『ULTRAMAN』清水栄一・下口智裕/小学館
ウルトラマンに息子がいた! ハヤタ隊員は歳を取り、その息子には一体化していた時の「因子」が残っていたため、彼は狙われ、戦わねばいけなくなる……。日本トップクラスのヒーローを、アメコミ調のノリで描いた『ULTRAMAN』。新時代のヒーローの誕生

写真拡大

ウルトラマンの息子!
そんなこと言われて心ときめかないわけないじゃない! 
なにそれ早く見せなさいよ!
やっぱりウルトラの父とか母とかみたいなノリのウルトラの息子なの?

清水栄一・下口智裕の『ULTRAMAN』は、ウルトラマンの息子を主人公にした全く新しい物語。
と言っても、想像していたウルトラの母的なものではありません。
あまりにも生々しくて、実際にありそうな物語でした。

初代「ウルトラマン」、今でも大人から子供までファンがいっぱい。
M78星雲からやってきた宇宙人が、科学特捜隊のハヤタ隊員と同化し、戦う物語です。
その事自体は最終回でも誰も知らず、宇宙人や怪獣が地球を襲ってきた時に巨大な姿に変身し戦います。
日本を代表する超有名ヒーロー。リアルタイムで見ていない人も、一度は目にしたことがあるでしょう。

物語は、光の巨人ウルトラマンが故郷に帰り、同化していた人間ハヤタ隊員が数十年たったところから始まります。
ハヤタ隊員、すっかりおじさんなんですよ。
これは正直ニヤっとしました。良い感じのおじさんなんです。だよねー、光の巨人離れたら普通に年取るよね。
今ではハヤタ・シン防衛大臣になっています。
彼には息子がいます。名前は進次郎。ハヤタ・シンが歳いってから生まれた少年です。
ただ一つ大きな問題が。ウルトラマンであった時の記憶を一切彼は失っています。

進次郎クン、3階から落下しても怪我一つしません。
ハヤタ・シンも誰にも言わないけれども、鉄なんて簡単に曲げるくらいの怪力の持ち主。年老いているのに。
これはなんだ? どうしてこうなる? わからない!
ハヤタは苦しみの末、思い出してしまいます。
「俺がウルトラマンだった……」
それから12年。進次郎も高校生になり、ハヤタもおじいさんになります。
進次郎は気づきだします、自分には異常な身体能力がある。

この作品には光の巨人、誰もがよく知るサイズのウルトラマンは出て来ません。
だから正確には「ウルトラマンの息子」ではなく「ウルトラマンだったハヤタ・シンの息子」の物語です。
光の巨人ウルトラマンと同化したことで、ハヤタと進次郎にウルトラマンの因子が残っている、っていうのが問題になってきます。
これがハヤタ・シンと進次郎に超人的な身体能力を与えます。怪力、超跳躍、高速ダッシュ。便利!
けれどもあくまでも「因子」いわば「かけら」。
ウルトラマン「だった」けれども、ウルトラマンに変身できるわけじゃない。
なぐられれば怪我をしますし、血も出ます。大きくもなれません。

そこでハヤタ・シンと進次郎が身に付けるのが「プロトスーツ」と呼ばれる、科学の粋を集めた防御服。メカニカルスーツです。
こーれがかっこいいんだ。
ウルトラマンといえば必殺技「スペシウム光線」がありますよね。腕を十字にクロスして打つビームです。
あのスペシウムがスーツの腕の肘から手首にかけて、蛍光灯のように噴出。これで殴れば大ダメージを与えられるし、噴射して飛ぶこともできます。
とはいえスーツがすごいわけじゃありません。着ているウルトラマン因子を持った人間を守るだけで、実際の動きはハヤタと進次郎のものです。

ハヤタ・シンだってもう戦いたくないですし、進次郎を怪我させたくない。
しかし、ウルトラマンの因子は宇宙人たちの狙いの種なんです。
ハヤタがウルトラマンと同化した時点で、たとえウルトラマンが去っても、彼と彼の息子が巻き込まれるのは運命だった……。
大きくなれない、でも逃げられない、等身大ウルトラマン物語の誕生です。

ウルトラマンが放映されたのが1966年。当時の年齢設定が25歳。
2000年がハヤタがウルトラマンだと思いだした年。ハヤタ隊員は58歳。2012年が進次郎高校生になった年、ハヤタ隊員70歳だと考えるとまさにリアルタイム。
70歳はちょっと年いきすぎかな、でもおじいちゃんハヤタ隊員はなかなかかっこいいので一見の価値ありますよ。
どこかに記憶を亡くしたハヤタ隊員がいて、そして息子がいるんじゃないか? なんて妄想をしてしまいます。

この作品がユニークなのは、ウルトラマンという極めて日本的なヒーローを描いていながら、作風や主人公のあり方はアメコミヒーロー的だということ。
ウルトラマンも苦労の多いヒーローでしたが、自分の記憶、家族を守りたいという思い、自分に宿った強大な力などに困惑する様子、それでいて楽天的に力を使えないか実験してみる感覚など、非常にアメコミヒーローチック。正義の為に戦う!とかではなく、悩みや力の使い方が、等身大の父親と高校生なんです。
加えて表紙の体裁やデザイン、描き方もアメコミ調。ウルトラマン=光の巨人、の構図をぶち壊すような、ギミック満載のパワードスーツがこれまたユニーク。さながらスパイダーマンの身体能力をもったアイアンマン、と言ったところ。これ実写で見たいですね。

それでいて、往年のファンをニヤリとさせる演出が多い!
科特隊の仲間たちは「最後にゼットンが現れたとき、どこか頭を強く打って部分的な記憶障害になったとか?」とハヤタに語ります。
ゼットンな! ウルトラマンを見た子供で、最強の敵ゼットンを心の底から憎んだ人は多いはず。ウルトラマン負けてますからね。
また人間サイズの飛来してきた宇宙人の名前がベムラー。自らを「始まりの敵」と呼んでいますが、宇宙怪獣ベムラーといえば第一話「ウルトラ作戦第一号」ですよ。形状は全然違いますけどね。
ベムラーはウルトラマン本編ではスペシウム光線でやられました。
新生ウルトラマンも、「右手首の制御ユニットを左手首のコネクタに接続」することで……そう、つまり腕をクロスすることで、スペシウム光線を撃つことができるのです。

日本ヒーロー的な守るべきものを背負い、アメコミヒーロー的なアクションを繰り広げる。
全く新しいアクションヒーローマンガのはじまりです。
ちなみにこのマンガ、どの雑誌でやってたか知らないぞ、という方も多いかもしれません。『ULTRAMAN』はセブンイレブンのみで販売されている「月刊ヒーローズ」という雑誌で連載していますので、気になる方はセブンイレブンへ。
今のところウルトラマンの科特隊員はハヤタとイデだけですが、ムラマツ隊長やフジ隊員も是非出て欲しいですね。

えっ、初代ウルトラマンを見たことがない?
大丈夫。ヒーローってのは、目の前にいて心躍らせてくれるヤツの事を言うんだ。だから、問題ない。

清水栄一・下口智裕の『ULTRAMAN』

(たまごまご)