「NISAは投資商品じゃないぞ」「全く理解してない…」GACKTの“勘違い”にSNSから総ツッコミ…だけど言っていることは正しいと言えるワケ
政府の「貯蓄から投資へ」の号令のもと、2024年からスタートした新NISA(少額投資非課税制度)。今や18歳以上の4人に1人が口座を持つ国民的な制度となったが、その一方でSNS上では、ミュージシャンのGACKTによるNISAについての発言が大きな波紋を呼んでいる。
「NISAに投資する」「NISAによる配当」にSNSから総ツッコミ
「ボクはNISAが正しいとはまったく思わないね。NISAに投資したいともまったく思わないし、なんで世の中の人がNISAに投資するのかっていうのも、よくわかんない」
ミュージシャンのGACKTが語った「NISA論」が、SNSで物議を醸している。話題の発端となったのは、YouTubeチャンネル「DROPOUT ドロップアウトした冒険者たち」が2026年1月に公開したインタビュー動画だ。9月下旬になって発言の一部がXなどで拡散された。
GACKTは動画内で、
「今NISAに投資をしている人に聞く。NISAの利益が生まれる構造を教えて。明確に答えて」
さらに彼は、「なぜそのお金が生まれるのか」を自分の言葉で説明できないまま「NISAに預ける」人々の姿勢を疑問視し、「バカなの?」「思考が止まってるんだよ」と鋭く切り捨てた。
一流のエンターテイナーであり、実業家としての顔も持つGACKTの言葉だけに説得力があるように聞こえる。だが、金融や投資の基本を知る人々からすれば、この発言には極めて大きな“引っかかり”があるのだ。
そもそも、NISAそのものは「投資商品」ではないからである。
NISAとは「少額投資非課税制度」のことである。通常、株式や投資信託などから得た売却益や配当・分配金には約20%の税金がかかる。しかし、NISA口座という“特別な箱”の中で購入した金融商品から得られる利益については、原則として非課税になる。
つまり、NISAとは利益を生み出す金融商品(中身)ではなく、株式や投資信託などを保有する際に利用できる「非課税の制度・口座(箱)」のことを指す。
たとえば、ある人はNISA口座でトヨタ自動車やソフトバンクの株を買い、別の人は日経平均に連動する投資信託を買い、また別の人は全世界株式に連動する投資信託を購入する。利益が生じる仕組みがあるとすれば、それはNISAという制度そのものではなく、それぞれが購入した企業の「株」や「投資信託」の側にあるものだ。
そのため、「NISAの利益が生まれる構造」「NISAに預ける」「NISAに投資する」「NISAの主要株って何?」「NISAの中に含まれている株」「NISAによって何%の配当がつくの?」というGACKTの表現を文字どおり受け取れば、NISAという税制上の仕組みと、その中で購入する金融商品を完全に混同しているように聞こえてしまう。これがSNSでツッコミを受けた最大の要因だ。
だが、こうした「NISAの勘違い」を口にして話題になったのは、決してGACKTだけではない。
国会議員も赤っ恥
そして、NISAをめぐって発言が問題になったのは芸能人だけにとどまらない。国の制度を作るはずの政治家ですら、おかしな発言をしてツッコミを受けたケースがある。
2021年10月には、当時立憲民主党の代表代行だった江田憲司衆院議員の発言が大きな波紋を呼んだ。BSフジ「プライムニュース」に出演した際、株式の譲渡益などにかかる金融所得課税について、税率を20%から30%程度へ引き上げる考えを説明。その際、司会者から「NISAやつみたてNISAについても同じように課税するのか?」と問われたのだ。
これに対し、江田氏は「同じようにかけます」とあっさり回答してしまった。
しかし前述の通り、NISAは「少額投資非課税制度」である。一定の条件のもと、運用益を非課税にすること自体が制度の「核心」であり、存在意義だ。そこに課税してしまえば、NISAという制度そのものが消滅してしまう。
