2025年に倒産・休業・廃業・解散した医療機関は約890件に(写真:砂肝大好き/PIXTA)

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「お医者さんをやって27、8年目になりますが、お金が全くもらえない状態が何年も続くなんて、これまで経験がありませんでした」

そう嘆くのは、インターパーク倉持呼吸内科院長(栃木県宇都宮市)の倉持仁氏(54)だ。新型コロナウイルス流行時には地域医療の最前線で発信を続けてきた同氏だが、現在、自らが経営するクリニックの存続をかけた厳しい事態に直面している。

《クリニックの経営悪すぎますので、閉院して身売りします。なんでかって、365日休まず毎日患者さん100-150人見ても毎月1000万の赤字、いくら医療費が増えてるからって、制度の段階で正当なコストと代金は支払われず、この6年で売り上げは40%ぐらい減らされています》

9月8日付同氏のXの投稿には2.4万「いいね」がつくほど反響を呼んだ。

つぶやいた真意を尋ねると、同院を法人化するために一時閉院した上で、インターパーク倉持内科日本橋と一体となって経営するとのことだが、個人経営のクリニックは2024年度の診療報酬改定をはじめとする厳しい環境の変化により経営状況が大幅に悪化し、廃業や組織再編を余儀なくされる事態に追い込まれているという。

帝国データバンクによると2025年に医療機関(病院・診療所・歯科医院)の倒産は66件、休業・廃業・解散が判明した医療機関は823件となり、いずれも過去最多を更新した。今年上半期の倒産件数もすでに39件に達している。

経営悪化の大きな要因となっているのが、近年の診療報酬改定と、異常なペースで進む円安・物価高騰のダブルパンチである。

政府は「物価高に合わせた報酬改定」をアピールするものの、実際の現場における医療行為の単価や各種加算は削減され、実態としては大幅な収益減となっている。

倉持氏のクリニックでも、直近の診療報酬改定を経て売上が約2割減少したという。

「医療機関が提供する診察や診断といった医師の技術・判断に対する対価は極めて低く抑えられており、たとえば大学病院などで検査結果を聞きに行った再診の場合、数時間の滞在や手厚い診察を行っても、保険適用後の患者負担が喫茶店のコーヒー代を下回るような価格構造が形成されているのです。

さらに追い打ちをかけるのが急速な円安です。注射針や注射器、アルコール綿をはじめ、検査機器や資材の多くは輸入や原材料を海外に依存しています。

これらの医療資材の仕入れ価格が数倍に跳ね上がる一方で、医療行為の価格(診療報酬)は国によって一律に定められているので、コストの上昇分を価格に転嫁することができず、その結果として、患者のために処置や検査を行えば行うほど、クリニック側が赤字を抱え込むという歪んだ構造が生じているのです」(倉持氏、以下同)

加えて、医療現場におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進やマイナンバーカード読み取り機器などのシステム導入コスト、電気代や人件費の高騰も重くのしかかり、医療機関の資金繰りを猛烈に圧迫している。

こうした経営危機に対して、自らの持ち出しや無給診療で耐え忍ぶのには限界がある。特に全国の開業医の平均年齢が60代半ばを超える中、「自分の資金を崩してまで赤字経営を続ける理由がない」として、廃業を選択する高齢の院長が急増しているというのだ。

「真っ当な医学的判断に基づいた質の高い診療を提供するクリニックほどコスト負けし、逆に手間をかけずに利益の出る項目やシステムだけを優先せざるをえないという本末転倒な事態も起きています。

薬剤費も院内処方に比べ、院外処方の方がもらう薬の代金以上にその手数料が高いといった、調剤薬局への報酬体系の偏りがあります。現場の医師が本来患者に必要な医療を選択しづらい環境が作り出されているのです」

倉持氏自身も、経営効率化を図るために個人経営から法人への統合を決断せざるを得なかったが、こうした選択肢すら取れずに人知れず幕を下ろす街のクリニックは後を絶たない。

一見すると「医療費の抑制」や「開業医の収益削減」は国民負担の軽減につながるように思えるかもしれない。しかし、そのツケを最終的に払わされるのは、他ならぬ私たちなのである。

「街の小児科や内科、クリニックが次々と減少し崩壊した先に待っているのは、地域医療の空白です。

たとえば冬場にインフルエンザや新型コロナウイルス、その他の感染症が大流行した際、体調を崩しても身近に診てくれる医師がいなくなれば、発熱した子どもや高齢者を抱え、何時間も離れた遠方の病院を探し回らなければならない、あるいは電話すらつながらず受診を諦めざるを得ないといった“医療難民”が日常化する恐れがあります」

そして、大病院への患者集中が加速することで、大病院の待ち時間はより過酷になり、真に緊急性の高い重症患者への対応すら遅れるという悪循環が生じる。

日常的に健康管理を相談できる「かかりつけ医」の存在は、地域の安全網(セーフティネット)そのものである。

街のクリニックが経営難によって消えていく現実は、単に一事業者の問題にとどまらず、私たちがこれまで当たり前のように享受してきた「必要なときにいつでも安心して医療を受けられる生活」そのものが崩壊することを意味している。

医療現場がかかえるコスト構造と制度の課題に市民全体が関心を持ち、持続可能な医療体制の再構築に向けた議論を進めることが今、強く求められている。