【東京一極集中の真実】大学定員規制でも止まらない地方の人口減、データが示す「若者対策」のズレ

就職説明会に集まる学生たち(千葉・幕張メッセ、写真:森田直樹/アフロ)
バブル崩壊後、現在に至る「東京一極集中」の開始は、1996年の東京都への女性の転入超過に始まり、昨年(2025年)でちょうど30年が経過した。
この30年という時間は人口動態上、非常に象徴的な時間でもある。統計上、親子1世代間は30年ちょっとという時間単位で繰り返されている。というのも、第1~第3子出生時の父母の平均年齢は、すべて30歳から30代半ばに収まっているからである。
この親子1世代分もの間、止まることなき東京一極集中は、止まることなき地方の人口減(社会減:転入数-転出数<0)と表裏一体となっている。なぜこんなにも長い間、地方の社会減が止まらないのか。今年、象徴的ともいえる話を耳にした。
40道府県で進む社会減、固定化する地方の人口流出
ある地方自治体の主催する地元企業の就職フェスティバルに参加している経済団体の役員が、自治体職員に大声でこう問いかけたという。
「どうだ、いい男子学生はきそうかね?」
人口減による人手不足に多くの経営者が頭を抱える地域でのこの発言は、「地元の人手不足の本質」を全く分かっていないからこその発言といえるのだが、読者の中にも「この経営者の発言の何が悪いのか分からない」という人はいるかもしれない。
では、国内移動で地元から人口が純減(社会減)してしまう「若者が去りゆくエリア」は、都道府県単位で一体いくつあるかご存じだろうか。
2025年に国内移動によって社会減が発生したエリアは、47都道府県のうち40道府県(85%)にものぼっている。この40エリアという数字は、新型コロナ感染症による移動制限が発生した2020年以降の6年間(2020~2025年)累計でみても変わることがなく、固定化しつつある。
社会減エリアの対極にある社会増エリア(国内移動で人口が純増するエリア)のうち、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の首都圏、ならびに大阪府、福岡県の6都県は安定で、残る1県については滋賀県だったり山梨県だったりと不安定な状況である。6都府県以外はいつ「社会減固定化エリア」になるかわからない瀬戸際にいる。
新型コロナ感染症による影響が人口移動に見られるようになった2020年以降2025年までの6年間累計では、滋賀県が社会増エリアにランクインしているが、6年間の男女合計で2662人の社会増となっており、他の社会増エリアに比べるとかなり低い数値である。
滋賀県は「滋賀府民」などともいわれ、大阪府、京都府への通勤者のベッドタウンとして地理的優位性も有してきたエリアである。しかし、東京一極集中、つまりは東京圏以外のエリアの相対的人口定着力の弱体化によって、地元から離れずに県外との人流が発生する大阪圏のベッドタウンとしての人口吸引力が弱まりつつある地域の一つである。
社会減の6割は20代前半、際立つ女性の人口流出
40道府県が社会減で失っている人口には特徴がある。筆者は人口減に苦しむ自治体に委員や講演者として呼ばれることも少なくなく、その際には、地域の人口動態分析結果を必ず準備して説明を行っている。社会減エリアには、悲しいかな、分析するたびに「またか……」と頭を抱える社会減構造の特徴がある。
別掲のグラフは2025年に社会減となった40道府県の社会減人口を男女別、5歳階級別に集計した結果であるが、20代前半の女性が圧倒的に減少していることが明確に示されている。この結果を、読者は「当然知っていた」と言えるだろうか。

2025年に40道府県から社会減した人口は、男女合計で▲14万4690人だった。14万人台という人口数は、鳥取県の米子市や沖縄県の沖縄市の人口と同じであり、地方の大きな都市1つ分が昨年、社会増エリアに移動純増したことになる。
このうち男性が▲6万1962人、女性が▲8万2728人となっており、女性が男性の1.33倍も減少していることになる。中でも20代前半の減少が圧倒的な割合を占めており、全年齢階級の社会減合計に占める20代前半人口の社会減割合は、男性の62%、女性の60%にも達する。
つまり、社会減エリアの6割以上が、「地元から就職期に消えゆく20代前半の男女、特に男性の1.29倍純減してしまう20代前半女性」ということを、一体どのくらいの人々が認識しているだろうか。
