だから疲れた日ほど動画をダラダラ見てしまう…作業療法士が「飽きるまで見続けても問題ない」と説く理由
※本稿は、菅原洋平『やりつづける脳のつくり方。』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

■誘惑は邪魔者ではない
続けられないときによく、「誘惑に負けた」ということがあります。
ダイエットをしていたのに、お菓子の誘惑に負けた。
勉強するはずだったのに、動画の誘惑に負けた。
私たちは、誘惑を「負ければ罪悪感や挫折につながるもの」と考えています。これは、とてももったいないことです。なぜなら、誘惑の中身や意味を理解して自分の力にする機会を失うからです。
脳にとっての「誘惑」の意味を知り、罪悪感や挫折につながる配線を、続ける力につなぎ直しましょう。
「誘惑に負けた」というとき、その誘惑された作業に注目していないことが多いです。お菓子を食べていても動画を見ていても、頭の中は「ダイエットするはずなのに」「勉強するはずなのに」と考えている。
作業に注目すれば、「食べてみたら思ったよりおいしくない」とか「動画を見てもいまいち面白いコンテンツが見つからない」といった予測エラーに気づき、そこからよりお菓子や動画を楽しむやり方を見つけようとするのに、この予測エラーを無視しています。
本稿では、現在やっている「望まない作業」の内在的価値を見出したいと思います。人は常に何かの作業をし、その作業には必ずその人にとっての「意味」があります。その「意味」に気づかずやり過ごしていると、ただ不全感が溜まるだけです。
続けるためには、続けたいことも続けたくないことも含めたすべての作業の「意味」を見つける必要があります。
■脳は、予測を放棄できる作業を選ぶ
他にやりたいことがあるのに何時間も費やしてしまう動画視聴。
この作業にも、ちゃんと意味があります。それは、予測の休止です。
新規の企画立案、相手の意図が読めないメールへの返信、どう対応すればいいかわからない顧客からのクレームなど、先の展開が予測できない作業が立て込むと、脳の予測は外れ続けて予測エラーのアラートが鳴りっぱなしになります。
行動は後手に回り、動けば動くほど新たな予測エラーが生まれて収集がつきません。これは、とても負担が大きいです。
また、職を失ったり病気になるなど、将来設計に大きな変化が起こると、年単位の長い見通しも立たなくなります。すると脳の予測はぐるぐる同じところを回るだけで、「この先どうなっちゃうんだろう」という不安から抜け出せません。
予測にエネルギーを費やしても、それが実らない。
この状況に陥ると、脳は、予測を放棄できる作業を選びます。
■動画は情報を得るのをやめるのに見ている
動画を見ているときは、何も考えずに済みますよね。
内容に集中しているようでいて、内容は気に留めず「心ここにあらず」という感じです。情報を得ているのではなく、情報を得るのをやめるために見ているという感覚があると思います。
脳は何かに没入していると予測ができなくなるので、動画を使って予測を止めているのです。無意識のうちに画面に近づいたりイヤホンを使うなどして、没入感を増加させることもあるでしょう。予測エラーの嵐で疲れてしまうと、より没入することを求めます。
これは、脳を守る行為です。
私たちを誘惑する作業は、脳を現実から避難させる作業といえます。
報われない予測からいったん避難し、距離を置きます。
「あるべき姿」への推理が浮かばなくなった脳が、いったん事件から離れて、別の角度から新しい推理が浮かぶのを待っています。
この意味で、誘惑は避難作業なのです。
停止した思考は、時間が経てば再び動き出し、新しい推理が浮かんできます。それに伴って、避難作業の意味も変わっていきます。
現時点の避難作業の意味を自覚すると、脳が予測を再開し、エラーを利用して予測を更新できる時期が見通せます。
避難作業の意味は、次の方法で簡単に自覚することができます。
紙に横一直線を引き、左端が「考え(気持ち)が整理される」、右端が「何も考え(感じ)なくなる」として、今の自分にとって避難作業がどこに位置するか、ポイントしてみましょう。右に寄るほど、先の予測が難しく思考が停止しています。

