元楽天・ラズナーが語る田中将大

 楽天からポスティングされた田中将大投手(25)の去就に米国内でも注目が集まっているが、その素顔についてはまだまだ知られていない部分が多い。その「謎」を解明するため、昨季限りで楽天を退団したダレル・ラズナー投手(32)が米CBSスポーツ電子版のロングインタビューに応じている。

 ラズナーは2006~2008年にヤンキースに所属し、メジャーで9勝を挙げている。その後、2009年に楽天に入団。先発や抑えとして活躍したが、昨年途中に右肘を痛めて母国での手術に踏み切り、オフに自由契約となった。

 真面目な人柄でナインからの人望は厚く、5年間共にプレーした田中からも一目を置かれていた。そして、ラズナーへのインタビューを行っているのは、ヤンキース担当を13年間務めるスウィーニー・マーティ記者。名門球団は田中獲得に本腰を入れているだけに、質問も次第に熱を帯び、旧知の仲である右腕から極上のエピソードを引き出している。

 米国で報じられている話は真実なのか。そして、実力は本物なのか。同じ投手として田中を間近で見てきた男が語る内容は実に興味深い。

 まずは昨年の活躍について。

「彼は最高だった。表現する言葉が見つからないくらいにね。見ていて本当に楽しかったよ。彼は特別な男だ。いい投手というのは特別なギアを持っている。ピンチになると、そのギアを上げるんだ。そして、私は彼の精神的な強さも見てきた。彼はブルドッグだね」

 特別なギアとは何なのか。マーティ記者は「スピードが3~4マイル(4.8~6.4キロ)上がるということか?」と聞いたが、ラズナーから見ると、田中の実力はそんな想像を遙かに超えるようだ。

「いや、10マイル(約16キロ)くらいだよ! 88~89マイル(約141~143キロ)で投げていたのに、98~99マイル(約156~158キロ)まで上がるんだ。去年、実際にそういうことがあった。その時の彼はすでに140球を投げていたんだけど、三振が必要な時に、90マイル(約145キロ)だった直球が98~99マイルになって、三振を獲ったんだ」

田中はメジャーでも通用するボールを4種類は持っている

紳士的なラズナーは楽天投手陣の間でもリーダー的な存在だった。昨年9月26日にチームが西武に勝利してパリーグ初制覇をした夜、同じ中継ぎの青山浩二は既に手術のために帰国していたラズナーの背番号17のユニホームを身に纏い、胴上げやファンへのあいさつを行っている。田中もそのユニホームを指さすなどして、感謝の気持ちを表していた。田中としてもヤンキースでプレーした元メジャーリーガーから学ぶことは決して少なくなかったはずだ。では、逆にラズナーから田中の成長はどう見えたのか。

「彼はずっと素晴らしく、ずっと特別だ。ただ、去年はクイックで投げたり、スピードを変えたりして、打者を惑わせるようになった。そして、自分がやっていることに自信を持っていた。彼のことを見るのはいつも楽しかったけど、去年は特別だったね」

米国内でも絶賛されているのは制球力。マーティ記者はスカウトから「良い」ではなく「素晴らしい」と聞いているという。ラズナーはそれに同意した。

「コーナーに投げられるし、1~2インチ(約2.5センチ~5センチ)外すことも出来る。そして、複数の球種でアウトを取れる。実は、ほとんどの日本人投手は多くの球種を持っているんだ。ダルビッシュを見たことがあると思うが、彼は12個くらい球種を持っているんだ! キャッチャーはそんなにたくさん指を持ってないよね。私が思うに、田中はメジャーでも通用するボールを4種類は持っている」

もちろん、重要なのは投球だけではない。優れた人間性、性格といった要素もメジャーで成功するためには必要になってくる。特にヤンキースでは、この部分が求められる。田中をよく知り、さらに元ヤンキーでもあるラズナーには最適な質問だろう。メジャー挑戦に向けて準備を進めたていた田中の知られざるエピソードも明かしている。

「彼は最近2年くらい英語を勉強していた。本当に熱心だったよ。楽天の外国人選手とも仲が良かった。クラブハウスでは楽しい男で、最高のチームメートだね。プロ意識も高くて、強いハートを持っている。(ヤンキースでのプレーも)大丈夫だと思う。ニューヨークのファンは厳しいけど、日本中で注目されていたし、そんなに苦にならないだろう。彼にはヤンキースのようなビッグマーケットのチームでプレーしてほしい。彼の球はダルビッシュほど強烈じゃないし、ダルビッシュほど体格に恵まれていない。でも、投球術を心得ている。だから、彼は活躍できると思う」

投球過多については不安も

最も心配されるメジャー球への対応についても、ラズナーは問題ないと見ている。実は以前から準備を進めていたというのだ。そして、ヤンキースの3Aでは井川慶ともチームメートだったことから、同じような“失敗”も起こらないと見ている。

「確かにボールは違うね。メジャーのボールの方が滑るし、少し大きい。でも、田中はメジャーリーグのボールでキャッチボールをしているし、ブルペンでもメジャーリーグの球で投げている。個人的には、大きな問題にはならないと思う。あと、ケイとの違いについては、ケイは軟投派の左腕で、田中はパワーピッチャーにもなれる。ケイについては、グラウンド外の彼は知らなかったけど、田中のことは知っているし、彼の闘争心も知っている。闘争心だけを見ても、僕は田中が活躍すると信じている。それに彼の野球に対する心構えはとても大きな要素だ」

最後に、ラズナーは米国でしきりに指摘されている田中の“投球過多”についても触れている。メジャーで野球をやってきた人間として、ここだけは不安なようだ。

「そのことは僕も心配していた。いつも彼に『投げる量を減らせ』と言っていたんだ。でも、日本の人たちはそうは考えない。特に田中は投げたくて、投げたくてしょうがない。彼からボールを取り上げるのは本当に大変なんだ。でも、それは過去のこと。彼はアメリカで、より計画的に投球することになるからね」

ラズナーが語る「タナカ像」は、極めて正確で、的を射ていると言えるだろう。“田中のことを最もよく知る米国人”として、メジャーでの成功に太鼓判を押した。米国の人たちの期待も、これでさらに高まっていくはずだ。