(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

庭の手入れや住宅設備の修繕など、戸建てには住み続ける限り必要になる管理があります。現役時代には気にならなかった作業でも、年齢や生活の変化によって負担に感じることもあるでしょう。長年暮らした戸建てを離れ、70代でマンションへの住み替えを決めた夫婦がいます。

「また枝が伸びてきたな」退職後に増えていった“家の仕事”

「若いころは、庭がある家に住むのが夢だったんですよ」

そう話すのは、71歳の正彦さん(仮名)です。70歳の妻・恵子さんと2人で暮らしています。

夫婦が郊外に一戸建てを購入したのは30代後半のころ。4LDKで小さな庭があり、子ども2人を育てました。

住宅ローンは60代前半で完済。子どもたちも独立し、正彦さんが仕事を退職したころには、「あとはこの家でゆっくり暮らそう」と話していたそうです。

ところが時間に余裕ができると、今度は家の手入れが気になるようになりました。

春になれば雑草が伸び、初夏には庭木の剪定。秋には落ち葉を集めます。台風のあとは雨どいや屋根が気になり、数年おきには給湯器やエアコンなど住宅設備の交換も必要です。

「会社に行っていたころは、休日にまとめてやればいいと思っていたんです。でも退職したら、家のあちこちが目につくんですよ。今日は草取り、今度は枝を切らないと、という具合に」

すべて自分で行っていたわけではありません。高い場所の剪定などは業者に頼むようになりましたが、今度は費用がかかります。

ある日、正彦さんが庭を眺めながら「また枝が伸びてきたな」と言うと、恵子さんが返しました。

「あと何年、こうやってこの家の心配をするんだろうね」

夫婦には月約30万円の年金収入があり、貯蓄は約5,200万円。住宅ローンもありません。経済的に今すぐ自宅を手放す必要があったわけではありませんでした。

それでも、2階へ上がるのは以前より億劫になり、4LDKのうち日常的に使うのはリビングと寝室が中心。スーパーや病院へ行くにも車を使う生活です。

「家が嫌になったわけじゃないんです。ただ、2人で暮らすには、家も庭も大きすぎるんじゃないかと思い始めました」

夫婦が住み替えを本格的に考え始めたのは70歳のときでした。

候補にしたのは、子ども世帯の近くではなく、電車で都心にも出やすい駅前。スーパーやクリニック、飲食店などが徒歩圏内にそろうエリアです。

そこで見つけたのが、中古のタワーマンションでした。

庭はなくなった。でも増えたものも…71歳夫婦の住み替え後

戸建てを売却し、夫婦は70平方メートル台の中古マンションを購入しました。

決め手は、駅から近く、日常の買い物を徒歩で済ませられること。室内に大きな段差が少なく、生活の中心をワンフロアにまとめられること。そして、庭や建物の外回りを夫婦だけで管理する必要がなくなることでした。

引っ越して最初の春、恵子さんが窓の外を見ながら言ったそうです。

「今年は草取りしなくていいんだね」

正彦さんはその言葉で、住み替えを実感したといいます。

生活も少しずつ変わりました。

以前はスーパーへ行くにも車を出していましたが、今は歩いて買い物へ行きます。夫婦で駅前の店へ昼食を食べに行ったり、電車で美術館へ出かけたりする機会も増えました。

「家が小さくなったというより、外に出やすくなった感覚のほうが大きいですね」

一方、マンションなら住居費の心配がなくなるわけではありません。

区分所有マンションでは管理費や修繕積立金などの負担が継続します。戸建てでは修繕の時期や費用を自分で判断する場面が多い一方、マンションでは共用部分の維持管理に必要な費用を毎月負担することになります。

夫婦も購入前に、物件価格だけでなく管理費と修繕積立金、固定資産税、駐車場を手放した場合の支出減などを含めて家計を確認しました。

総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、可処分所得は22万1,544円、消費支出は26万3,979円。平均では消費支出が可処分所得を上回っており、住み替えを考える際も、購入資金だけでなく、その後の毎月の支出まで確認することが重要です。

正彦さん夫婦の場合、年金月30万円に加えて貯蓄5,200万円がありますが、「資産があるからタワマンでも大丈夫」とは考えなかったそうです。

「戸建てはお金がかからないと思っていたけど、修繕は必要でした。マンションは毎月費用が見える。その違いはありますね」

住み替えて約1年。夫婦は今も、以前の家を懐かしく思うことがあります。それでも正彦さんは、「戻りたいとは思わない」と話します。

「庭がなくなったのは少し寂しいですよ。でも今は、家を維持するために一日を使うことがなくなった。その時間に2人で出かけられるようになりました」

住み慣れた戸建てを手放すことが、すべての高齢世帯に適しているわけではありません。マンションにも毎月の管理費や修繕積立金などがあり、住み替えには購入・売却や引っ越しに伴う費用も発生します。

だからこそ、住まいを考える際には「今の家に住み続けられるか」だけでなく、その家を今後どのように維持していくのか、日常生活にどれほど手間がかかるのかまで確認することが大切です。住まいに生活を合わせ続けるのではなく、これから送りたい暮らしに合わせて住まいを選び直すことも、選択肢の一つといえるでしょう。