亡くなる直前、同居家族が「多額の預金」を引き出し…使途不明金を取り戻す方法はあるか?【弁護士が解説】
親などの親族が亡くなった後、遺産整理の段階で「亡くなる直前に口座から多額の預金が引き出されている」ことに気づき、相続人同士のトラブルに発展するケースは少なくありません。使途が不明だったり、同居していた家族が隠し持っていたりする場合、他の相続人は泣き寝入りするしかないのでしょうか。そこで今回は、実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、亡くなる直前に引き出された使途不明金の法的な扱いや対処法について、「弁護士だからわかる!できる!あんしん相続」(Gakken)の著者である古山 隼也弁護士が解説します。
亡くなる直前の多額の引き出し…「使途不明金」の扱いは?
相談者は、被相続人が亡くなる数週間前に、同居していた別の相続人が被相続人の預金口座から数百万円を引き出していた事実を把握しました。
引き出された金銭は、その数日前に定額貯金が満期を迎え、被相続人の口座に振り込まれたもののようです。
被相続人は高齢であり、亡くなる直前に大金を自身で引き出すことは不自然であるため、相談者は同居していた相続人による行為ではないかと推測しています。
引き出された金銭が全額葬儀費用に充てられているのであれば相談者も納得できるものの、使途不明である場合の法律上の取り扱いや、同居していた相続人への「生前贈与」に該当するのかについて疑問を抱いています。
さらに、金銭がタンス預金として隠匿され、生前贈与なのか横領なのか事実関係が判断できない場合、返還を諦めるしかないのかと思い悩んでいます。
そこで、ココナラ法律相談「法律Q&A」に次の3点について相談しました。
(1)葬儀費用以外に使われた使途不明金は、法律上どのような扱いになるか。
(2)被相続人と同居していた相続人が「生前贈与」を受けたことになるのか。
(3)事実関係が不明な場合、金銭の返還請求を諦めるしかないのか。
使途不明金の法律上の扱い
一部の相続人が、無断で被相続人の預金を引き出してしまう、必要以上に出金してしまうなどした結果、他の相続人から「使いみちの分からない怪しい出金」として追及され、払戻金の返還を求められることがあります。
これは一般的に「使途不明金問題」といわれています。
使途不明金の扱いについて結論からお答えすると、被相続人の生前に無断出金や必要以上の出金をしてネコババ(横領)された場合、被相続人はネコババした相続人に対して次の請求権に基づいて損害賠償または返還を求めることができます。
●不法行為に基づく損害賠償請求権
●不当利得返還請求権
生前に被相続人の持っていたこれらの請求権は、被相続人の死亡により、各相続人へ原則として法定相続分に応じて引き継がれます。つまり、相談者を含む他の相続人はネコババした相続人に対して損害賠償または返還を求めることができます。
損害賠償または返還を求めることができるのはネコババされた金額であり、出金額全部ではありません。被相続人の治療費や入院費といった経費など、被相続人のために使われた部分は問題となりません。
相談者は引き出されたお金が葬儀費用に充てられていたのであれば納得できると言っていますが、被相続人の財産から葬儀費用を支払うことが当然と決まっているわけではありません。葬儀費用は喪主が負担すべきとする判例もあります。ただ、相続人全員が葬儀に参列していたのであれば、被相続人の財産から葬儀費用を出すことに異論はあまり出ないと思います。
「使途不明金=生前贈与」にはならない
同居していた相続人が預金を引き出したという事実だけから、払戻金が被相続人からの生前贈与だったと扱われるわけではありません。
贈与は契約です。したがって、被相続人が「このお金をあげます」と言い、同居していた相続人が「このお金をもらいます」と答えたというように、両者の間で意思が一致していなければなりません。
同居していた相続人が「世話しているのだから、このくらいもらってもいいだろう」と思って無断で預金を引き出していた場合、生前贈与は認められません。
そのため、同居していた相続人が生前贈与を主張するのであれば、契約書や被相続人のメモなどの客観的な資料を提示したり、動機や経緯を説明するなど、生前贈与があったと認められる根拠を用意しなければなりません。
なお、生前贈与が認められた場合でも、同居していた相続人は実質的にお金を返さなければならないことがあります。生前贈与は「特別受益(遺産の前渡し)」に当たるとみなされることがあり、その場合はすでにもらった金額を差し引いて残りの遺産を分けることになります。
使途不明金を調べるときに「よく使われる方法」3つ
使途不明金問題がある場合、この問題を取り上げる側ははじめ事実関係を知らないことがほとんどです。ネコババしていた相続人が自分から告白したり証拠を出してくることは、まずありません。
使途不明金を調べるときによく使われる方法として、次のようなものがあります。
●金融機関から取引履歴や払戻請求書などを取り寄せる。
●市町村役場から介護認定記録を取り寄せる。
●医療機関からカルテなどを取り寄せる。
まずは不自然な出金があるかどうかを確認し、ある場合は、「いつ」「いくら」「どこで」出金されたかを確認しなければなりません。
金融機関から取り寄せられる取引履歴は口座の入出金について記録されていますので、大切な資料になります。また、払戻請求書の筆跡から出金した人が誰か推測することができます。ただし、これら資料は過去10年分までしか取り寄せられないのが原則ですので注意してください。
次に、被相続人が自分で財産管理をしていたのか、他の人が財産管理をしていたのであればそれが誰か、を調べなければなりません。もし被相続人が介護保険の認定を受けていたのであれば、介護認定記録の訪問調査票に金銭の管理状況について記載があります。また、医療機関のカルテなどを見れば、被相続人の判断能力や外出できる状態だったかなどを確認することができます。
これら資料を集めて、同居していた相続人が不自然な出金をしていたことが判明すれば、その相続人に払戻金の使いみちの説明を求めることになります。払戻金の使いみちは出金した相続人であればある程度説明できるはずなので、説明できない、または説明しないのであれば、その事実自体がネコババしたと推測させる根拠となります。
ネコババは横領罪や窃盗罪となる可能性があることから、警察に相談して捜査してもらおうと考える相続人もいます。しかし、ネコババしたのが同居の親族などの場合、親族相盗例といって刑が免除されます。
多くの場合、使途不明金問題は刑事事件でなく民事事件として解決を図っていくことになります。
当事者同士での話し合いが難しいケースは珍しくなく、第三者である弁護士を交え、話し合いや調停・訴訟で解決を進めていくのが現実的です。時間が経つほど証拠の収集は難しくなるため、異変に気づいた段階で早めに具体的な対応へ着手することをおすすめします。
古山 隼也
弁護士
