外食大手のゼンショーホールディングスが好調だ。データアナリストの佐々木城夛さんは「同社の回転寿司チェーン、はま寿司が王者スシローを猛追している。両社がとる戦略は対照的だ」という。佐々木さんがその背景を取材・分析した--。
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「はま寿司」は大手3社で最後発にもかかわらず、王者「スシロー」を猛追している - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■明暗が分かれる回転寿司チェーン

回転寿司チェーンの明暗が分かれている。決算月は各々異なるものの、スシロー、はま寿司が2期連続で売上高・営業利益を伸ばした(図表1)。

このうち「はま寿司」は大手3社(※いずれも回転寿司事業だけを抽出。以下「大手3社」)で最後発にもかかわらず、王者「スシロー」を猛追している。なぜ、これほどまでの存在になり得たのだろうか。

前々期のはま寿司の売上は単純計算でスシローの72.4%にとどまっていたが、前期には75.2%に達し、当期は80.6%にまで迫った。営業利益ベースでは一足早く、前々期の時点でスシローを上回る高収益体質が定着している。

また国内の店舗数に限れば、はま寿司は今年8月時点で684店とスシローを上回り、回転寿司チェーンで1位となっている。一方で、くら寿司は直近の四半期決算で営業利益が大幅減益となるなど大手3社の一律“総勝ち”状態は崩れ、実質的に「スシローとはま寿司のデッドヒート」の様相を呈している。

■ゼンショー内で「すき家<はま寿司」に

日本フードサービス協会の調査によれば、外食市場全体ではコロナ禍直前の2019年の水準まで回復していないのが実情だ。

厳しい環境下で業界再編が進む中、直近通年決算期の売上上位10社には、回転寿司チェーン大手3社がいずれも名を連ねた。はま寿司を含むゼンショーホールディングス(HD)は1位、スシローを含むFOOD&LIFE COMPANIESは3位だ。このうち、公表されている事業部分の数値を抽出しただけでも、スシローやはま寿司は4位と5位の間に入る売上規模に達する(図表2)。

ゼンショーHD内では今期(26年3月期)、はま寿司事業の売上が牛丼の「すき家」事業を抜いた。富士経済の予測によれば、2026年の回転寿司市場は国内だけでも9209億円に達する。前年比4.4%の増加見込みで、その後も市場拡大が続くと予想されている。昨今の値上げラッシュの中にあっても、1皿2貫110円(はま寿司)・120円(スシロー)からの低価格を維持することで、消費者の胃袋を掴んだ結果、外食市場を席巻していると言えそうだ。

■回転寿司は「システム産業」へ

「料理がレーンで運ばれてくる」という店舗設備を持つ回転寿司は、文字どおりのシステム産業だ。王者スシローも、猛追するはま寿司も、ともにシステムに多大な投資を行うことで差別化を図っているが、その「投資の対象」に両者の決定的な違いがある(図表3)。

スシローは、実際の顧客の購買(飲食)動向をデータ化し、蓄積・活用している。膨大なデータを高速・高精度に分析できるプラットフォームへ移行し、廃棄ロスを従来の4分の1まで縮減させた。つまり、徹底して店舗でのオペレーション、すなわち「川下部分」の最適化に注力している。

一方、はま寿司は「科学的な生産管理体制の構築が顧客満足度を高める」という仮説に沿って、ゼンショーHDグループ一体になってシステム構築を進めてきた。グループ内では、「マス・マーチャンダイジング・システム」を略したMMDと呼ばれている。

■卓上に醤油が5種類も並ぶワケ

この考え方に沿って、原材料調達や加工のため、ゼンショーライス(コメ卸)、サンビシ(醤油製造)、日本発展商事ホールディングス(地場商品の仕入れ)など、買収企業の機能を活用している。この結果、はま寿司ではどの席上にも醤油類5種が並んでいる。

筆者撮影
左から、だし醤油、北海道昆布醤油、関東風濃口醤油、四国風ゆずぽんず、九州風さしみ醤油 - 筆者撮影

つまるところ、はま寿司は店舗だけでなく「川上部門」からの一貫した垂直統合に投資を行っているのだ。できる限りグループ内で完結させることで、安全性・迅速性と低コストを両立させる狙いがある。

