【若尾 淳子】極悪おばあちゃん上等! 年金暮らしの不死身すぎる無双キャラ「AIおばあちゃん」がバズる理由
残念なことに豪雨災害が続出したシルバーウィークもあっと言う間に終わった。そんな中、SNSで話題を集めているのが「AIおばあちゃん」だ。先日、SNSでバズった動画はゲーム仕立てのこんなストーリーだった。
ウメおばあちゃんは「回覧板を届けよ」というミッションを受け、回覧板をつかんで猛ダッシュ。よそのおじいちゃんを蹴り倒し、乗っていた自転車を強奪して隣の田中家へ向かう。到着したウメおばあちゃんが投げつけた回覧板が直撃して、家を破壊された田中のおばあちゃんは、すかさずライフル銃で応戦。次の「田中さんを落ち着かせろ」という指示でウメさんがチョイスしたアイテムはなんと「こやし」だった……⁉ この動画のタイトルは、『AIが考えるおばあちゃんゲーム【Pollo AI/Seedance 2.5】』(※1)。
※1:XなどのSNSでは、『ババアのオープンワールドゲーム【Pollo AI/Seedance 2.5】』というタイトルで呼ばれることもある。
「AIおばあちゃん」の作者に話を聞きたい
奇想天外にもほどがある超シュールな光景だ。なかには、その過激さに驚く人もいるかもしれない。しかし、SNSには「ガチでゲームにしてほしい」「なんだか見ていると元気になる」「中毒性がある」といったポジティブな声が散見された。
62歳の私は、いわゆる「おばあちゃん世代」に片足を突っ込んでいる。それでも、というより、だからこそかもしれないが、画面の中で破天荒に暴れ回るおばあちゃんに、爽快さすら感じて大爆笑した。
シニア世代を語るとき、「弱い存在」や「迷惑な存在」という視点を持ちがちだ。しかしここで描かれるおばあちゃんは、そんな固定観念から完全に解き放たれ、とにかくアグレッシブに暴れ回る。この現実との大きなギャップを持つ“仮想おばあちゃんキャラ”が、私の心を軽く・爽快にしたのだろうか。
Xで話題となったこの動画の作者に話を聞き、その答えを探すうちに、AIをめぐる世代間の感覚差と、意外な可能性が見えてきた。
2177万回再生!「AIおばあちゃん」誕生秘話
SNSを中心に破天荒な「AIおばあちゃん」動画が広がり始めたのは2025年のことだ。20~30代を中心に人気コンテンツとして定着しつつある。
その代表的な制作者が、YouTubeで「AI動画ラボコイコイ」チャンネルを運営する20代の動画クリエイター・コイコイさんだ。特に映像やITの専門的な経歴があるわけではなく、AIも独学で習得してひとりで動画を制作している。SNSのフォロワー数は合計約30万人。最もバズった動画「AIが考える理解不能なおばあちゃんYouTuberたち【その3】」はYouTubeで2177万回再生を記録している。
「おばあちゃん」を主人公にした理由をコイコイさんはこう語る。
「おばあちゃんって、いつも一生懸命で本人は真剣なのに、どこかクスッと笑えてしまうシュールな瞬間がありますよね。そういうところが愛らしくて好きでした。その魅力をAIで思いっきり誇張したら、面白くなるんじゃないかと思ったのがきっかけです」
コイコイさん自身、おばあちゃん子だったという。身近な存在への愛着がコイコイさんのおばあちゃんキャラの根底にあるのだろう。
「最初の作品は2025年7月ごろに作った『カバと仲良くなってきます』と言ってカバの檻に飛び込む、という内容でした。当時は作り方の解説がほぼなかったので、手探りしながら自力で作りました。10秒程度の動画制作に1時間以上かかりましたね」
キャラクターには明確なルールがある。
「おばあちゃんは常に破天荒で、無自覚・悪気なし・無邪気・本人は真剣。おじいちゃんはツッコミ役か、理不尽な被害に遭う役。この形は崩さないようにしています」
なぜおじいちゃんではなく、おばあちゃんだったのか。
「あくまで個人的なイメージですが、おじいちゃんは力強さや威厳を感じるので、暴れてもギャップが小さい。いつも優しく、穏やかに見守ってくれているイメージのあるおばあちゃんだからこそ、破天荒な行動をしたときのギャップが大きくて笑えるんだと思います」
なるほど。確かに、高齢の母の介護や通院に付き添っていると、受付の人や付き添いの家族に向かってキレるおじいちゃんを、よく見かける。まぁ、暴れたり面倒なおばあちゃんもいなくはないが……。でも、おばあちゃんのほうがありえない無双キャラに仕上がりやすいのはうなずける。実際に、AIおじいちゃんが主人公の動画も見てみたが、なぜかあまり笑えなかった。デフォルメしてもおばあちゃんに比べてギャップが小さい。
AI動画制作の実態も興味深い。
「案出し→画像生成→動画化→編集→投稿という流れで、1本あたり3~7日かかります。 AI3:人間7くらいの割合で、案出しも編集も全部人間の僕自身でやります。AIが担当するのは画像や動画を作る部分だけ。やっぱり重要なのは人間だと思っています」
多数寄せられた視聴者コメントの中でコイコイさんが一番うれしかったのは「「AI動画で一番好き」という声だったという。私が「おばあちゃん世代の私が見ても、爽快でした」と伝えると「予想していなかったです。そう言っていただけて本当に嬉しいです」という謙虚な答えが返ってきた。
AIおばあちゃんは世界も救う?
