成績がオールAでも、ハーバード大学に合格できるとは限らない。学力に加え、課外活動や個性まで評価されるアメリカの名門大入試で、超富裕層が頼るのが受験コンサルタントだ。王族や経営者の子供を支援する「コマンドエデュケーション」の料金は、6年間で最大75万ドル(約1億円)。それでも合格保証はない。親たちは何に大金を払い、どんな支援を受けているのか。国際教育評論家の村田学さんが、創業者兼CEOのクリストファー・リムさんに聞いた--。(構成=村井裕美)
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コマンドエディケーション リム会長 - 写真=本人提供

■アメリカの名門大入試から「必勝法」が消えた

--日本でも総合型選抜への関心が高まっています。学力以外の活動や個性も評価するアメリカの大学入試では、いま何が起きているのでしょうか。

現在では、アメリカの多くの大学で選抜が複雑になっています。

イギリスのオックスフォード大学やケンブリッジ大学では、日本や韓国と事情はかなり似ていて、学業成績が選抜で大きな比重を占めます。一方、ハーバード(などのアイビーリーグやアメリカの一流)大学の場合では、SATやACTといった学力を証明する共通テストの成績提出が求められていますが、学校の成績にBプラスやB、Aマイナスがあっても合格する生徒がいます。選抜プロセスがとにかく複雑だからです。

5年前なら、12~15校くらいに願書を出しておけばいいと答えたでしょう。しかし今では、合否に一定のパターンや明確なロジックが見えにくくなり、20校以上に出願する生徒もいます。下のランクの学校に落ちたのに、ハーバードには受かったという生徒もいます。

--合格に至る公式が見つけにくくなったのですね。

これさえやっておけば、という公式というものが存在しなくなったのだと思います。それが生徒や先生、親御さんなど関係者一同にとって大きなストレスの元になっています。やるべきことをすべてやっても、志望校に入れない可能性があるのですから。

■ハーバードが欲しいのは「面白い学生」

では、ハーバード大学が欲しがる人材とはどんなものでしょうか? 成績はオールAだけれど面白味のない学生でしょうか。それとも面白いところのある、周囲のコミュニティに何かもたらすことができる学生でしょうか。面白い学生を欲しがるはずです。

ハーバードならオールAの成績の子で教室を埋めることも可能なのに、それをしたがらないのです。学業以外に何の関心もない学生ばかりの学校に通うことを想像してみてください。つまらないでしょう。そんな学校では、仲間たちからあまり学ぶこともできないはずです。

でもアイススケートのチャンピオンや高校でAIを極めた学生、美術史に夢中な子や植物やガーデニングに詳しい子がいたらどうでしょう。ユニークな顔ぶれがそろっているわけです。

一流大学は多様性に富んだ学生を集めたいと思っています。だからといって、ひとりひとりの受験生が幅広い関心や得意分野を持っている必要はありません。それよりも、真の意味でその人の「強み」になるものを1つ、見つけるほうがいい。全てに抜きん出ている必要はないのです。

ガーデニングに情熱を燃やす学生なんてそうそういませんよね。だからもしガーデニングに興味があるなら、それをもっとアピールしなければならないんです。

写真=iStock.com/Eduardo Cabanas
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Eduardo Cabanas

■利用者は王族、経営者、世界のセレブ

--こうした受験コンサルを利用しているのは、どのような家庭なのでしょうか。

生徒もご家庭もタイプはさまざまです。確かに(保護者には)金融関係や法曹関係、大企業の経営者といった方が多くいらっしゃいます。

サウジアラビアの王族の方のサポートもしていますし、韓国の映画スターなど、世界中のセレブ(の家族)もいます。日本の場合だと、金融業界や自動車業界の大物の方が多いですね。

ただ、ここ最近は海外からの受験生を取り巻く環境が非常に厳しくなるとともに、先を見通しにくくなっています。トランプ大統領が再選して以降、規制が強化され、政策変更も相次いでいます。海外からの出願はこれまで以上に戦略的なアプローチが求められ、海外の富裕層の私たちへの、そして、お子さんたちへの期待はとても大きくなっています。

でも結局のところ、親御さんがセレブであったところで、子供が十分なモチベーションを持てるかというとそうとは限りません。実際、逆の可能性もあります。

恵まれていれば恵まれているほど、子供は育つ中で「そんなにがんばる必要なんてない。欲しいものは何でも親からもらって持ってるし」とか、「将来も安泰なのは分かってるし」とか思うようになるかもしれません。