7月13日に食料品大手ニチレイのサーバーへの不正アクセスにより、同社の低温物流施設を利用していたケンタッキー・フライドチキンが臨時休業や一部商品販売休止に追い込まれた事態は記憶に新しい。外部の冷蔵倉庫を利用する他社がシステム障害のあおりを受けて欠品を余儀なくされる中、はま寿司は垂直統合モデルによって、このようなリスクを可能な限りグループ内だけに留め置くよう徹底管理する方針が活きている。

■スシローを上回る利益率のカラクリ

加えて、はま寿司のシステム化は業界内でも抜きん出ている。

外食産業に造詣の深い専門誌『飲食店経営』の毛利英昭編集長は、「外食産業内で幅広くみられる『人が育たないと店を増やせない』というこれまでの概念を捨て、システム産業と割り切っている」「高速ストレートレーン、セルフオーダー、セル会計など顧客接点部分だけでなく、厨房のロボット活用など調理、発注、在庫管理、勤怠管理などを徹底的にシステム化することで人手不足の中にあっても高い出店ペースを維持してきた」と語る。

一見しただけでは外部からはわかりにくいが、外食コングロマリットならではの強みも活かされている。

「何と言っても一番はチェーンストアと同じ、スケールメリットを活かしたセントラル・バイイング(集中仕入)による調達力が強く、それによって調達コストを抑え、品質アップを図る努力を重ねてきた。規模が大きくなることで、1店当たりのマージン(粗利益)が下がってもチェーン全体規模での収益力は上がっている」(毛利編集長)

それらの効果が、「スシローを上回る利益率の高さ」に表れた形だ。

■「ファミレス化」にどう対応するか

回転寿司が外食の主役の1人に躍り出た背景には、利用時の単価がある。ゼンショーHD内でも、売上トップだったすき家事業の店舗数は2650店である一方、はま寿司は862店と3分の1(32.5%)に過ぎない(2026年3月末、国内と海外の合計)。回転寿司の来店客数が牛丼店の3倍に達しているとは考えにくいため、それだけ回転寿司の利用単価が高いことを意味している。

客単価を引き上げるためには、「いかにもう一皿を食べてもらうか」、あるいは「いかにリピートしてもらうか」がカギとなる。近年の回転寿司は、ファミレス化が著しいと言われるが、ここでも両社の戦略に明確な違いが認められる(図表4)。

ひとことで言えば、「本格化&期間限定フェア」のスシローに対し、「定番&コスパ」のはま寿司だ。

スシローの(全国のラーメン店ほか)名店とのコラボや、タレントのギャル曽根さん開発のデカ盛りパフェなどは、若年層のデート利用などのニーズが見込まれる。また、スシローは「だっこずし」などのキャラクターやゲーム要素を取り入れ、エンターテインメント性で来店を誘致している。

筆者撮影
スシローの「ハローキティ モード」のディスプレイ画面 - 筆者撮影

■100種類以上のサイドメニュー

一方、ファミリーユーザー目線では、はま寿司の実用性とコスパのアピール力が極めて高い。はま寿司のサイドメニューは、どこの店舗でも常時100種類を超える圧倒的な品数に達する。寿司に飽きた子供がお菓子などを食べる間、親がちょい飲みの肴にできるメニューも少なくない。

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ファミリー層に人気の「はまっこセット」。専用ガチャマシーンのコインが付いてくる - 筆者撮影

生食ゆえに一定の廃棄が避けられない寿司・刺身に比べ、加熱メニュー中心のサイドメニューは冷凍食材を使用できるため、廃棄率を抑えられるなど総じて利幅が厚い。加えて、ハイボール・サワーなどのアルコール飲料の利益率も極めて高い。

筆者が訪問した9月初旬の13時過ぎにも、秋葉原駅付近のはま寿司の店舗で、サイドメニューとともにちょい飲みを楽しむ人たちを何組も見かけた。テーブル利用で他者の目線を気にすることなく昼間から楽しむこうした顧客が、客単価や利益率を引き上げていると考えられる。

さらに、はま寿司も子供向けのおもちゃの提供を行っているが、スシローの「だっこずし」ゲームやくら寿司の「ビッくらポン」のように射幸性を煽るゲーム仕様ではなく、セットメニューを注文すれば確実にもらえる仕組みを採用している。