江田氏は翌日、自身の発言を撤回して陳謝。「質問を誤解した。本当に申し訳ない」と釈明する事態となった。NISAをめぐる著名人の発言の中でも、「非課税制度に課税する」と答えてしまったこの一件は、制度への無理解が最もはっきり露呈したケースと言えるだろう。
さらに2023年3月には、参政党の神谷宗幣参院議員の発言も物議を醸した。
参議院財政金融委員会において神谷氏は、海外の株式などへ日本の資金が流出するのを憂慮し、国民のお金を国内産業に循環させる仕組みを作るべきだと主張。国産SNSや国内クラウドなどを例に挙げ、「NISAなどで集めた国民の資産で事業を行い、国民に非課税で配当を渡す」という趣旨の提案をした。
自身のSNSでも同様に「NISAで集まった国民の資産で~」と説明したため、ネット上では「NISAは国が国民のお金を一カ所に集める制度ではない」「まるで政府が個人の資産を没収して事業投資するようだ」といった指摘が相次いだ。
確かに「NISAで集まった資産」という表現は極めて不正確だ。NISA口座で投資された資産を政府が一括して管理し、その資金を国家の好きな事業へ勝手に振り向けられるわけではない。
ただし、神谷氏については発言の文脈全体をフラットに読む必要もある。国会の会議録を確認すると、国が魅力的な国産SNSなどの事業を作り、そこに「国民の資産を(NISAを通じて)投資してもらって利益を上げ」、配当を非課税にするような仕組みを提案しているに過ぎない。現在NISA口座にある国民の資産を「政府が取り上げる」と主張したとまで解釈するのは、やや飛躍しすぎだろう。
問題は、そうした国家的な事業提案を「NISAで集まった国民の資産」という、制度の根幹を誤解させかねない危うい言葉で表現してしまったことにあった。
それでもGACKTの「警告」は正しいと言えるワケ
こうして振り返ると、NISAが国民的制度として急速に一般化する一方で、「NISA=金融商品」「NISA=国が運用する投資」「NISAにお金を預ければ増える」といった漠然としたイメージが、著名人の発言の端々に顔を出していることがわかる。金融庁によれば、今や普及率は目覚ましく、口座開設数は数千万規模に達している。
だからこそ、冒頭のGACKTの発言を「制度もわかっていない恥ずかしい勘違い」と冷笑して片づけてはいけないのではないだろうか。
確かに「NISAの利益が生まれる構造」という表現は制度上間違っている。しかし、この言葉を次のように置き換えてみたらどうだろうか。
「自分がNISA口座で『何に』投資しているのか。その金融商品は『なぜ』利益を生むのか。そして、どんなリスクがあるのかを明確に説明できるか?」
金融庁自身も啓発している通り、投資には株式、債券、投資信託などさまざまな金融商品があり、安全性・収益性・流動性のすべてが完璧な金融商品など存在しない。NISAの口座で買ったからといって絶対に利益が出るわけでもなく、暴落時に国が損失を補填してくれるわけでもないのだ。
たとえばNISAで人気のオルカンなどの「インデックス型の投資信託」。これは一体どんな商品で、なぜ長期的な値上がりが期待できると思ったのか――それをあなたは、自身の言葉で「明確に説明」できるだろうか。
自分が何にお金を出し、なぜ増える可能性があり、逆にどういう場合に資産が目減りするのか。それを理解しないまま、「みんながやっているから」「国が勧めているから」という理由だけで、思考停止で大切なお金を投じるな――。
言葉の使い方や用語の説明こそ不正確で批判を浴びたGACKTだが、投資の初心者に向けたこの警告の「本質」自体は、NISAが国民の間に深く浸透し、誰もが投資家になり得る今だからこそ、耳を傾ける価値のある痛烈なメッセージなのかもしれない。
取材・文/集英社オンライン編集部
