「ウチの子は悪くありませんから!」年収400万円・36歳シングルマザーが絶叫。13歳息子の自転車事故で背負った〈損害賠償額〉【FPが解説】
自転車による交通事故が発生した際には、自動車と同様に事故の責任が課されます。では、当事者の片方が未成年者であった場合、交通事故の過失割合はどのように変化するのでしょうか。本記事では、乗用車に自転車で衝突した13歳の少年の事例をもとに、交通事故における未成年者の過失割合や賠償責任について、1級FPの大泉稔氏が解説します。
13歳息子に自転車をプレゼント…36歳シングルマザーが確認を怠った「保険の補償内容」
13歳の息子・アキラ君(仮名)と共に暮らすシングルマザーのミホさん(仮名・36歳)。スーパーマーケットの正社員で年収は約400万円です。
毎日の生活に決して余裕があるわけではありませんでしたが、ミホさんはアキラ君の誕生日に新品で3万円ほどの自転車をプレゼントしました。軽くて丈夫な自転車はサイクリングにうってつけ。アキラ君は、普段の生活圏を離れ、冒険心や探求心も手伝って、あちこち出かける日々が続きました。
実はミホさんは、自転車事故に備える保険について深く理解しておらず、「賃貸アパートの火災保険に付帯していた気がするから大丈夫だろう」と軽く考え、補償内容をきちんと確認していませんでした。
そんな矢先、アキラ君が自転車で乗用車に激突するという、取り返しのつかない事故が起きてしまったのです。
一時停止を無視して乗用車と衝突…ドライブレコーダーが捉えた「猛スピード」
ある日、アキラ君はスマートフォンを片手に、不慣れな狭い道で自転車に乗っていました。
目の前は信号の無い小さな交差点でした。交差点の手前には「一時停止の標識」、その先は比較的、車の通りが多い二車線の道路でした。
アキラ君が一時停止を無視して二車線の道路に飛び出した瞬間、乗用車と衝突。自転車は全損し、アキラ君の身体は相手の乗用車のボンネットに乗り上げ、その後、道路に落ちてアキラ君は骨折してしまいました。
相手の乗用車のドライブレコーダーには事故の瞬間が映っていました。アキラ君は急な下り坂をほぼノーブレーキの猛スピードで突っ込んでいたのです。
事故後、警察署のフロアにはミホさんの「ウチの子は悪くありませんから!」という絶叫と号泣する声が響き渡りました。しかし、現実として相手の乗用車も大きく損傷しています。
このような場合、交通事故の過失割合や損害賠償の額はどのようになるのでしょうか。
【FPが解説】未成年者にも発生する「交通事故の責任」
未成年であっても、自転車のハンドルを握っている以上、年齢に関わらず交通事故の責任は発生します。ただし、自転車で13歳未満、もしくは70歳以上の、それぞれの場合、10%の修正要素(過失割合が10%マイナス)がありますが、アキラ君は13歳であるため、この修正要素はありません。
自転車の一時停止無視に加え、ほぼノーブレーキの修正要素、そして乗用車が二車線道路、つまり優先道路を走行していたので、過失割合は「アキラ君60%」「対乗用車40%」となります。
乗用車の損失はフロントバンパーとボンネットでしたが、ボンネット内の異常の有無も点検したため、その点検費用も加わり60万円ほどになりました。一方で、アキラ君の自転車は3万円ほどです。
したがって、アキラ君の保護者であるミホさんは60万円×60%-3万円×40%を引いた34万8,000円を、乗用車の持ち主に支払わねばなりません。
損害保険の「補償の重複」で油断…オプション確認不足の代償
現在、多くの都道府県等の条例で自転車の「賠償責任保険」への加入が義務付けられています。
この賠償責任保険は、さまざまな損害保険のオプション(特約)として付加されている場合が多くあります。そして、賠償責任保険の多くは一つの契約で「(別居の未婚の子を含む)家族全員が対象」になっているのです。
そのため、「補償の重複」という問題が発生します。補償の重複とは、「いくつ保険に入っても、保険金の支払いは一つの保険から」という原則のことです。
自動車保険や(持ち家の)火災保険が代表的ですが、これらの特約は任意であるため、補償の重複は生じない可能性があります。職場を通じた団体加入の傷害保険や子供の学校やPTA等が窓口になる学校総合保険など、加入自体は任意なのですが、補償内容に賠償責任保険がセットされています。
賃貸アパートの場合、火災保険に賠償責任保険がセットされていることがあります。このように、さまざまな保険に自動的に付帯されているケースは少なくありません。
ミホさんは軽乗用車を所有して自動車保険に加入していましたが、「賃貸アパートの火災保険に賠償責任保険がセットされているはず」と自己判断し、特約をつけていませんでした。
傷害保険や学校総合保険にも加入していなかったため、頼みの綱はアパートの火災保険だけでした。しかし、ここに落とし穴がありました。
賃貸アパートの場合、最近、増えているのが少額短期保険です。少額短期保険に特約としてついている賠償責任保険のなかには「居住敷地内おける賠償事故が対象」としている場合があります。そのため、ミホさんの賠償責任保険は対象外ということになります。
ミホさんは34万8,000円の損害賠償を、毎月3万円ずつ、1年かけて分割で支払って行くことになりました。
相手の過失分を活かす…自賠責保険と「健康保険」を併用した治療費の支払い
一方で、骨折したアキラ君の治療費はどうなったのでしょうか。アキラ君の交通事故の相手の過失割合は40%あり、自賠責保険の傷害の補償限度額は120万円です。この限度額までであれば、過失相殺されずに満額の補償を受けることができます。
そこでミホさんは、相手方の保険会社からの提案を受け、健康保険を利用(健保先行)して治療を受けました。自由診療(自動車事故扱い)の場合、医療費は1点15~30円で計算されますが、健康保険を利用すれば1点10円で済みます。なお、健康保険が負担した7割のうち、乗用車の過失に相当する分は健康保険から自動車保険に請求されます(第三者行為求償)。
このように手続きをしたことで、自賠責保険の限度額120万円を有効に活用することができました。ただし、アキラ君は13歳であるため、ミホさんが入院に付き添うために会社を休んだり早退したりした分の費用や、お見舞いのための交通費などは、自賠責保険の補償対象外となりました。
自転車は「走る凶器」…未成年者も交通ルールの遵守を
自転車であっても、ハンドルを握れば運転者として交通ルールを遵守する義務があります。万が一事故を起こした場合、「子どもだから悪くない」という言い訳は通用せず、その損害賠償責任は親に向かいます。
近年、IT技術の向上により乗用車の安全性能は著しく向上していますが、アキラ君のような自転車の突然の飛び出しを完全に防ぐことは困難です。一方で、自転車自体の性能が向上している分、万が一の事故時の衝撃や被害は大きくなる恐れもあります。
全国の子育て・孫育て中の父母や祖父母は、未成年の子どもや孫が乗る自転車も走る凶器になり得ることを認識すべきでしょう。ひとたび交通事故を起こせば、「ウチの子は悪くありませんから」という理屈は決して通用しません。
自転車も走る凶器といっても過言ではありません。小学校や中学校では、警察がスタントマンを雇って安全教育をすることもありますが、家庭内でも日頃から実のある安全教育を行うことが重要です。
大泉 稔
1級ファイナンシャルプランナー
※個人情報保護の観点から、登場人物の情報を一部変更しています。