筆者撮影
筆者が訪れた店舗では、指人形とラバーシールの2機からガチャが選べた - 筆者撮影

■ファミリーに安心感を与える実用性

家族来店者目線でも、子供用椅子・食器の用意やタッチパネルへのアレルゲン情報表示など、地味ではあるものの実用性を意識したサービスがみられる。こうしたエンターテインメントよりも価格・実用を重視した全体像は、親側に「いつでも行きやすい」安心感を与えている。

さらに、はま寿司が見据えるのはファミリー層だけではない。1人でも来店しやすいよう、カウンター席に曇り付きの半透明な仕切り(パーテーション)が設置されている。

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はま寿司の1人客向けの仕切り(パーテーション) - 筆者撮影

他社でもコロナ禍以降、仕切りを設置する店舗は増えているが、はま寿司は隣の人の顔や手元を視覚的にしっかりと遮断する。これは、訪日外国人客にも人気のラーメン店、一蘭の「味集中カウンター」と同様に、他者の視線によるストレス軽減を目的としたものと思われる。

1人客は注文が早く、滞在時間も短い。さらに、自身の意思だけでリピートできるため来店頻度も高まりやすい。中休みなしの「通し営業」が基本の回転寿司にとって、1人客を囲い込むことは隙間時間の稼働率を底上げする強力な一手となる。

こうした戦略は相応に浸透している模様で、9月4日(金)の13時を挟んだ前後30分、秋葉原駅付近の店舗に出入りする顧客を目視確認したが、来店者に占める単独・複数の割合は前者がやや上回っていた印象を受けた。

■“全方位”戦略で死角なし

国立社会保障・人口問題研究所の最新データ(2020年時点)によると、50歳時未婚率は男性が28.25%(3.5人に1人)、女性が17.81%(5.6人に1人)となり、調査のたびに数字は拡大している。

すでに人口減少局面に入って久しい中、ファミリー層だけに特化しても、市場が先細ることは明らかだ。前段で触れた「1人来店者にも優しい/入りやすい」はま寿司のイメージが浸透する効果は、将来にわたって大きく影響する可能性がある。ここでも、ゼンショーHDグループ内の中心事業であり、1人来店者が中心であるすき家事業のノウハウも活用されているものと考えられる。

また、円安移行などを背景に堅調が続く訪日外国人客のインバウンドニーズを取りこぼさないための対応にも抜かりはない。朝7時から開店している店舗もあるほどだ。

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筆者が訪れた店舗でもインバウンド(訪日外国人)客を多く見かけた - 筆者撮影

■はま寿司の「論理的」な強さ

他方、先にも触れたように、飲食業には、かねて人手不足の実情が認められる。厚生労働省と東京商工リサーチの直近の調査でも、飲食関係の有効求人倍率は全業種平均を大きく上回り、人手不足の関連倒産も急増しているなど、業界の切迫ぶりは数字上も明らかだ。

帝国データバンクなどの調査では、飲食関係事業者の約4割が外国人を雇用している。食の好みは人それぞれゆえ、顧客の数だけ異なる微妙なニュアンスを汲み取ることは、日本語を母国語としない外国人にとってかなりの壁となっているようだ。

撮影=プレジデントオンライン編集部
はま寿司の定番メニュー「まぐろ」 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

しかし、顧客自身がタブレットなどでリクエスト内容を選択・承認して発注する回転寿司では、他の飲食店に比べこの工程をほぼ全て割愛できる。外国人労働者の間に「はま寿司のようにシステム化が徹底された回転寿司であれば働きやすい」という評価が定まれば、採用面でも優位に立ち、同社の強みをさらに盤石なものにするだろう。

店舗特化とエンタメで王道を行くスシローに対し、川上からの垂直統合、実用性とコスパ、そして、おひとり様まで取り込む全方位の戦略で猛追するはま寿司。絶対王者を脅かす後発の強みは論理的であり、当面はま寿司の死角は見当たりそうにない。

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佐々木 城夛(ささき・じょうた)
オペレーショナルデザイン取締役データアナリスト
1967年東京生まれ、90年慶應義塾大学法学部卒、系統中央機関へ。欧州系証券会社(在英国)・営業店長・研究部門主席研究員等を経て2021年4月独立。23年6月より現職。沼津信用金庫非常勤参与。メディア寄稿多数。
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(オペレーショナルデザイン取締役データアナリスト 佐々木 城夛)