「フラフープ」で車2台が窃盗被害、全国初の解錠手口 「家の中にあるキー」の電波を悪用…愛車を守る方法とは
子どもの遊びや運動に使うフラフープが、自動車窃盗の道具として悪用された疑いが浮上した。
埼玉県警は9日までに、県内で車2台を盗んだとして、男2人を窃盗の疑いで再逮捕した。報道によると、犯行には、市販のフラフープにコードを取り付けた機器が使われたとみられる。こうしたフラフープを利用した「リレーアタック」と呼ばれる手法による自動車盗の検挙は、全国初という。
なぜ、身近な遊具が車の解錠に関わるのか。背景には、鍵を取り出さずに車を使えるスマートキーの仕組みと、その利便性を逆手に取る手口がある。(ライター・継野勇一)
本物の鍵が家にあっても、車が開く仕組みスマートキーをポケットに入れたままドアに触れると、ロックが解除される。このとき、車と鍵の間では無線による確認が行われている。
自宅に置かれた鍵が、中継された呼びかけに応答すると、持ち主が操作しなくても認証が成立してしまう場合がある。暗号を解読しなくても、本物の鍵との通信をそのまま取り次ぐことで攻撃が成立し得る。「正しい鍵と通信できた」という確認だけでは、鍵が本当に近くにあることの証明にはならないのだ。
フラフープは、大きなアンテナの「枠」だった可能性今回のフラフープは、導線を「輪」の形に保つための枠として利用された可能性がある。どういうことか。
125kHz前後の近距離通信では、アンテナ同士の間で変化する磁界を利用して信号を伝える。そこで用いられるアンテナに、輪状の導線を使う「ループアンテナ」と呼ばれるものがある。
ループアンテナは、送信側で用いる場合は磁界を発生させる役割、受信側で用いる場合は磁界の変化を捉える役割を担う。
いずれにしても、フラフープなら、導線を広げた状態で支えることができ、持ち運びながら向きを変えることも可能である。大きな輪を維持できるフラフープの形状は、アンテナの支持体として都合がよかったと考えられる。
ただし、フラフープの直径を大きくすれば無条件に性能が上がるわけではない。フラフープ自体に、電波を特殊な方法で増幅する力があるわけでもない。通信のしやすさは、アンテナの向きや回路との組み合わせなどにも左右される。
今回の機器の用途については「車から出る低周波信号を拾うためのもの」として受信側で用いられた可能性、あるいは、「中継されてきた呼びかけを室内の鍵へ届けるためのもの」として送信側で用いられた可能性の両方が考えられる。
遊具に見えることも、好都合だったのか形状に加え、外見上の偽装性が役立った可能性も考えられる。
フラフープは、日常生活で見かける遊具だ。持っているだけなら、周囲の人が直ちに窃盗用の機器だと判断するとは限らない。専門的な装置をむき出しで持つ場合と比べ、用途に気づかれにくかった可能性はある。
もっとも、これは外見から考えられる推測であり、容疑者らが偽装を目的に選んだと確認されたわけではない。単に、入手しやすく、導線を支えるのに適していたという理由も考えられる。
防犯上は、持ち物の種類だけで判断せず、他人の敷地や車の周囲で何をしているかを見ることが大切だろう。
車以外では、住宅の鍵や銀行カードにも通信を中継して認証を悪用する問題は、自動車に限らない。ただし、実際の犯罪と、研究によって示された危険性は分けて見る必要がある。
実際の犯罪としては、セキュリティ企業ESETが2024年に公表した、チェコの銀行利用者を狙う「NGate」の事例がある。偽アプリなどで被害者を誘導し、スマートフォンに銀行カードをかざすよう仕向け、カードの近距離無線通信(NFC)データを中継して、ATMから不正に現金を引き出す手口だ。暗証番号もだまし取るなど、複数の手法が組み合わされていた。
自動車の事件とは使用する通信方式も被害者への働きかけも異なるが、離れた場所の認証用通信を中継して悪用するという共通点がある。
一方、住宅への不正侵入につながり得る例は、研究でも確認されている。英国の世界的規模のサイバーセキュリティー企業、NCC Groupは2022年、Bluetooth通信を中継することで、住宅用スマートロック「Kevo」の解錠が可能だったと発表した。これは研究上の実証であり、同じ方法による侵入事件が発生したとする報告ではない。
今後、身近な機器に無線通信による認証が広がれば、同様の仕組みを悪用した脅威が、車や住宅の鍵以外にも及ぶ可能性がある。
対策は鍵の通信を止めるところからリレーアタックへの備えとして、まず確認したいのは、自分のスマートキーに節電モードなどの機能があるかどうかだ。
トヨタは、対応するキーでは節電モードの利用を案内している。普段使う鍵だけでなく、予備の鍵にも対策が必要だ。操作方法や対応状況は車種によって異なるため、取扱説明書で確認したい。
電波を遮断する容器や金属製の容器を使う方法もある。ただし、「金属に入れたから大丈夫」とは限らない。ふたの構造や隙間によって遮断効果は変わる。メーカーが案内する方法で、実際に通信が遮られているか確かめることが大切だ。
保管場所も見直したい。玄関や窓の近くを避け、屋外から距離を取れる場所に置くことは補助的な対策になる。ただし、距離を取るだけで安全が保証されるわけではない。
さらに、ハンドルロックやタイヤロック、照明、防犯カメラなども組み合わせたい。埼玉県も、鍵の電波対策に加え、物理的な盗難防止機器や管理の行き届いた駐車場の利用を勧めている。
自動車盗には、車両の配線を介してシステムに侵入する「CANインベーダー」など、別の手口もある。鍵の電波を遮断する対策だけで、あらゆる盗難を防げるわけではない。
「鍵は手元にある」という安心を見直す今回の事件では、フラフープという意外な道具に目を奪われる。しかし、生活者にとって見直すべきなのは、鍵を盗まれていなくても、通信を悪用される可能性があるという点だ。
便利な機能を使い続けるためにも、その機能が何を確認して動くのか、使わないときにどう止められるのかを知っておきたい。
まずは取扱説明書を開き、手元の鍵と予備の鍵の保管方法を確かめる。身近な遊具が使われた今回の事件は、日常の鍵の扱いを点検するきっかけになるはずだ。
【継野勇一】Akai探偵事務所・盗聴器の発見PRO・スマホ盗聴の発見PRO代表
最新鋭の機材力で盗聴器発見やスマホのハッキング調査、浮気調査を行っている。https://www.hakken.pro/
