「優勝争いに絡む」は横綱の責任…「大の里」は6場所ぶりVでひと皮剥ける 十両昇格「竜鳳」と史上最強の新弟子にぜひ注目を【音羽山親方の秋場所総括】
2021年3月場所で現役を引退し、2年後の12月に音羽山部屋(東京都墨田区)を創設した、71代横綱・鶴竜こと音羽山親方。先の秋場所、横綱に挑戦した弟子の霧島の「綱取り」は振り出しに戻ったものの、幕下4枚目、19歳の竜鳳が勝ち越して、見事に新十両昇進を決めた。現在、勝負審判を務め、土俵下から日々厳しい目で勝負を見つめている音羽山親方に、熱戦に沸いた秋場所の土俵をあらためて振り返ってもらった。【武田葉月/ノンフィクションライター】
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【写真】息子とともに土俵入り…「霧島」を支える愛しき家族 微笑ましい集合写真から滲む強い絆
大の里にとっていい勉強になった1年
--ここ1年、負傷の影響などで不振に陥っていた横綱・大の里関が序盤戦から好調。12日目を終えて1敗と他の力士に2差を付けたことから、場合によっては13日目にも大の里関の優勝が決まるという展開になりましたね!
音羽山:左肩の負傷がだいぶ長引いていた大の里は、休場も経験し、気力が落ちていたような様子でした。名古屋場所は9勝(6敗)。ただ、8月の夏巡業は1人横綱として(豊昇龍が休場のため)、積極的に稽古に励んでいました。自分の中でもある程度「やれる!」という自信も出てきたのでしょうね!
--ところが、13日目、大関・霧島関、14日目には大関・琴櫻関に連敗。そこで浮上してきたのが、序盤で3敗を喫していた大関・安青錦関でした。

音羽山:大の里の調子を見ていたら、「すんなり(優勝が)決まるかな?」と思っていましたが、2人の大関が意地を見せましたね! 千秋楽の安青錦戦は、本来の馬力を見せ付けて圧勝して、6度目の優勝が決まりました。でも、この1年間は大の里にとっていい勉強になったんじゃないかな?
安青錦は精神力が強い力士
--表彰式の時、大の里関は人目もはばからず大粒の涙を流していましたね! 「もう優勝はできないと思った」「この景色(優勝後の表彰式)が見たかった」と、インタビューで素直な気持ちを吐露していたのも、グッときました。
音羽山:それほど、苦しかったんだと思います。私も現役時代に経験がありますが、横綱というのは「常に優勝争いに絡む」という責任があります。休場が続いてその責任を果たせないことが続いた時は、悩み抜きました。これは、神様が与えてくれた試練です。これでひと皮もふた皮も剥けて、大の里はさらに心が強くなるはずです。
--一方の安青錦関は、前半で3敗しながら、よく千秋楽の相星決戦まで持ち込みましたね!
音羽山:安青錦は精神力が強い力士だと思います。名古屋場所では相当脚の具合が悪いはずだったのに、巴戦を制して優勝。その無理がたたったのでしょう。8月の夏巡業では、土俵での稽古というより、基礎運動を中心に黙々と四股を踏んで、調整をしていました。相星決戦はとても盛り上がりましたが、まだ22歳と若いんだから、ケガをしっかり治したほうがいいと思います。
霧島は「綱」を意識し過ぎた
--さて、「綱取り」を期待された霧島関が、まさかの失速。残念ながら綱取りは白紙に戻ってしまいました。
音羽山:場所前から、本人の意気込みは相当なものでした。「綱」を意識し過ぎて、冷静さを失っているように思いましたね。特に6日目の義ノ富士戦、上手投げで敗れた相撲はよくなかった。これで、緊張感が切れてしまったのか、中盤、平幕力士に3連敗。
以前からそうなのですが、霧島は(立てた目標の)可能性が薄くなってくると、諦めてしまうところがあるんです。
秋場所、「大関獲り」がかかっていた熱海富士も同じような部分があります。10日目に勝ち越したというのに、その後5連敗で結局8勝7敗。これも、「神様からの宿題」です。前回も言いましたが、熱海富士は今回、大関を逃したものの、いつかは上がれる逸材です。焦らずに、稽古に精進してほしいですね。
弟子・竜鳳は「持ってる」感じ
--さて、9月30日の番付編成会議で、弟子の竜鳳さんが、十両昇進を決めました。入門してまだ1年。19歳の若さですから、楽しみですね!
音羽山:ありがとうございます! 竜鳳は入門した時から実力がありましたから、そう遠くない時期に十両に上がるのではないかと思っていました。でも、幕下4枚目の4番で昇進したのですから、運もよかった。名古屋場所は幕下17枚目ですから、なんか「持ってる」感じすらします(笑)。
竜鳳のよさは、相撲の反応がいいところ。いろいろな相撲が取れる器用なところがありますが、身長が低い(175センチ)ので、相手の中に入ってから組む相撲を取ったほうが、星は伸びるでしょうね。
「史上最強の新弟子」旭富士の実力
--なるほど。そして、同じく新十両を決めたのが、「史上最強の新弟子」と騒がれた旭富士さんです。話題を集めた入門からの25連勝や、序ノ口からわずか6場所での十両昇進は期待通りでもあるのですが……。
音羽山:前師匠(現・宮城野親方=元横綱・旭富士)の四股名を継いだのだから、その期待の高さがわかりますよね。彼は、モンゴルから日本の高校へ相撲留学。卒業後は伊勢ヶ濱部屋に入門したものの、同じ部屋にモンゴル人の照ノ富士(現・伊勢ヶ濱親方)がいたため、新弟子検査を受けるまで4年以上かかりました(編集部注:1部屋の外国人力士枠は1人のため)。
その間は、部屋の力士たちと稽古をしていて、今では熱海富士と五分くらいの相撲を取ると聞いていますから、実力のほどがわかります。十両は軽く通過して、すぐにでも幕内の土俵で活躍する予感がします。
竜鳳にとっても、こういう「大物」と一緒に十両に上がって、これから切磋琢磨していくというのは、願ってもないチャンスです。2人の若手力士の今後にも、ぜひ注目してみてください。
武田葉月
ノンフィクションライター。山形県山形市出身、清泉女子大学文学部卒業。出版社勤務を経て、現職へ。大相撲、アマチュア相撲、世界相撲など、おもに相撲の世界を中心に取材、執筆中。著書に、『横綱』『ドルジ 横綱朝青龍の素顔』(以上、講談社)、『インタビュー ザ・大関』『寺尾常史』『大相撲 想い出の名力士』(以上、双葉社)などがある。
デイリー新潮編集部
