マンガ家・岸本斉史「僕がずっと抱いてきたモテなくて、泥くさい劣等感を描き出したのが『NARUTO』なんです」
『週刊少年ジャンプ』で13年近く続く大人気連載マンガ『NARUTO』。長きにわたり人気を保つ、その理由とは? また、今回岸本先生が自らストーリー制作を手がけたという映画の魅力もお届け! 普段、あまり表に出ないという岸本先生の激レアインタビュー!
■尾田さんがやったのなら、僕もやってみようと
忍者バトルアクション作品『NARUTO−ナルト−』のアニメ化10周年を記念して、7月28日から劇場版アニメ『ROAD TO NINJA −NARUTO THE MOVIE−』が公開される。劇場版9作目にあたる本作は原作の岸本斉史(まさし)自ら、初めて企画からストーリー、キャラクターデザインに至るまで、全面的に参加しているという。
岸本 実は映画の7本目あたりから「何かアイデアはありませんか?」って言われていたんですけど、週刊連載で忙しいからと断っていたんですよ。でも、今年に入ってアニメが10周年を迎えたのを機に、もともと温めてきたアイデアをやってみようかな……と思ったんです。
―実際に始めてみて、ものすごく大変だったんじゃないですか?
岸本 尾田栄一郎(おだえいいちろう)さんが映画『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』をやっていたときに大変そうだなって思っていたんです。で、実際に自分がやってみたら本当に大変でした(苦笑)。でも……やり始めたらスイッチが入ってしまって、結果的にはマンガと同じぐらいの力を注ぎました。最終的にはマンガの中でできないことを映画でやることができたので、ちょっとした息抜きにはなりましたけどね。
―映画を手がけたのは尾田さんを意識したのも理由だと?
岸本 それは意識しますよね。尾田さんがやったから、僕もやってみようという気持ちはありました。ただ、自分がやってみてわかったのは、尾田さんも映画を作るのに相当プレッシャーがあったんだろうなって……。
―一番大変だったことは?
岸本 スケジュール管理ですね。週刊連載をしながら、映画の内容やデザインもやらなきゃいけない。今回の内容が家族ものなんですけど、プライベートの時間がまったく取れなくなって、家族をほったらかしにしちゃったんです。作者自身が家族第一になっていないという状況になりました(苦笑)。
―なぜ、今回は家族ものを?
岸本 僕自身、もともと家族ものの作品が好きなんですよ。映画では『バック・トゥ・ザ・フューチャー』やマフィアものといった家族を裏テーマにしている作品をよく観ています。連載では、すでにこの世にいない両親を登場させることはできませんが、映画の中ではそれができる。それが今回一番大きかったですね。ナルトの両親への想いや両親からのナルトへの想いをいつかきちんと描きたいと思っていましたから。なので、今回できてうれしかったです。
―岸本さんご自身が家族を持たれた影響もあるのでは?
岸本 確かに自分が家族を持ったことは大きいです。家族がいないと、もうすでにつぶれちゃってますね。今日着ているこのジャケットも奥さんが買ってきてくれて……。普段まったく外に出ないんで、部屋着しか持ってないんですよね。あとはベタな話ですけど、携帯の中に子供の動画を入れていて、仕事がキツいときにはそれを見るだけで元気になりますよ。
―少年マンガというと「家族愛」よりも「仲間の絆」を大切にしているイメージがありますが、今回の映画ではそのイメージを覆し、「家族」を取り上げることに抵抗はありませんでしたか?
岸本 年を取ったんで、少しはしょうがないのかなって(笑)。でも、ちゃんと中2脳で描くことは常に意識していますよ。
―中2脳?ですか?
岸本 ジャンプ読者を意識した精神です。性に目覚める前の新鮮な脳に戻ろうと常に心がけています。
―具体的には?
岸本 当時好きだったマンガを読んだり音楽を聴いたりすると、そういう感覚が戻ってきます。僕の場合、マンガだと特に『ドラゴンボール』や『AKIRA』とか。音楽だと『ドラクエ』の音楽ですね。その感覚をアシスタントに言うんですけど、あんまり伝わらないんですよ。逆に、おっさんくさいって言われるし(笑)。
■長きにわたり人気を保つ秘訣はココにあった
―長年、大人気の『NARUTO』。その魅力のひとつに、主人公のナルトが抱える劣等感をつい応援したくなるというものがあると思うんですが。これは、岸本さん自身にも通じる部分があるんでしょうか?
岸本 僕自身、劣等感の塊(かたまり)です。もともと僕はスポーツができるわけでもなく、頭もよくない。女のコにモテるわけでもないから、子供の頃からずーっと劣等感しかないんです! なかなか自分を認めてもらえる場所がなくて……。新人の頃、描いても描いてもボツをくらって、つらい日々が続いていました。そして、これで最後にしようと思って描いたのが『NARUTO』だったんです。僕の持っている劣等感をそのまま投影しちゃったから作りやすかったんだと思いますね。
―本誌で取材するアイドルの女のコたちにも『NARUTO』はすごい人気ですよ!
岸本 えっ? 『NARUTO』は女のコに人気がないと思うんですが……。こういう泥くさいマンガって女のコは嫌いそうじゃないですか。ただ……それを考えると、『NARUTO』好きの女のコは男心をわかってくれる、気の利いたいいコなのかもしれませんよね(笑)。
―さらに、海外でも大人気のようですが。
岸本 うれしいんですけど、あまり意識はしていませんね……。大きくなっちゃったなぁって(笑)。でも、外国人は本当に忍者が好きなんだってことは実感しました。とにかく忍者をテーマにしてよかったなって思っています(笑)。
―今回の映画の中で特に注目してほしい部分はどこですか?
岸本 う〜ん、それは全部なんですけど……。しつこいですが親子のシーンはぜひ観てほしいです。あとは、今回、映画の中で「男のやせ我慢」みたいなものを描いたんです。勝手なイメージですけど週プレの読者さんって男のやせ我慢をわかっている方たちが多いと思うんですよね。仕事でも恋愛でも男は黙って耐える……みたいな美学を。映画を観たら絶対に共感してもらえると思います!
マンガを読んだことがない人も楽しめる映画になっていますのでぜひ観てください。そして、それをきっかけにマンガも読んでもらえるとうれしいです(笑)。
●岸本斉史(きしもと・まさし)
1974年11月8日生まれ、岡山県出身。96年、『カラクリ』で『週刊少年ジャンプ』月例新人賞のホップ☆ステップ賞佳作を受賞し、デビュー。99年、『NARUTO−ナルト−』連載開始。単行本の累計発行部数は1億2000万部突破!! 今回、映画のストーリー制作に挑戦
『ROAD TO NINJA −NARUTO THE MOVIE−』
全国東宝系にて7月28日(土)公開!
ナルトたちの住む木ノ葉隠れの里に、謎の仮面男によって解放された巨大な魔獣・九尾が襲いかかる。里の統領である四代目火影・ミナトと妻・クシナは息子・ナルトの体に九尾を封印することで里の平穏を取り戻した。しかし、十数年後。再び謎の仮面男が姿を現し……。里を守った父母に代わり、ナルトが挑む!