新規事業には4つの方向性がある(補足)/日沖 博道
先に書いた「新規事業には4つの方向性がある」に関し幾つか質問を受けたので、補足説明をしたい。
http://www.insightnow.jp/article/7421
記事の趣旨は、「新規事業の開発・推進と一口に云っても幾つか切り口が違う方向性があって、それぞれで方法論も違いますよ」ということである。その違いがあの短い説明だけではピンとこない部分があるようだ。尤もなご指摘・ご質問である。
「競争戦略」と「ブルー・オーシャン戦略」の違いは、前者が既存競合のいる当該カテゴリーの事業への進出であるのに対し、後者は新規カテゴリーの事業への進出であり、純粋な意味での競争者がいない(だからブルー・オーシャンと呼ぶ)。
要は後者の場合、競争軸の違う新規カテゴリーを創出し、自社がそのカテゴリーの先駆者になるのである。キム教授とモボルニュ教授が例として挙げていたイエローテイルというオーストラリアのカジュアル・ワインは、高い品質と気軽に楽しめる価格帯という組み合わせにより、既存ワインの愛好者を奪ったのではなく、ビール、カクテル飲料を飲んでいた初心者を取り込んで大成功した例である。
では「ブルー・オーシャン戦略」と「ビジネスモデル変革」とはどう違うのか(この質問が多かった)。前者は既存のビジネスモデルで成り立っていても全然構わないのである。
例えばイエローテイルのワイン製造のビジネスモデル自体は基本的に競合と全く同じである(製造法については熟成せずに出荷するという違いはあるが)。任天堂のWiiのケースもまた「ブルー・オーシャン戦略」ではあるが、ビジネスモデルとしては旧来のままである。
一方、ビジネスモデル自体が新規である「ブルー・オーシャン」ケースも当然ある。ヘアカット店のQBハウスの場合、サービスのカテゴリーも新しい(サービスの中から「理髪」以外を省略、所要時間を10分間に短縮)が、それを成り立たせているビジネスモデル自体が既存の割安理容店とは全く違う(技能レベルの低い従業員の採用、金銭のやり取りをしない、フランチャイズ・チェーン展開など)。
逆に「ビジネスモデル変革」ではあっても、商品・サービスのカテゴリーとしては既存のままというケースも多く存在する。例えば製造アパレルのSPAというビジネスモデルにおいて提供される商品の大半は、伝統的なアパレルと同じカテゴリーである。またBuilt-to-orderという直販ビジネスモデルで有名なデル・コンピュータの商品もまた既存競合と同じカテゴリーである。
つまり「ブルー・オーシャン戦略」と「ビジネスモデル変革」は両立するし、互いに独立的な戦略思考なのである。ただ実践的には両者のアプローチはかなり違う。
第一に、どちらの軸で新規事業を考えるかの戦略発想の出発点が全く違う。
「ブルー・オーシャン戦略」では新しいカテゴリーの事業を成立させるために戦略キャンバス上で競争軸をどう変えるかを検討するのが、思考の中心である。結果的に新しいビジネスモデルを必要とすることもある。
それに対し「ビジネスモデル変革」では、ビジネスモデルを変えることで顧客提供価値が変わることを初めから狙う。例えば、既存のバリューチェーンを分断して一部にフォーカスしてみる、収益モデルとしてフリーモデルを採用できないか検討してみる、等々。
もう一つ意外に知られていないが、両者の大きな違いは戦略仮説に対する検証に関する考え方である。
「ブルー・オーシャン戦略」では新カテゴリーでの市場制圧を意図するため、限定されたマーケットでの試行、というような方法は原則として取らない。
それに対し「ビジネスモデル変革」のアプローチにおいては机上でのシミュレーションだけではなく、必ずといっていいほど限定マーケットまたは限定商品での試行を行い、それで修正しながら事業拡大を目指す。新しいビジネスモデルが機能するかどうか、深刻な問題が派生しないかどうかは試行してみないと分からないからである。
既に長くなったので、海外などの「未開拓市場への進出」に関しては機会を改めて論じたいと思う。
(本記事は2012年12月6日に掲載されたものを再編集しております)