歌舞伎町の景色(時事通信フォトより)

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 制定から70年の時が経った売春防止法をめぐり、改正へと向けた議論が進展している。法務省の有識者検討会は9月17日、「売る側」だけでなく、「買う側」の勧誘行為にも罰則を設けるべきだとする内容の報告書を取りまとめた。

「トー横」の景色、実際に立ちんぼに男性が声をかける瞬間など

 人目につく場所で客を待った女性は6か月以下の拘禁刑か2万円以下の罰金に問われるが、買った男は罪に問われないのが現状。この非対称性が問題視される背景のひとつとなっているのが、東京・新宿の歌舞伎町に広がった「立ちんぼ」の光景である。

 では、路上に立っている女性たちはどのような境遇で、彼女たちに声をかけているのはどんな男たちなのか。売春をめぐる議論が活発化している今だからこそ、知っておく必要があるだろう。

 100日以上かけて歌舞伎町に通い、60人以上の女性のほか、ホスト、支援団体、警察に取材した毎日新聞社会部記者・春増翔太さんの著書『ルポ 歌舞伎町の路上売春 それでも「立ちんぼ」を続ける彼女たち』(ちくま新書)より、一部抜粋して再構成する。【全3回の1回目】

路上のほうが怖くない

 彼女たちは、なぜそうしたリスクに身をさらしてまで、客を取るのだろう。ツイッター(現X)やマッチングアプリを使い、「パパ活」「交援」と称して客を募る女性も少なくない。路上では見知らぬ男から暴言や暴力を受けることもあるし、取り締まられるリスクも高まる。それでも、彼女たちの多くは路上に立つ方を選ぶ。

 彼女たちに話を聞くと、「そっち(SNS)の方が怖くない?」と言う。16歳で援助交際を始めたサユリもその1人だ。もともとはツイッターに隠語を書き込み、客を募っていた。

 だが、常に不安があった。「待ち合わせ場所が駅や路上ならまだいいけど、ネットだと、いきなり家やホテルに呼ぶ人がいて怖かった」。その点、路上で対面すれば、直感的に危ないと思った相手は拒むことができる。

 もう一つの理由は、「ネットはバックレが多い」というものだ。連絡なしのキャンセルだ。何往復もメッセージのやり取りをした末に待ち合わせ場所へ出向くと、相手はいない。男性が途中で行く気を失ったり、離れたところから見て好みでなかったため声をかけなかったりするのだろう。

 女性側からすれば、交通費や時間が削られ、徒労に終わる。2年前から路上売春を続ける20代のカナエは、何度かそんな目に遭って、ネットでの相手探しをやめた。

「それに、あれ結構面倒くさいんだよね」

 もっとも、ネット上で売春相手を探す書き込みは今も簡単に見つけられる。

「今から歌舞伎で2~会える方」

「歌舞伎で生5 #P活 #交縁」

 分かる人には通じるハッシュタグを付け、金額を提示した投稿は無数にある。中には「大久保公園に立ちます。呼ばれればそっち行きます」と、ネットと路上の両方を用いる女性もいる。

◆買う側にも"安心感"

 買う側にとっても、路上で女の子と対面することで得られる安心感はあるようだ。

 ある晩、何人かの女の子に話しかけていた男性に声をかけた。少し気まずそうだったが、名前や職業はNGという条件で話を聞けた。30代だった。

「最初は周囲の目が気になったが、何度か来てたら、なくなった。ネット(での買春)は怖いからやらない。どんな子かも、本当に女の子かも分からないし、美人局だってあるでしょう。風俗店にも行くけど、写真を見ても加工されていて実物と違う。ここは、目の前にいるから、好みの子を探せるんですよ」

 淡々とそう答えた。売る側、買う側、それぞれに理由がある。

 30代のこの男性は取材に応じてくれたが、買春客の多くはそうではない。買う側は、20代くらいの若者から60代くらいまで幅広い。スーツ姿もいれば、ジャージにジャンパーといったラフな格好まで、さまざまだ。似たような格好で売春をする女性たちに比べ、違いが際立つ。

 男性たちに、どうしてここに来たのか尋ねて回ると、少し場所を変えて答えてくれた43歳の男性がいた。「最初は興味本位だった」という。仕事は「個人事業主」と言葉を濁す。路上売春のことは知人から聞き、2023年に入って月1回のペースで来ている。

「どんな子がいるんだろうと思ったら、意外に可愛い子も普通にいるんだなって。ホテル代を入れても風俗店より安く済むし、正直、(風俗店の)プロじゃなくて素人だというのも(よい)」

 風俗店には30代から通っていたと言い、罪悪感はないようだ。「ご家族は?」と尋ねると、「息子がいるんだけど、娘がいたら、来られなかったかも。娘がやっていたら? そりゃショックでしょう。家族にバレたら一発アウト」と答えた。

◆"ウィンウィン"の関係

 私に対して何度も「警察じゃないよね」と念を押してきたのは、ワイシャツ姿の会社員だった。「警察が記者を名乗ることはないし、そもそも買う方は捕まらない」と言うと、「だよね」と応じた。

 軽いノリだが50代で、「これでも一応、管理職なんだよ」と明かしてきた。業種は言わなかったがメーカーに勤めているという。

「ここの女の子は、こっちも気楽なの。相手がよければホテルだけじゃなく食事に行くこともあるけど、使うのは2、3万円。関係もその時だけ」

 買春していることは、会社や家では「絶対言えない」という。

「ウィンウィンでしょ」と話す人もいた。茶髪の頭にタオルを巻いた30代の男性だ。物色するように歩いていたところを話しかけた。

「彼女たちは金が欲しくて、自分は金を出して、やることをやってもらう。売春売春って言うけど、互いによければ誰に何か言われるものじゃない。別に値切らないし」

 3日前も来て、1万5000円で22歳の女の子とホテルに行った。

「その金であの子もホスト行くんでしょ」

 彼らに共通していたのは、買うこと自体は「怖くない」ということだった。後ろめたさは少なからずあるようだが、性病への感染や女性とトラブルになるといったリスクは考えていなかった。いずれも、どこにでもいそうな男性だった。

 * * *

 第2回では、彼女たちが街でつくる関係と、家族との距離を紹介する。1つの個室で"立ちんぼ仲間"と寝起きを共にする者もいれば、十年来の付き合いを続ける2人組もいる。実家と行き来している女性も、珍しくはなかった。

(第2回につづく)