■6年間のコンサル料金は最大75万ドル

--別の受験コンサルでは、料金が年間500万円程度の例もあります。それと比べても、6年間で最大1億円超(75万ドル)という料金は突出しています。なぜ、これほど高いのでしょうか。

私たちが提供しているのは、時間や分野を限定しない総合的な支援で、それが料金にも反映されています。また、私たちが公表している合格実績は第三者機関の監査を受けています。

例えば弊社が『ハーバード大学に8人合格させた』と公表したとします。この数字が真実であることは外部の監査チームによっても確認されているわけで、信頼度は非常に高いのです。

また、料金が一般的な同業他社より高いのは、単に弊社が時間無制限でサポートを行っているという事情もあります。明日、化学の試験があるのを忘れていたのだけれど、大事な試験なので(いますぐ)家庭教師が必要だという場合も、2時間で、それも最高レベルの先生を手配できます。

それから、弊社では生徒の生活する時間帯に合わせてサポートを提供しています。例えば生徒の中には日本のインターナショナルスクールに通っている子もけっこういて、全員がアイビーリーグの大学に合格した年もあります。日本のほか、ドバイや韓国、ロンドンにも生徒がいます。希望があれば、それぞれの時間帯に合わせて指導を行います。

弊社と契約すると、担当のカウンセラーが付くだけではありません。チーム一丸となった支援が受けられます。継続的に指導にあたるメインのカウンセラーに加え、大学の入試部門で働いたことがあるスタッフやデザインチーム、プロジェクトコーディネーターが生徒とご家族を支えます。模擬入学審査を行う仕組みも用意しています。

コマンドエディケーションHPに掲載されている合格実績をもとにプレジデントオンライン編集部が作成

■受け入れ人数を絞り、54人が専任で支援

料金の高さは、弊社の受け入れ可能人数に限りがあることの裏返しでもあります。一つの高校から大勢を引き受ければ、私たちが支援する生徒同士が同じ大学の枠を争うことになります。そのため、学校ごとの受け入れ人数を絞っています。支援できる人数が限られることも、料金が高くなる理由の一つです。

また、弊社では54人のスタッフ全員がフルタイムで働いています。子供の指導なんてパートタイムの仕事だろうと思われることが多いのですが、弊社は全員が専任スタッフという(この業界では)珍しい会社なのです。

--約1億円の支援は、日本の予備校や家庭教師による受験対策と何が違うのでしょうか。

私たちが支援するのは学力だけではありません。志願理由や課外活動、エッセイ、出願戦略、メンタル面まで含めて、生徒を長期的に支援します。

まず8年生(日本で言う中学2年生)から11年生(同高校2年生)までは、平均して週に1時間、(リモートで)指導などを行います。受験を控えた12年生(同高校3年生)になると、指導時間はだいたい週に10時間くらいになります。願書やエッセイ、課外活動のリストなどを用意しなければならないからです。独自のエッセイを課す大学が多く、いくつもエッセイを書かなければならないので、とても時間がかかるのです。

写真=iStock.com/SDI Productions
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SDI Productions

■課外活動から願書の締め切りまで管理

また、生徒ごとに、年単位、月単位のロードマップを作ります。何をしなければならないかを挙げ、毎月、目標とベンチマークを設定します。非常に細かい計画を立てるのです。生徒と一緒にロードマップを作って取り組み、最後までやり遂げられるようメンターとして助言し、学業成績を維持できるよう支援します。

さらに、課外活動や、夏休み・冬休みのインターンシップにも年間を通して取り組ませます。

「次はこの願書の締め切りが来るから、間違いなく送ってね。送ったらこっちにも連絡して」といったテキストメッセージも送ります。同じことを親御さんが言ったら、けんかになったり、「お母さんはいちいちうるさく言わないで!」と口論になりかねませんが、私たちなら「これを忘れずに提出しなさいよ」と言えばやってくれます。口論にもなりません。弊社は生徒さんの親子関係も守っていると言えるかもしれません。

また、生徒のやる気を少しでも高めるのも私たちの仕事です。

■遅刻の原因だったメイク動画に目をつけた

--学業成績がトップではなかった生徒に、どのような支援をしたのでしょうか。具体例を教えてください。

ファッションや美容や化粧品にすごく興味があるけれど、成績は2番手という子がいました。アメリカ国内の名門高校に通っていましたが、成績は平均するとBで、アイビーリーグ合格は難しいと思われるレベルでした。

