これからの就活に起こる3大変化

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大学生の就職活動が昨年12月1日から解禁となり、あちこちでリクルートスーツ姿を見かけるようになりました。人事・採用担当者はもちろんですが、組織に属して働いていると、採用面接の面接官を担当したり、大学生からOB・OG訪問を受けたりと、何らかの形で採用活動に関わる機会もあるのではないでしょうか。そこで、今回は、採用活動の未来について考えていきたいと思います。

大学生の就職活動については、長期化による学業への悪影響を是正するため、このところ、後ろ倒しとなる傾向が続いています。安倍晋三首相の要請により、2016年卒の大学生からは、就職活動の解禁時期が現行の3年生の12月から3年生の3月へ繰り下げられることになりました。

解禁時期が繰り下げられると、当然ながら企業が人材を見極める期間は短くなります。しかし、いい人材を採用するためには、時間と手間がかかるもの。そこで、これからの採用活動は「前倒し化」「アングラ化」「マルチルート化」が、ゆっくりと段階的に進むのではないか、と私はにらんでいます。

まず、就職活動の期間が短くなればなるほど、企業は少しでも長く見極め期間を取ろうと、アルバイトやインターンシップ、リクルーター面談など、表向きではない非公式な手段で採用活動をより前倒しして、早期から学生との接触を図ろうとするはずです。

採用活動のスタートが3年生の3月だとしても、見極めはもう少し早くから始まります。具体的にはインターンの持つ意味が大きくなるでしょう。現在の対象は3年生が中心ですが、2年生、さらには入学直後から始まってしまう可能性もあります。近年、初年次教育などでは、企業と大学でコラボレーションして行う授業が増えていますが、そうしたものも採用の参考資料になっていくかもしれません。アルバイトでの働き方も、採用の資源として利用されることも考えられます。

かくして就職活動は、ある時点で一斉に行われるムーブメントではなくなり、大学1年生から4年生の間に、自ら意識的に将来へつながるフックを探していく一連のプロセスのようなものとなっていくでしょう。そうなると「どのゼミに入るのか」「どんな授業をとるのか?」「どんなアルバイトをするか」など、過ごし方が重要になり、学生のほうも相当したたかに動く必要があります。

学生時代の活動が職業に直結するということになると、入学時から就業意識が高くないと大学生活を乗り切れません。キャリア教育自体も大学入学以前に「前倒し化」していく必要が出てくるでしょう。

■新卒一括採用はなくならない

「前倒し化」が進めば、採用活動はどうしても非公式な形を取らざるをえなくなり、目に見えにくいものとなります。アルバイトやインターン、リクルーター面談、あるいは「学生と企業のコラボ商品開発」「学生向けiアプリ開発コンテスト」などに姿を変え、「アングラ化」が進みます。

しかし、この「アングラ」採用活動には、インターネットを通じた採用活動のように、誰もがエントリーすることはできません。均一にその機会が提供されるわけではなく、その機会にアクセスできる情報源、ネットワークを持っているかいないかで大きな差が生まれてしまうのです。

公平性という意味では大きな問題がありますが、経営学的に言えば、企業にとって採用の目的とは、「戦略を達成するために人を調達する」というだけのこと。そこには「どんな方法で」ということは規定されていないのです。より安価に確実に優秀な人材を確保したいと考える企業にとって、早期から囲い込みができるメリットは大きく、今後もこうした傾向は進むように思います。表向きには、企業が採用活動を前倒しすることは難しいため、「アングラ」ルートは、最終面接へのファストパスとして機能するとみています。

日本では就職、就活を入試のように公明正大であるべきもの、と考える風土が根強くあるため、これからも表向きには新卒一括採用方式は続くでしょう。実際、新卒一括採用方式は採用のコストを抑えられる優れた仕組みでもあります。社内で人材を育成し、適所に配置していく内部労働市場が発達している日本企業にとって、人材を一度に大量に安価に採用できるメリットは大きいものです。

こうした新卒一括採用はなくならないものの、これからは「アングラ」ルートで入社する人が増えていくでしょう。もちろん、今までも縁故も含め、様々な採用のルートがあったわけですが、より複雑になり「マルチルート化」が進む、というわけです。

このように採用活動の「前倒し化」「アングラ化」「マルチルート化」が進むと、次は、新人を早期戦力化するため「育成の前倒し」が行われるようになるでしょう。現に、ITベンチャーなどでは、学生をアルバイトやインターンの形で育成した後に採用するなど、採用と育成がセットになっている企業も増えてきています。

こうした変化が起きると、採用活動は今までのように人事部の採用担当者だけが携わるものではなくなり、多くの人が関わるようになってきます。中には人材を必要とする部署の管理職に権限を持たせ、そこが主体となって組織単位で採用活動を行う企業も出てくることでしょう。

■面接よりインターン重視に

ここで重要になってくるのが、「いい人」の見極め方です。「いい人」の基準は企業によって異なるものですが、結局は「仕事ができる人」そして、「一緒に働きたい人」「組織になじむ人」をいかに見抜くかということです。

面接による選考では限界があるでしょう。よく練られた面接であれば弁別率が高いと言わますが、面接官によって基準がブレるなど、当たりはずれも多々あります。

確実なのは、短い時間、実際に仕事をさせてみることです。ワークサンプルを与え、一定期間、その仕事ぶりを見れば、「仕事ができるかどうか」も「一緒に働きたいか」「組織になじみそうか」もよくわかります。手間も時間もかかりますが、会社ではなく組織単位で必要な人材を選考する採用活動がもう少し一般的になれば、それは徐々に普及していくはずです。アルバイトやインターンは、短期間に見極めを行う機会として活用されていくのではないでしょうか。

今後は、面接でどう受け答えするかよりも、大学時代から仕事に近い経験をしていて、かつ「一緒に働きたい」と思わせる学生が有利になってくるでしょう。

今回は採用・就活の未来を書きましたが、実は、今日お話しした内容は、ひとつの会社をひとつの労働市場と見立てれば、社内においても現在進行形のことなのです。

仕事上のチャンスは「一緒に働きたい」と思わせる人にしか降ってこないものです。社内で新しいプロジェクトメンバーとして抜擢されるのも、今より条件の良い仕事に転職するのも、「仕事ができて」「組織になじみ」「一緒に働きたい」と思わせる人材でなければ、叶いません。そのためのワークサンプルは、もしかすると、あなたの近くにあるかもしれません。

今の時代、就活が“就社”とは限りません。そう考えるのであれば、働く人々は永遠の就職活動に従事しているともいえるかもしれません。あなたは「一緒に働きたい人材」になっていますか?

(東京大学大学総合教育研究センター准教授 中原 淳 構成=井上佐保子)