《抱きしめて欲しかった》56歳独身女性が「女性用風俗キャストに3000万円騙し取られた」トラブルの実情…横行する「色恋営業」の危険性とは
女性のヘルスケアの一環として、健全な性的欲求についてもオープンに論じられることが多くなった昨今。女性向け風俗店、通称「女風」(以下同じ)という業種も徐々に認知されてきた。ネット番組などでも、女性タレントや女性芸人がオープンに"女風体験"を明かす姿が見られるようになっている。
【写真を見る】富田さんが貸した札束を手に枚数を数える女風キャスト・X。富田さんとXのLINEのやり取り
店舗や従業員の数が増え、業界が大きくなる一方で、さまざまなトラブルも生じるようになった。都内在住の医療従事者の富田さん(56歳・仮名)は、「恋愛感情につけ込まれ、合計で約3000万円を騙し取られてしまった」と途方に暮れる。富田さんは現在、男性従業員を相手取った損害賠償請求裁判の真っ最中なのだ--。
ライターの河合桃子氏が実態をレポートする。【全3回の第1回】
ホテルに来るなり「即就寝」
盛り上がりをみせる女性用風俗。その利用客として信じ難い被害に遭ったのが、富田さんだ。
富田さんは2023年6月、大手女風グループのセカンドブランド店に所属していた男性従業員・X氏(27)のサービス、通称「施術」を予約した。そこから同年10月まで、Xに施術を受けるテイで会い、たび重なる無心で約3000万円を"貸して"しまった。
富田さんの通帳を確認すると、2023年6月から10月にかけて、連日のように上限の50万円を現金を引き落としている。50回以上の引き出しで合計3000万円以上を出金しており、それを直接手渡ししてきたという。
そこにあったのは恋愛感情に近い情だ。お金は1円も返ってきておらず、自分よりも30歳近く年下の"いただきセラピスト"による行為で、富田さんは途方に暮れている。
富田さんはもともと結婚願望が強かったが、56歳の現在に至るまで婚姻歴はなく、男性経験もない。両親の希望もあり、いまも実家に住みながら母親の手伝いをし、勤務先の病院へ出勤している。富田さんが明かす。
「女性向け風俗というと性欲を発散する場所だと思われるかもしれません。でも私は正直性欲というものがよくわからない。それより満たしたかったのが、世間一般の人の誰もが受けるような『優しい声かけや抱擁が欲しい』という欲望でした。
恥ずかしい話ですが、私はただXに『私の名前を呼んで抱きしめてほしい』だけでした。でも、その願いは叶えられなかったのです」
富田さんとXの初対面、つまり予約して初めての接客を受けた時の様子は、このようなものだった。
「お店に電話したら『お泊まりがおすすめですよ』と言われたので、22時から翌朝6時までの8時間コース(約5万円、宿泊費ほかで計8万円ほど)を予約しました。ホテルの部屋で緊張しながら待っていると、疲れた表情のXが入ってきて、挨拶もそこそこにXはお風呂に入り、そのままベットに入り寝てしまったんです。無理に起こしたら何をされるかという怖さもあったから、何もできなかった。
翌日の早朝、Xは起きると、うつ伏せに寝た私の背中を軽く20分ほどマッサージして、帰り際のドア前で『"あゆ(富田さんの予約名)"、今日はありがとう』と、その日初めてハグされました。あっけないですが、その時に私は物心ついて初めて、人から抱きしめられる経験をしたのです。嘘でも、ほんの短時間でも、嬉しかったのかもしれません」
接客時間は8時間もあったのに、別れ際のほんの一瞬のみしか接客らしい接客をしなかったX。だが富田さんは「こういうものか」と飲み込んだ。Xは別れ際に「俺といると楽しいよ。次回も予約してよ」と言われ、その場で予約。富田さんは「予約してよ」の呼びかけに「その時は心が弾みました」と言う。
「名前を呼んで抱きしめてくれたことが嬉しくて…」