彼女は遅刻の常習犯でした。(リモート面談中に)成績か作文の下書きか何かを画面共有で一緒に見ていた時に、画面の上の方にいくつもタブが開いていて、それがユーチューブだということに気がつきました。彼女はメイクのハウツー動画を見ていて、それで遅刻したんです。見ているうちに時の経つのを忘れてしまったんですね。

そこで私は『君は何をしているの? これは何? 何でこれが面白いと思うの?』と尋ねました。彼女はありとあらゆる化粧品の情報や、どういう肌にはどのブランドがいいかといったことを知り尽くしていました。エキスパートと言っていいくらいに。

そこで私は、それだけ知識があるなら、自分で動画を作ってみたら? と提案しました。そうすればコスメ会社から無料で商品が送られてくるかもしれないよ、と。「えっ、動画を作ったらタダで化粧品がもらえるの?』と彼女は乗ってきました。

写真=iStock.com/Deagreez
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Deagreez

■「コスメ好き」を武器にアイビーリーグ3校合格

そこで動画制作に取りかかったわけですが、彼女はとてもシャイな子でした。インタビューをしたりカメラに向かって話すのは大変に勇気が要ることで、そのためには練習や準備が相当必要でした。でもその甲斐あって、さまざまなブランドから化粧品が送られてきました。(セレブで若くして化粧品ブランドで成功した)カイリー・ジェンナーからも商品が送られてきたんですよ。

彼女はこの経験をテーマに、出願に際して大学に提出するエッセイを書きました。自分はとてもシャイで内向的だったけれど、メイクそのものだけでなく、メイク前とその後の自分の姿をさらす動画を制作したことで自信を持つことができた。肌の悩みも多かったけれど、それも率直に伝えることができるようになった、と。

私たちは『ユーチューブの動画を作ろうよ、やってみようよ』と彼女の背中を押しました。動画制作それ自体は別にすごいことでも何でもなかったけれど、彼女の独自性になった。他の子たちはやらないようなことだったから、彼女は抜きん出ることができたんです。そこが彼女の『売り』となって、結果、アイビーリーグ3校で合格を勝ち取りました。成績はそれほどよくなかったのだから、すごいことです。

■約1億円を払っても合格保証はない

--コマンドエデュケーションの顧客の合格率はどのくらいなのでしょうか?

過去2年間を見ても、弊社が9~10年生から面倒をみている生徒のうち、実に97%が第1~第3志望のいずれかの大学に合格しています。

--高額な料金を払えば、現在の成績にかかわらず支援してもらえるのでしょうか。

(入試の見通しについては)非常に現実的、かつ率直に考えを伝えています。それが可能な限り、最良の結果を手にする唯一の方法です。生徒たちを合格に向けて、できる限り、有利に導くのが私たちの役割なのです。

例えば9年生(日本で言う中学3年生)の時に弊社にご相談があったとします。9年生から10年生に上がる時点の成績が、Bが2~3個(残りはすべてA)であれば、チャンスはありますから弊社としてもお手伝いは可能です。でもCが2~3個あるとなると、お手伝いはできないか、お手伝いするにしても率直に、(アイビーリーグなどの一流大学の合格は)現実的ではないとお話しします。合格の可能性は、ほぼゼロです、と。その点ははっきりとお話しします。がっかりさせるのは本意ではありませんから。

--では、約1億円を払い、指導に従えば、名門大学への合格を買えるのでしょうか。

結果を保証することはできません。私たちにできるのは、合格の可能性を最大限に高めることです。実際、真面目に取り組んでも志望校に入れなかった生徒が、年に1人ほどいます。

お金を払うだけでは不十分で、生徒本人の努力も必要です。私たちの指導に従わなかったり、不正を試みたりした場合には、サービスの提供を打ち切ります。特に不正行為については、一度でも認められれば契約を終了します。その点は、生徒にも強く伝えています。

■高額受験コンサルは教育格差を広げるか

--高額な受験コンサルは、経済力のある家庭の子供をさらに有利にし、教育格差を広げるのではないでしょうか。

この種のサービスは高額で、誰もが利用できるものではありません。そのため、経済力のある家庭の生徒をさらに有利にしている、との批判があるのは事実です。料金水準に関わらず、家庭教師や受験コンサルを使うこと自体、一種の贅沢です。

