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巨大な男性器をかたどった「みこし」が街を練り歩き、子宝を願う夫婦が男根型の御神体にまたがる。「ひょっとこ」と「おかめ」が交わるような儀礼もある。

日本各地には、性器を信仰の対象とする、一風変わった祭りが存在する。「奇祭」とも呼ばれる、こうした祭りを10年間にわたって追いかけてきた女性がいる。

研究者の深沢佳那子さん(37)だ。

コロナ禍を除く過去10年間で、全国49カ所の祭りに70回以上も足を運んだ。その成果をまとめた著書『日本性祭巡遊記』(ケンエレブックス)が9月、出版された。

一見すると、ただの「バカ騒ぎ」にも見える祭り。しかし、現地に足を運ぶと、地域の歴史や信仰、観光振興への思惑、そして地方が抱える少子高齢化の問題まで見えてくるという。

一方、男性中心の祭りの世界に飛び込んだ深沢さん自身も、女性であることを理由に立ち入りを制限されたり、セクハラを受けたりした経験がある。

それでも、なぜ彼女は性器崇拝の祭りに魅せられ、全国を巡り続けるのか。性祭の知られざる世界と、研究に情熱を注ぎ続ける理由を聞いた。(ジャーナリスト・高野真吾)

●巨大な男根みこしは「高度経済成長期」に生まれた?

──著書のタイトルが、なかなかに刺激的です。そもそも「性祭」(せいさい)とは、どのようなお祭りなのでしょうか?

主に性器崇拝の祭りを指しますが、造語に近い言葉です。一口に性祭といっても、見た目だけで数種類に分類できます。

ひょっとことおかめが交わるような性的儀礼が含まれる祭りもあれば、そこに性器の造形物が登場する祭りもあります。神様に性器をお供えする祭りや、性器そのものを信仰対象とする祭りもあります。

中でも目立つのが、大きな性器の形をしたみこしや山車、造形物を担いだり、引きずったりする祭りです。

こうした祭りの多くは比較的新しく、高度経済成長期以降に生まれたものです。扱われるのは主に男性器ですね。

──性器崇拝というと古くから続く信仰のイメージがありますが、巨大な男根みこしなどが登場する祭りは、比較的新しいのですね。なぜ高度経済成長期に生まれたのでしょうか?

当時の日本には活力とお金があり、地方に観光客を呼び込もうという熱が高まっていました。

その中で、性器崇拝に限らず、各地で郷土芸能や文化の掘り起こしが進みました。同時に交通網も整備され、性に関する珍品などを集めた「秘宝館」ができたのも、このころです。

そうしたさまざまな要素が重なり、各地に性祭が誕生しました。

──著書では14の祭りを紹介していますが、特に人気があるのはどこでしょうか?

最もお客さんを集めているのは、神奈川県川崎市の「かなまら祭り」でしょう。ピンクのみこしが受け、欧米人を筆頭に、多数の外国人観光客が訪れます。

初心者にオススメなのは、新潟県魚沼市の「しねり弁天たたき地蔵祭り」です。

子宝を願う夫婦が男根型の御神体に乗ることができる祭りで、観光客も自由に乗ることができます。

──かなまら祭りのように、各地の性祭は盛り上がっているのでしょうか?

性祭に限らず、少子高齢化によって、地方のお祭りは全体的に減少傾向にあります。やはり、コロナ禍が大打撃になりました。

祭り自体は存続していても、みこしの担ぎ出しがなくなったり、神事は続いていても、男根にまつわる部分が消えてしまったり。

もちろん、性祭そのものが開催されなくなった地域もあります。

●教授から「やめたまえ」…それでも女性器を研究したかった

──そもそも、深沢さんが性器崇拝の祭りに関心を持つようになったきっかけは何だったのでしょうか?

進学した大学院では日本神話を研究していました。少彦名命(スクナビコナノミコト)という神様を扱っていたのですが、ほどなく研究が行き詰まってしまったんです。

修士論文のテーマ提出に向けて思案していたところ、日本神話にやたら登場する「ホト(女性器)」を研究したら面白いのではないか、というアイデアが浮かびました。

ところが、教授に伝えると「僕が変なことを教えていると思われるから、やめたまえ。今なら変えられるから」と言われたんです。

もともと、人からやめろと言われると、かえってやりたくなるタチだったので、そのまま押し切りました。

──教授の反対が、むしろ研究への情熱に火をつけたわけですね。そこから、実際に祭りへ足を運ぶようになったのですか?

