【中村 清志】鳥貴族がついに「全品410円の値上げ」に踏み切った…どれだけ減益でも「均一価格」を貫いた苦渋の判断

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国内出店に陰り…試される「20円値上げ」の真価

居酒屋チェーン国内店舗数で1位を誇り、市場を独走する「鳥貴族」がこの10月1日より値上げに踏み切った。値上げは2025年5月以来、1年5ヵ月ぶりのことだ。

全品均一価格制を導入している同チェーンだが、今回の価格改定により全品390円(税込、以下同)から一律20円値上げして410円に。また全品食べ飲み放題のコース「トリキ晩餐会」も1人3900円から4100円に引き上げた。

かねてより「安くて美味い」居酒屋チェーンの代名詞であった「鳥貴族」。その絶対的優位性は店舗数だけ見れば、確かなものである。同チェーンを運営する株式会社エターナルホスピタリティジャパン(以下、エターナル社)によれば、2026年8月末時点で、「鳥貴族」の国内総店舗数は696店舗(うち直営店424店舗)、傘下のダイキチシステム株式会社が運営する「やきとり大吉」が463店舗とあり、それぞれ居酒屋市場で店舗数1位、2位を占めている形だ。

そんな盤石の地位にあっても本音を言えば、台所事情は楽観視できない、ということなのかもしれない。

現にこれまでは順調だった国内店舗開発では陰りが見えつつある。2026年7月期は国内外で84~88店舗の出店を計画していた。ところが計画を大幅に下回り、53店舗に留まっている。まだまだ大きく上回っているとは言え、業界で店舗数3位の「職人握り寿司居酒屋 や台ずし」や4位「串カツ田中」は順調に店舗を増やしており、すでに350店舗以上。その差は確実に縮まりつつある。

店舗数ダントツ1位なのに「減益」

国内店舗開発の不調は業績全体にも影響を与えている。今年9月11日に発表されたエターナル社の2026年7月期の連結決算は、売上高は前期比11%増の512億円だったものの、営業利益は10%減の27億円、純利益は前期比23%減の13億円にとどまった。当初の増益予想から一転、減益に陥ったわけだ。

この想定外の業績の下振れが発生した理由と、今回の値上げの理由とはつながる部分がある。

まず第一に、既存店売上高は7%増と堅調に推移する一方で、前述した通り国内外の新規出店が未達となったことから売上のさらなる積み上げができなかったこと。これはおそらく建築資材の高騰や人手不足が足かせとなっているのだろう。

第二に、利益に関して、第4四半期(2026年5~7月)で初期コスト負担が重い新規出店が偏ったことと人件費などの販管費が増加したこと。加えて、海外事業においても直営店における先行赤字が計画比で拡大したことが挙げられる。

これらに輪をかけるように、鶏肉や野菜など食材費用の高騰が「鳥貴族」を襲っている。ご存じの方もいるかもしれないが、同チェーンは創業当初から100%国産の鶏肉を使用しているほか、2016年10月以降は、鶏肉以外の食材もすべて国産化を実現している。それが冒頭の「安くて美味い」の“美味い”という評判につながっているわけだが、同時に利益を圧迫する要因となっているわけだ。

その結果、今回の値上げという判断につながったと考えられるが、正直なところ鳥貴族としては、この「20円の値上げ」に相当の試行錯誤があったのではないかと思う。

「均一価格の廃止」の可能性もあった…?

そもそもプライシングをする上で、多くの外食や小売企業では「端数価格」が用いられやすい。すなわち「98円」「1980円」のような、あえてキリの悪い端数に設定することで、消費者に割安感を感じさせ、購買意欲を高める心理的価格設定だ。

実際、「鳥貴族」が2017年10月、28年ぶりに値上げに踏み切った時も、それまで全品税別280円だったのを税別298円へとしており、この端数価格を用いていたことがわかる。あくまで仮定の話ではあるが、390円から「398円」のような値上げというやり方もあったはず。

また、遡ること半年前の今年4月、「鳥貴族」は価格体系に関するテストマーケティングを静岡県の一部店舗で実施している。静岡県にしたのは、ちょうど東日本と西日本の中間にあり、食の好みや生活感覚が極端に偏りにくい傾向にあるからだろう。そのテストマーケティングでは、従来型の値上げだけでなく、これまで貫いてきた全品均一価格をやめてバラ価格、すなわちメニューごとに価格を変える方向も検討したという。

だが、やはり「鳥貴族」は安さはもちろん、全品均一価格だからこそ人気を博してきた店だ。経営陣も均一価格の「わかりやすさ」がブランド価値だと再認識したのだろう。400円という大台を突破するリスクは覚悟の上、ブランド価値を重視した--それが今回の値上げの背景と言える。

10月1日より始まった値上げは、「鳥貴族」の顧客にどう映るのだろうか。目論見通り「20円の値上げ」は理解を得られる許容範囲なのか、はたして。

【後編記事】『「大倉忠義という切り札を使い切った」鳥貴族、400円台突破の再値上げで「客離れ」の懸念が再燃』につづく。

【つづきを読む】「大倉忠義という切り札を使い切った」鳥貴族、400円台突破の再値上げで「客離れ」の懸念が再燃