』『エヴァンゲリオン』『モンスターハンター』と『バイオハザード』と、日本が誇る4つのブランドが一堂に会するクールジャパンのイベント等も計画しています」

ハリー・ポッターの成功に甘えず、森岡氏はすでに次の手を打ち続ける。

関空も、今後へ向けたポテンシャルが残されていると、新関西国際空港の安藤圭一社長兼CEOは言う。

「関空は現状の1.5倍ほどの発着枠を残していますし、第3ターミナルビルを完成させた後も150ヘクタールの未使用地も持っている。まだまだ、すごいポテンシャルがあるんです」

国内の遠隔地や海外から客を呼び込み、消費に結びつけることが、大阪経済の浮揚につながり、その時点で、ホテルや交通網のさらなる整備拡大も見込める。従来型の企業誘致による人口集積なくしても、多大な経済効果をもたらすことは不可能ではないのだ。

問題は、いかにして人を引き付けるだけの新たな魅力をつくり続けられるかだ。そういう意味で、大阪の勝負はこれからが本番。観光立国への先鞭をつけられるか、期待が集まる。

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ユー・エス・ジェイ CMO 森岡毅
昭和47年生まれ。神戸大学経営学部卒。平成8年、P&G入社。北米パンテーンのブランドマネージャー、ウエラジャパン副代表などを経て、平成22年ユー・エス・ジェイ入社。24年より現職。
 
新関西国際空港 社長兼CEO 安藤圭一
昭和26年生まれ、東京大学経済学部卒。昭和51年現三井住友銀行に入行、代表取締役兼副頭取執行役員などを歴任。平成24年4月新関西国際空港株式会社代表取締役社長に就任、7月より現職。

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(大竹 聡=文 水野浩志=撮影 AFLO、PIXTA=写真)