自治体による対応の差を語る小久保哲郎弁護士(9月18日 都内/榎園哲哉)

写真拡大

「追加給付を受け取るために、戸籍謄本代が5000円近くかかりました」。かつて生活保護を利用していた大阪府に住む40代の女性はため息をつく。

2013年~2015年に行われた「生活保護基準引き下げ」を違法とした最高裁判決を受け、国は差額分の「追加給付」を始めたが、過去に生活保護を利用していた人への給付が進んでいない。

こうした状況の改善を求め、生活保護利用者や支援者・弁護士らでつくる「いのちのとりで裁判全国アクション」は今月18日、厚生労働省に要求書を提出し、記者会見を開いた。(ライター・榎園哲哉)

「もらえることすら知らない」届かない100万世帯への給付

そもそも今回の追加給付は、2013年~2015年に、3度にわたり、国が生活保護費のうち食費等に該当する生活扶助費を平均6.5%、最大10%引き下げたことに対し、各地の利用者が国を訴えた裁判に端を発する。

2025年6月、最高裁は国の引き下げ処分を「違法」と断じ、取り消す判決を下した。

本来であれば、減額されていた差額の全額が利用者に支給されるべきところ、厚労省は専門委員会の報告書をふまえ、独自の計算で給付額を半分程度に抑制。対象者に対し、1世帯平均約10万円の追加給付を今年3月から順次行っている。

追加給付の対象には、現在生活保護を利用している約160万世帯に加え、過去に利用し、すでに保護を抜けている「保護廃止世帯」も含まれる。その数はおよそ100万世帯に上ると推計されるが、その大半に追加給付が届いていない実態が浮かび上がってきた。

北海道札幌市の支援団体代表は、「市内に対象となる保護廃止世帯は約5万世帯ありますが、申請があったのは1か月で1100世帯ほど。市の広報誌に小さく載っただけで、そもそも保護廃止世帯も追加給付をもらえること自体が知られていません」と語る。

「いのちのとりで裁判」神奈川原告団の一人でもある40代女性も、行政の周知のあり方に疑問を呈す。

「新聞を取らず、テレビもなく、インターネットも使えない『情報弱者』の人たちには情報がほとんど届きません。誰にでも分かる方法、言葉で追加給付について伝えてほしい」

費用は自己負担、DV被害者も受け取れず…高い申請のハードル

周知不足に加え、申請手続きの煩雑さも大きな課題となっている。

冒頭の大阪府在住の女性は、夫のDVで離婚し、約3年前までのおよそ5年間、2人の子どもを育てながら生活保護を受給した。

追加給付の申請のため自治体の窓口に行くと、当時の世帯員全員で窓口に来るよう求められたという。

子どもたちは独立して仕事をしていることから、全員で窓口に行くのは難しい。結局、複数の戸籍謄本を取り寄せたが、費用として約5000円かかった。

生活保護の受給は世帯単位が原則のため、DVや虐待などを理由に元の世帯を離れた人が、個人で追加給付を受けられない問題も生じている。元の世帯主に全額が給付されてしまい、当事者の手元には渡らないケースもあるという。

申請期間1年→5年以上に 弁護士らが改善要求

「いのちのとりで裁判全国アクション」の弁護士らが特に問題視するのは、保護廃止世帯の申請期間が今年8月1日から来年7月31日までの「1年間」に限定されている点だ。

厚労省は期間を1年とした理由について、「集中的に周知・広報し、速やかに給付を行うため」と説明するが、1年を過ぎた場合の対応については「仮定の質問には答えられない」と回答を避けている。

これに対し、事務局長の小久保哲郎弁護士は、地方自治法を根拠に「金銭の給付を目的とする地方公共団体に対する権利は、5年間行使しないと時効で消滅することになっている。少なくとも5年間は申請を受け付けるべきだ」と主張する。

要求書ではこのほか、①保護廃止世帯へのプッシュ型通知などによる周知徹底、②戸籍謄本が不要な例外扱いの拡大と費用の補償、③DV被害者らへの個別追加給付、④給付額への不服申し立てを認めること――などを求めている。

自治体は「国からの指示がまったくない」戸惑いも

現場の自治体も対応に苦慮している。愛知原告団の事務局長は、「名古屋市には保護廃止世帯のデジタルデータもすべて残っており、どこに転居したかも把握している。国から給付手続きについて指示があればいつでも対応できるが、国からはまったく指示も予算も来ないのが現状のようだ」と、自治体の戸惑いを代弁する。

保護利用世帯についても、追加給付が十分行き渡っているとは言えない。小久保弁護士によると、対象の約160万世帯のうち、実際に給付が行われているのは3分の1に満たない約50万世帯。郵送による申請等の方法も、各自治体でまちまちだという。

自治体に指示を出さないほかにも、国の姿勢には「不透明さ」も指摘されている。

弁護士らが今回の追加給付額の算定根拠などを求めて情報公開請求を行ったところ、厚労省は「文書が著しく大量」との理由で、大部分の開示判断を「2年後の2028年6月30日までに行う」と通知。これには弁護士から「情報公開を先延ばしにして、裁判を妨害する露骨なやり方だ」と批判の声が上がっている。

「いのちのとりで裁判全国アクション」共同代表の尾藤廣喜弁護士は、会見の最後にこう語った。

「最高裁判決の敗訴者である国には、対象者全員に追加給付を通知する義務がある。すべての人に知らせて初めて、その責任を果たしたことになる」

追加給付の対象者は、2013年8月~2026年3月の生活保護利用者。期間や回数は問わない。申請等については、厚労省の相談窓口や特設サイトでも案内している。相談窓口:0120-179-445(フリーダイヤル/平日午前9時~午後5時、10月までは土日祝日も受け付ける)

特設サイト:https://tsuikakyufu-sodancenter.mhlw.go.jp/

■榎園 哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。