ただ、私たちが支援している恵まれた家庭の生徒たちのライバルは、同じように恵まれた家庭の生徒たちです。アイビーリーグなどの一流大学はいずれも、富裕層だけでなく、中流や低収入の家庭も含めて幅広いバックグラウンドを持つ生徒を集めようとしています。

だから、私たちの生徒が、経済力のない子のチャンスを奪っているわけでもなければ、彼らと競っているわけでもありません。彼らのライバルは同じ私立学校に通う自分のクラスメートたちなのです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kelvinjay

--経済的な理由でサービスを利用できない生徒への支援はありますか。

アメリカ国内限定ですが、無料でサービスを受けられるプログラムを設けています。自薦、あるいは提携校からの推薦があれば受け付けています。提携先の学校はさまざまですが、学校の先生から『非常に努力家で優秀な生徒だけれど経済的にサービスを利用するのは難しい。無料プログラムの対象として検討してくれないか』と相談が寄せられます。

■不正入学事件が「正攻法」の追い風になった

--2019年に富裕層による名門大学の不正入学事件が発覚しました。この事件は、受験コンサル市場にどのような影響を与えましたか。

この事件は、弊社の事業には追い風となりました。事件が明るみに出た直後、弊社への問い合わせは2倍になりました。この事件によって、「富裕層の家庭でさえ、子供を名門大学に入れるためにはここまでしなければならないのか」と、多くの人が入試プロセスの複雑さを知ったからです。

事件前は「クリス、誰か大学に知り合いはいないの?」と聞かれることもありましたが、そもそもコネなど当時からなくて常に答えは「いいえ、誰も知りません」でした。今ではそんなことは誰も聞いてこなくなりました。

また事件後、ウォールストリート・ジャーナルの一面に「ハイエンドな大学入試カウンセリングの合法的な世界」というタイトルで私の写真入りの記事が載りました。つまり弊社は、費用をかけてでも正攻法で合格可能性を高めたい家庭にとって、その選択肢を象徴する存在になったのです。

■オールAではなかった創業者の原点

--一流大学への進学を支援するノウハウを、どのように築いたのでしょうか。

元になっているのは自分の体験です。高校生の時の私の成績はオールAではなく、Bが3~4個ありました。「クリス、成績が足りないから君は一流大学には行けないね」とみんなに言われましたが、私は「とにかく挑戦させて」と粘りました。

なぜなら、学校の外でとある活動をやっていて、これが大学の関心を引くのではと思っていたからです。具体的には、いじめがもたらす被害の実像を若い人々に教えるとともに、情動知能(EQ)の考え方を学校教育に取り入れる活動に取り組んでいました。レディー・ガガが(いじめ撲滅運動や若者支援を行う)非営利団体を立ち上げたときには、高校生だった私もハーバード大学で行われた設立イベントに登壇し、レディー・ガガと一緒に(人気司会者の)オプラ・ウィンフリーからインタビューを受けました。成績は完璧とは言えなかったけれど、こうした学業以外の活動や意欲、それに訴える力の強いストーリーを提示できたおかげで、私は他の受験生より頭一つ、抜け出すことができました。その結果、イェール大学に合格しました。

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高校時代、レディー・ガガさんと共にインタビューを受けた - 写真=本人提供
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レディー・ガガさん(右)と - 写真=本人提供

すると同じ高校の後輩たちみんなから「クリス、オールAじゃなかったのにどうやって合格したの?」と聞かれたので、彼らの受験の手伝いをしたら、1人はMITに、もう1人はスタンフォード大学に受かりました。そこから先は親御さんたちの口コミでビジネスが成長していきました。いわば偶然の産物ですね。

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村田 学(むらた・まなぶ)
国際教育評論家、国際教育コンサルタント
アメリカ生まれ、日本育ちの国際教育評論家。3歳でアメリカの幼稚園を2日半で退学になった「爆速退学」経験から教育を考え続ける。国際バカロレアの教員研修を修了し、インターナショナルスクール経営などを経てThe International School Times の編集長と国際教育のシンクタンクInternationalEducation Lab の所長を務める。
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(国際教育評論家、国際教育コンサルタント 村田 学 構成=村井裕美)