(※画像はイメージです/PIXTA)

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空き家をそのまま放置すれば、高額な維持費や税金が負担となり、お金と体力を奪い続ける「負動産」になってしまいます。本記事では、築40年の東京の実家を空き家にして維持管理に疲弊した42歳長女の事例をもとに、葛藤から月12万円の家賃収入を生み出すまでの経緯と、空き家放置のリスクについて、CFPの下田幸彦氏が解説します。

青森移住と突然の悲劇…東京の実家が「空き家」に

サチコさん(仮名・42歳)は東京出身で、きょうだいのいない一人娘です。結婚後、しばらく東京で暮らしていましたが、長男の小学校入学と同時に、夫の地元である青森へ移住することになりました。

一人娘として両親と離れて暮らすことに不安はありましたが、幸いにもサチコさんの両親は健在で、東京の実家で元気に夫婦二人の生活を楽しんでいました。

しかし、そんな穏やかな日々に突然の悲劇が襲いかかります。母親が60代で胃がんを患い、帰らぬ人となってしまったのです。

そして遺されたサチコさんの父親は、一人暮らしになりました。長年勤めた会社に顧問として関わりながら生活していましたが、最愛の妻を亡くした寂しさからお酒の力を借りるようになり、次第に元気がなくなり、食も細くなっていきました。

心配したサチコさんは、父親を青森に連れてきて同居することを決断。こうして、東京の実家は空き家になりました。

「このままだと壊れちゃう…」維持費・移動費で疲労困憊

空き家になった実家は、築40年ほどの戸建てです。数年前にリフォームしていたものの、人が住まなくなった家は急速に傷んでいきました。

そのため、サチコさんは年に数回、新幹線で青森から東京へ帰り、実家の換気をして庭の手入れをする生活を余儀なくされました。交通費だけでも家計を圧迫し、誰も住んでいない家の固定資産税もかかり続けます。家を維持するためだけに、お金と時間、そして体力が削られていきました。

「このままだと壊れちゃう。これ以上、家計も私の体も持たない……」

サチコさんは疲労困憊し、精神的にも金銭的にもまさに“どん底”の状態でした。「このままではいけない」と頭ではわかっていても、他の選択肢が思いつかずどうしようもありませんでした。

夫から「賃貸物件として貸し出すことも考えてみては?」と提案されても、なかなか踏み切れませんでした。

「実家に他人が住むなんて……帰る場所がなくなるみたいで寂しい」

サチコさんにとって、親子3世代で暮らしてきた実家は、家族との思い出が詰まった大切な場所です。知らない誰かが玄関を開け、リビングで過ごし、庭を歩く。その光景を想像するだけで、喪失感に近い気持ちが湧き上がってくるのは、無理もありません。

2年間の葛藤を経て、実家を賃貸化…「月12万円」の安定収入に

しかし現実問題として、この赤字状態をいつまでも続けることはできません。

2年が経ったころ、サチコさんはついに「賃貸に出す」という決断をしました。ただ、動き出したのはいいものの、思ったよりやることが多くありました。

まず不用品の処分と室内の清掃です。長年住んでいた家には、家具や荷物が残っています。これを整理するだけでも相応の時間と費用がかかります。次に壁紙の張り替えなど内装のリフレッシュ。諸々の費用を合わせると、賃貸に出すまでの初期費用は約150万円になりました。

次に仲介業者を探し、専属専任媒介契約で物件の募集をかけました。幸いなことに借主はすぐに見つかりました。サチコさんは不動産の賃貸経営などは未経験でしたが、仲介業者の選び方から契約内容の確認、税務上の扱いまで一つひとつ専門家に確認しながら進めました。

結果として、お金と体力を奪い続けていた「負動産」が、毎月12万円の家賃収入を安定的に生み出す「資産」へと生まれ変わったのです。

月12万円の家賃は割安だが…空室リスクを回避した判断

月12万円という家賃については、東京の戸建て、リノベーション済み、立地次第ではもう少し高く設定できた可能性があります。

ただ、サチコさんの考え方は「長く安定して貸せるほうが大事。空室になって困るよりいい」と明快でした。

これはこれで一つの合理的な判断でしょう。高い家賃を設定して空室リスクを抱えるより、少し低めに設定して長期入居をしてもらう。オーナーの価値観や優先順位によって、正解は変わります。

【CFPが解説】固定資産税、火災保険…「空き家」放置でかかるコスト

サチコさんの事例から教訓として得られるのは、「何もしない」状態でもコストはかかり続けるという事実です。

空き家のまま放置すれば、固定資産税はかかり続け、建物は傷み、維持のための往来コストも積み上がります。さらに2023年の空き家対策特別措置法の改正により、管理不全の空き家は固定資産税の優遇措置が外れる可能性も出てきました。

そして、もう一つ見落としがちな問題があります。それは「火災保険」です。

空き家は「人が住む家」とみなされないため、通常の住宅用火災保険では引き受けを断られるケースがあります。引き受けてもらえる場合でも、保険料が住宅物件の1.5~2倍に跳ね上がることも珍しくありません。空き家は放火や漏電、無人ゆえの管理不備による近隣への延焼リスクが高いとみなされるためです。

実際に、空き家状態のまま従来の火災保険を継続していても、いざ事故が起きたときに「告知義務違反」として保険金が支払われないケースもあります。そのため、空き家になった時点で保険会社に連絡し、「一般物件」として契約し直すか、空き家専用の保険に切り替える必要があります。

賃貸に出すことが決まれば、借主が入居した時点で通常の住宅用火災保険に戻せます。空き家を賃貸化することは、保険の面でもリスクを解消することにつながります。

「実家を手放したくない」というサチコさんの気持ちはよく理解できます。しかし感情の壁を越えて一歩踏み出すことで、空き家が「負担」から「資産」に変わることもあります。

サチコさんが最初に「帰る場所がなくなる」と感じていた実家は、今は安定した家賃収入を生み出しながら、誰かの大切な生活の場になっているのです。

親の家をどうするか…「負動産」を「資産」に変えるために

親が元気なうちは「まだ先の話」と思いがちですが、いざ空き家になってから動こうとすると、感情的にも実務的にも負担が重くなります。親の家の問題は、思っているより早く、思っているより複雑な形でやってきます。

売却するか、賃貸に出すか、自分たちが使うか。選択肢はいくつかあります。

しかし、どの選択をするにしても、早めに家族で話し合い、物件の状態や市場価値を把握しておくことが、将来の選択肢を広げることにつながります。

下田 幸彦

青い森FP事務所

代表/CFP®

※個人情報保護の観点から、登場人物の情報を一部変更しています。