その後、富田さんは週に複数回、X氏に予約を入れて、頻繁に会うようになる。会っても性的なサービスは行われず、むしろ現金を貸して欲しいなどとせがまれるようになった。X氏と富田さんがLINEを交換したのは、すでにお金を800万円ほど貸した後の2023年8月のことだった。当時のLINEで、X氏が借入を要求しているやり取りが残されている。これらのやり取りの様子を原文のまま記載する(ただし富田さんの呼び名"あゆ"だけ元の呼び名とは変更している)。
X氏〈あゆ、もう何度も助けてもらってるのにこんなこと言うの本当に失礼だし情けない話なんだけれど少し助けて欲しくて… この前の取引先から今いただいてる仕事に付随して依頼が来ていて、 取引継続してもらうためにもなんとか請け負いたいんだ。
24 年 1月には報酬が返ってくるから少しずつ返せるとは思うんだけどお願いできないかな…〉
富田〈いくらあったら大丈夫?〉
X氏〈ほんとにごめんね…270あれば話受けられるけどほんとに無理だったら無理って言ってね…〉
富田〈23日にお渡しできれば1番良いんだよね。 私の銀行口座にほとんどお金はなくて、しかも今月末に住宅ローンの残額分一括返済しちゃうから。他に方法ないかちょっと考えてみるね。最終期限も一応、聞いてもいいかな?〉
富田さんがかなり親身にX氏からの相談を受け入れてる様子が見て取れる。富田さんの通帳を見ると、実際に何度も大金が引き出されていた。これらのお金は富田さんの貯金400万円ほどと、それ以外は自身の生命保険の解約返戻金、さらには両親や弟など家族の貯金からであった。
「家族のお金を横領するというあるまじき行為をしてしまった。それを何度も繰り返すことで、完全に麻痺してしまいました」(富田)
なぜ十分なサービスを受けてもいないのに、女風従業員に対して富田さんが気遣って貸付を続けたのか。
「Xが私の名前を呼んで抱きしめるといった接触をしたのは初回だけでしたが、それが嬉しかったのと、可愛くも綺麗でもない容姿の私との時間を作ってくれるだけでもありがたいことなのだ、と思ってしまって。そのXが『私にしか頼めない』と言うなら貸すほかないと。もちろん返してもらう前提でした。
たぶん私は相当の世間知らずだったのでしょう。20代前半で一度だけお付き合いした男性はいましたが、その人とも肉体的な接触はなかったし、性行為もしていません。ストレートに言うと処女なんですが、本当に性的な欲求を満たしたくて女風を利用したわけじゃなかったのです」
女性用風俗は「改正風営法」の規制対象外
富田さんは結果的に使途不明の大金、合計3000万円をX氏に払い込んでしまったというのだ。
かつて類似のトラブルが横行していたのが、ホストクラブ業界だ。恋愛感情を抱かせて多額の利用料金を支払わせるトラブルが多発。政府は2025年に風営法を改正して数々のホストが摘発した。しかし女風業界はその対象外にあるため、現在も色恋営業やサービス料の前払いなどが横行しているとみられる。
富田さんが利用したような大手の女風はほとんどが"出張型(セラピストが利用客の元に赴いて施術をすること)"だ。女性客が都合に応じて予約を取り、ホテルや自宅など場所を自由に決めて、密室でサービスが行われるケースがほとんどである。店舗型のホストクラブとは違い、密室で客とセラピストが2人きりになるため、無法地帯化しやすいと言える。
X氏は現在、所属店舗をすでに退店している。富田さんは本名と住所を特定しているため、今年3月に弁護士を立てて貸し付けた3013万2083円の返還を求める損害賠償請求事件として民事裁判を起こした。実は実際の貸付金はそれ以上にも上るというが、「弁護士と相談しLINEで証明できる分と店舗DMでのやり取り記録があるものを合算した」という。
4月にはX氏から「借り入れた金員の合計額は911万円を超えない」といった反論が届いた。富田さんは「金額が大きすぎるので民事訴訟から始めました。刑事告訴すれば有期刑になる可能性もあり、そうなるとお金を返還してもらえなくなるので」と肩を落とす。
なぜ富田さんはX氏を信じてしまったのか。話を聞くと、「私自身にも問題があったんです」と、その生育環境を語り始めた--第2回記事で詳報する。
(第2回記事につづく)
◆取材・文/河合桃子(ライター)