信仰対象としての性器に興味が湧いてきた2016年、初めて性祭に行きました。著書の第1章でも取り上げた、静岡県東伊豆町の「どんつく祭」です。

大きな男根型のみこしを担ぐ祭りと聞いて、最初は「バカ騒ぎしているパリピのノリ」という印象を持っていたんです。実は、さほど気乗りせずに行きました。

けれども、実際に見学してみると、男衆に迫力があり、ぐっと心にきたんです。

それで「これは面白いかも」と思うようになりました。

最盛期の2018年には、毎月1回、必ずどこかのお祭りに行くと決めて、実行しました。

●「女だから、ここから見ていなさい」祭りで受けたセクハラ

──祭りの参加者の多くは真面目に取り組んでいるのでしょうが、性をテーマにした祭りとなると、その場の開放的な雰囲気を利用して、羽目を外す男性もいそうです。女性研究者として、セクハラとの境界をどう見ていますか?

性祭を仕切っているのは、10割男性です。女性がメインで仕切っている祭りは、見たことがありません。

女人禁制の祭りもありますし、「あなたは女だから、ここから見ていなさい」と言われたこともあります。

性祭を含め、祭りはもともと男性の世界なのは事実です。

そんな環境ですから、きつめのセクハラを受けた祭りがあったことも事実です。だから、もう二度と行かないところもありますよ。

──研究のために訪れた祭りで、そうした経験をするのは大変ですね。10年間で、現場の雰囲気に変化はありましたか?

コロナ禍以降、セクハラ的なものは淘汰されてきました。

日本社会全体がコンプライアンスを重視するようになり、祭りもクリーンになってきた印象です。

先ほど紹介した「どんつく祭」は、コロナ禍前の2018年に、一度中断したことがありました。

性的な要素が時代にそぐわないという苦情が出た、という新聞のネット記事もありましたが、実際に現地で話を聞くと、そんなことはありませんでした。

補助金が出るようになったこともあり、2023年に復活しています。

──性にまつわる祭りそのものが「卑猥」だと受け止められることについては、どう思いますか?

セクハラは問題外ですが、祭りそのものを「卑猥」だと感じることは基本的にありません。

実際の祭りを見てもらえばわかりますが、むしろ「笑える」「シュール」「アホっぽい」などと表現すべきものです。

たとえば、ひょっとことおかめが交わっているのを見て、卑猥だという人はいないでしょう。

●「私は何をやっているんだろう」それでも奇祭を追い続ける理由

──コロナ禍での中断はありましたが、性祭を追いかけて、もう10年になります。好意的な意味で「アホっぽい」とおっしゃいましたが、そんな祭りを全国各地で追いかけていて、「私は何をやっているんだろう」と我に返ることはありませんか?

ずーっと思っていますよ(笑)。

「こんな研究をやっていて、どうするんだ」と言われることも、よくありましたし。

自問自重して、人生に計画性を持っていたら、こんなことはやらないでしょうね。

最初からそういうことができないから、異常行動を取るんです。

──そこまで夢中になってきた性祭ですが、今後も研究を続けていくのでしょうか?

実は、コロナ禍もあって、性器崇拝からは足を洗っていたんです。

ところが、2023年末にNHKから番組への出演依頼がありました。

その前年には、プライベートの旅行で佐賀と青森を訪れた際、図らずも祀られた男根に遭遇しました。

そのときは、さすがに男根が私を追いかけてきたような気がしました。だから、もう男根に抵抗するつもりはありません。

──男根のほうから追いかけてくるようになったわけですね。次は、どんな祭りを見てみたいですか?

とはいえ、国内の祭りは行き尽くしました。

単にひょっとこが男根を持って追いかけてくるだけでは、もう驚かなくなってしまったんです。刺激依存なところがあるのですが、慣れてきてしまったわけです。

今は、海外に未知の「ヤバい祭り」がないか、調べています。