旗振り合図が原則だった列車接近「見張り員」、専門家はGPSなど活用の重要性強調…東武事故1か月
栃木県鹿沼市の東武日光線新鹿沼駅構内で、特急列車と接触した作業員4人が死亡した事故から20日で1か月となる。
鉄道作業における安全に詳しく、自身もJR西日本で列車の接近を確認する「見張り員」を務めた経験もある、関西大学社会安全学部の吉田裕教授(54)(交通システム安全論)に、東武鉄道の安全対策や見張り員の業務のあり方について聞いた。(高橋勇人)
事故は8月20日午前10時45分頃に発生。新鹿沼駅の構内で、特急列車が線路上で除草作業をしていた男性作業員4人に接触、4人全員が死亡した。事故当時、見張り員同士の連携が取れていなかったとみられ、作業員らに最も近い位置にいた「列車見張り員」は緊急停止の赤い旗を振っていなかったという。
吉田教授は、今回の事故当時の状況について、作業現場に見張り員3人が確保されていたのは「十分だった」とした上で、東武鉄道の作業規則については「必要最低限なものは担保されているが、見張り員らの視覚に頼りすぎている印象を持った」と話す。
同社では、見張り員は列車の通過を許可する緑の旗と、緊急停止のための赤の旗を持ち、見張り員同士や運転士との意思疎通は旗を振って合図を送る。無線機などの通信機器は、不具合が起きる恐れがあることから、補助機材として位置づけており、原則は旗を用いているという。
吉田教授は他の鉄道会社の例から、無線機の積極的な活用や、GPS(全地球測位システム)で列車の接近を感知してアラームが鳴る携帯型の装置の導入、ダイヤに合わせて列車の到着数分前にアラームをセットするなどの方法を挙げ、「視覚だけに依存しない」ことの重要性を強調する。
緊急時に列車を止める方法についても、赤い旗のほかに、携帯型の「軌道短絡器」という装置を線路に設置して、周辺の信号を自動的に赤に変える装置も有効だという。
吉田教授は見張り員の心理的負担にも注目する。見張り員が列車を緊急停止させるケースはごくまれで、「自分の判断が間違っていたら」「自分のせいでダイヤが乱れたら」など、心理的なハードルが高いといい、「見張り員が列車を止めるのはすごく勇気がいる」と指摘する。
見張り員の心理的負担を軽減する手法として、一部の鉄道会社では「停止表示方式」と呼ばれる方法を導入している。作業現場の近くに列車を停止させる赤信号代わりの表示板をあらかじめ設置し、見張り員は作業員の退避を確認した上で表示板を外す手法だ。吉田教授は「この方法は常に赤信号が出ていて、その赤を消すという逆の発想で、見張り員の心理的負担を和らげている」と語る。
吉田教授は「鉄道の事故を100%防ぐのは難しい。複数の対策を立てることで、より100%に近づけることが重要」と話している。