地方創生を謳いながら、統計的には30代前半に集中している「子育て世帯」誘致や、ただでさえ少子化で不要になっている大学や専門学校(10代後半人口)の誘致、さらには社会減の規模が女性の約75%にとどまる男性に特化した雇用誘致を、目玉施策として掲げてはいないだろうか。
こうした誘致策そのものを否定するわけではないが、統計的に見てかなり的外れな対策を堂々と目玉として掲げている自治体が目に付く。
大学定員規制が地方創生に効かない「3つの理由」
高齢化が進む地方ほどよく耳にする、「そこじゃない」と言いたくなるような誤解に基づく議論の典型例がある。
自治体の検討会などでしばしば聞く「地元から通える圏内に良い大学がないから、地元から大学生が出ていくのだ」という議論である。社会減の年齢階級グラフを見れば「そんなことよりもっと大事なことがあるだろう」と読者も気づいていると思う。
しかし、この「大学の有無のせいだ」という考えに基づいて制定された地方応援のための制度が、2018年度から導入されている「東京23区内の大学の収容定員増の抑制」(地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律:平成30年6月1日公布)である。
これに対して東京都は「東京23区内にある大学は、国の規制により定員を増やすことが原則としてできず、学部・学科の新設のほか、キャンパスの移転や再編が妨げられています」(東京都ホームページ)として撤廃を求めている。
10年間の時限措置で、2028年3月末に期限を迎える時限制度のため、政府は2026年6月に始まった制度の継続の是非を検証する有識者会議を設置して、現在、検討を行っている。国内の人口移動を統計的に観察し続けている筆者からすれば、全く意味がない地方応援制度だと考えている。理由は3つある。
1つ目は、制度導入後の人口移動の推移である。この制度が2018年に制定された後も東京圏への人口集中は拡大を続けていたし、数年間だけでも東京一極集中を抑制できた要因は、2020年からの新型コロナ感染症拡大防止のための移動制限だけであった。
つまり、「東京の大学に進学させなければよい」という発想に基づく規制が奏功した形跡は、ほとんど見当たらない。
2つ目は、政策ターゲットの誤解である。人口動態データを見ると、18歳の大学進学期を含む10代後半の社会減規模は、男性は20代前半人口社会減の33%、女性についてはもっと低く、26%に過ぎない。
3つ目は、大学の数や定員数と社会増減規模の関係性にある。大学の数と学生数では、東京都が18%と27%、大阪府が7%と9%、愛知県が6%と7%でトップ3となっている(学校基本調査2026年8月速報値)。
驚く読者も多いかもしれないが、このうち3位の愛知県は2019年から社会減エリアに転じており、一般的な地方創生対象エリアのイメージの強い東北地方などと同じグループに属している。
何が言いたいかというと、いくら10代後半期の学生を地元に大量にかき集めたところで、前出のグラフに明示されているように、その後20代前半の就職期にさらに大量に(3~4倍)地元から若者に逃げられている構造が災いし、全国3位の規模で学生を集める愛知県でさえも社会減エリアに転じてしまっているという点である。
以上の3点から、大学保有数や定員は地方創生に効果を及ぼし得ないことがあまりにもはっきりしている。
子育て支援だけでは届かない、就職期の女性流出という盲点
この話を聞いて、ある関西地方県の東京事務所長が講演後、残念そうに筆者にこう語った。
「確かに、若い女性の誘致を掲げ、地元に看護学部を新設したところ人気を集め、10代後半女性の社会減は多少縮小しました。ところが、おっしゃる通り、就職期になると彼女たちのほとんどが大阪府の医療機関に就職してしまい、むしろ地元では20代女性の社会減が強まりました。教育機関を設けても、若者の地元定着にはほとんどつながっていないのです」
女性の定着策というと、子育て支援に議論が集中しがちだが、「子育て支援は、就職期の転出そのものに直接働きかける政策ではない」ことを肝に銘じてほしい。
前出のグラフで示したように、就職期に転出した女性たちはその後の年齢でほとんど取り返せていない。よくテレビや動画配信などで、選挙前になると、
「若いうちは地元を出ても構いません。むしろ外の社会でもまれ、地元の良さを知ってもらえばいい。子育て支援を充実させておけば、いずれ住みやすい地元に戻ってくるでしょう」
といった主張をどこかの自治体の街頭で演説する候補者を目にしている。そんな時、研究者としても、子育てを経験した一人の母親としても、「この人が当選しても地元の人口減は止まらない」と思わずにはいられない。
筆者:天野 馨南子