このポイントは、日々変化します。例えば、作業の進め方がわからないときは右に寄りますが、ヒントを得て着手し始めると左に寄っていきます。
■動画の見方5段階でわかる脳の元気度
右端の不安な状態5、左端の元気な状態1として、動画視聴の「How(どのように)」を観察すると、こうなります。
5:自動再生に任せて流し見しながら、不快な動画のみスキップする
4:興味はないけど、目新しい情報を流す
3:特定のコンテンツを追いかけて見る
2:考察動画で自分は気づかなかった作業の意味を得る
1:「○○をやってみた」という体験動画で他人の探索行動を見る
脳が元気になってくると、未来への探索行動のヒントを得るコンテンツを選ぶようになります。一口に動画視聴といっても、本人の中ではその都度意味が変わり、意味の変化を長いスパンで追ってみると、脳が着実に元気になっていく様子がわかります。
■避難作業を否定せず、その意味を観察する
避難作業は、不確実な未来を歩むためのタイムアウトの役割を担っています。タイムアウトを経れば、新たな推理で流れを変えることができます。
ところが、避難作業を「怠け」「堕落」として無理やりやめようとしてしまうと、悪い流れを変えることができません。
たとえ避難作業を無理やり制限できたとしても別の避難作業が姿を現します。
動画を制限したら袋菓子を絶え間なく食べるようになる。間食を我慢すると衝動買いをし始める、というように避難作業が変わるだけで避難も中途半端になってしまいます。

「無理やり制限する」のは、試合当初の作戦がうまくいっていないのにそれを認めず、タイムアウトを取らずに悪い流れのまま試合を続けるようなものです。悪い流れで現実の生活に戻っても、同じ振る舞いをして同じトラブルが起こるだけです。
新しい作戦で臨むには、タイムアウトで予測作業を休止することが必要なのです。
これは、プレイヤーである脳の問題ではなく、監督であるあなたの手腕の問題です。適切にタイムアウトを取って流れを変える。これは、監督の腕の見せ所です。現在の避難作業を否定することをやめて、その意味を観察すれば脳の元気度がわかります。
まだ不安が強いときは日常生活で慣れないことをするのは避けて、エネルギーを溜めましょう。元気になってきていれば、「次はこんなやり方にしてみようかな」と新しい予測が湧いてくるので、それを実行してみましょう。
そうすれば、タイムアウト後の行動が変わり、先行きが見えてきます。
■飽きたら動き出すタイミング
タイムアウトを長引かせすぎても、よい流れは生まれません。

先の見通しが立って、もう避難する必要はなくなってきているのに、それに気づかず避難し続けてしまうことがあります。例えば動画視聴なら、体験動画などで行動の予測がついてきて、もう飽きてきているのに見続けているようなことです。
新たな予測はできたのに避難作業をし続けると、試合の流れを変える局面を逃します。
タイムアウトをずっと取り続ければ試合放棄になるように、避難作業を続ければ、それは逃避作業に成り代わります。
動画を見ていても、「退屈だな」「どれも面白くないな」と感じることがありませんか?
「飽きた」状態になったら、次の行動の予測は出来上がっています。タイムアウトを終えて動き出すタイミングなのです。
内受容感覚が「安全」サインを出しているので、動き出せば試合の流れを変えることができます。
再開して流れが悪ければ再びタイムアウトを取ればいいのです。
少しでも動き出した後なら、予測は更新されているので、考えることが変わっているはずです。タイムアウトはいつでも何度でも取っていいです。
重要なのは、取るタイミングと終えるタイミングです。横一線のスケールにポイントしながら、タイミングを見て躊躇なくとりましょう。
----------
菅原 洋平(すがわら・ようへい)
作業療法士、ユークロニア代表
1978年、青森県生まれ。国際医療福祉大学卒。国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事したのち、現在は、ベスリクリニック(東京都千代田区)で薬に頼らない睡眠外来を担当する傍ら、生体リズムや脳の仕組みを活用した企業研修を全国で行う。その活動は、テレビや雑誌などでも注目を集めている。14万部を超えるベストセラー『あなたの人生を変える睡眠の法則』(自由国民社)、12万部突破の『すぐやる!「行動力」を高める“科学的な”方法』(文響社)など著書多数。
----------
(作業療法士、ユークロニア代表 菅原 洋平)