「AIおばあちゃん」が活躍しているのは、笑える動画の世界だけではない。
イギリスの通信会社O2は2024年、特殊詐欺対策としてAIおばあちゃん「Daisy」を導入した。Daisyは詐欺電話をかけてきた相手に対して、延々と話し続け、実際に詐欺師を40分以上引き留めた事例もある。公式発表では1,000件以上の詐欺師電話に応答したとされている。おばあちゃんの設定には、相手を油断させ、詐欺師すらも安心させて思わず会話に付き合ってしまうという「強み」があるのだろう。
「詐欺師を40分も引き留めたというのが痛快で面白いですね。人をだますつもりだった詐欺師が、逆にAIおばあちゃんに振り回されているのがいい。人を守るために活用するという発想が素敵だと思います」(コイコイさん)
「AIおばあちゃんが社会の役に立つ可能性はあると思います。僕の動画にも『落ち込んでいたけど久しぶりに笑って元気が出た』『疲れが吹き飛びました』といったコメントがよく届きます。人を元気づけられているのが本当に嬉しくて、こういう形でも役に立てるのかなと思っています」(コイコイさん)
人を笑わせ、元気にして、詐欺師を翻弄し、世の中を守る。AIおばあちゃんの可能性は、思った以上に広いのかもしれない。
若者はAIで遊び、中高年はAIを恐れる
我が家にいる大学生の息子は最近、AIでアプリを作って「遊んで」いる。「ゲームをプレイするより、アプリ作りのほうが楽しい」と言うのだ。正直、驚いた。
若者がAIで遊ぶ文化を、コイコイさんは分析してくれた。
「今までは、頭で考える→作る技術を学ぶ→形にする、という流れでした。それが、頭で考える→AIに作ってもらう→形にする、に変わった。クリエイターになりたくてもなれなかった人たちが、今この状況を楽しんでいるんだと思います。僕もそのひとりです。頭の中にあったものがすぐ形になるのは本当に楽しいので、こういう文化はもっと広がっていくと思います」
誰かが作ったもの(ゲームや動画)を楽しむのではなく、「自分で作って楽しむ」を、AIは容易にしてくれているということか。
その一方で、私を含む中高年の中には、AIを「検索の延長」程度にしか使っていない人も多い。AIによる動画や画像にはなぜか「怖い」「騙されそう」という感覚が先に来て身構えてしまう。とくに実在する有名人が、実際には話していない内容を話しているように加工された動画は、最初はフェイクだと気づけなかったこともあり、最近はSNS上の動画全般にどこか怪しさを感じてしまう。
「作っている側からすると、AIのフェイク動画は見ただけで『これはAIだな』と分かるものがほとんどです。でも知らなければ分からない。そりゃ怖いよなと思います。でもAIって意外と簡単で、触ってみると拍子抜けすると思いますよ」とコイコイさんは語る。
AI動画は、素人でも作れるのだろうか。
「まずは無料で使えるツールで触ってみるのが一番です。短い動画を作って、実際に投稿してみる。頭で考えるより、1本作って出してみたほうが早いです」
私の中の「無双するおばあちゃん」を解き放つ
コイコイさんには、次の夢がある。
「AIおばあちゃんと現実をつなげて、実際に体験してもらえるようなゲームを作りたい。『このゲーム、実際に作って』というコメントもたくさんいただきましたから」
現在、実現の方法を模索しているという。
取材を終えて私自身は、息子にも手助けしてもらいながらAI動画を作ってみようと決めた。コイコイさんの「頭の中にあったものがすぐ形になるのは、本当に楽しい」という言葉が、背中を押してくれたからだ。彼の動画には、AIでおばあちゃん化した“コイコイおばあちゃん”が、制作ツールや手法を解説するパートもある。
現実世界では若いころに比べて体力・気力が衰え、常識に縛られて無茶もできない中高年層こそ、AIで「遊ぶ」意義があるように思う。
私自身、歳を重ねるうちに、できなくなったことや不調ばかりが気になり楽しめないことが増えてきた。しかし、考えてみれば、私たちはゲームの進化とともに年を重ねてきた世代だ。中学生のころ喫茶店のテーブルでインベーダーゲームを初プレイ。初代『ドラゴンクエスト』が発売されたとき、私は大学4年生でテレビにゲーム機をつなぎ、勇者を操って敵を倒すことに夢中になった。あの興奮を、今度はAIで味わえるのかもしれない。
もしかしたらAIという道具を手に入れたことがきっかけで、私の中に「無双するおばあちゃん」が新たに爆誕することを、ひそかに期待している。
【もっと読む→小学生のときに生き別れた母、24歳で急逝した兄…武井壮が53歳で“ファミリーヒストリー”にたどり着くまで】
