被害を受けた園児へのフォローといじめた側のケアも重要だ。※写真はイメージです(写真:KAKU/PIXTA)

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9月8日、横浜市は児童福祉審議会「保育所等における虐待担当部会」の検証報告書を公表した。

2024年、横浜市中区の認可保育所に通っていた年長児が、複数の園児から「太っている」などと容姿をからかわれ、さらに2025年には折り紙に「しね ばか だいきらい」「ママ消えればいいのに」と書かれた手紙を渡されたり、「ゴキブリをつけてやる」と言われたりしたことが確認された。

この年長児は、卒園後にPTSDを発症。児童の保護者は、いじめ防止対策推進法の重大事態に準じて第三者調査委員会を設置するよう横浜市に訴えていた。

その後、審議会は「年齢を除けばいじめ防止対策推進法の定義するいじめの要件を満たす」として「いじめに相当すると考えられる行為」と表現。未就学児は同法の対象外のため、重大事態調査の枠組みは適用されず、児童福祉法に基づく検証となった。

市は児童福祉法に基づく第三者検証を始め、保育園などにヒアリングを実施。

その結果、報告書によれば、園側は一定の介入をしていたとしてネグレクトとは判断されなかったが、保育園側が「事案の重大性の認識に欠けていた」と指摘した。行政が公式に「保育園でもいじめは起きる」と認めた稀有なケースとして、大きな注目を集めている。

この問題について、自らもいじめ被害を経験し、講演や相談にも携わってきた弁護士の菅野朋子さん(56)に話を聞いた。

「本人がここまで心理的な被害を訴え、小学校に上がっても心身の不調があるとなると、精神的なトラウマはかなり深刻です。なかなか回復が難しいですから、長い期間のサポートが必要です」

菅野さん自身も、幼稚園や小学校1~2年生の頃のいじめを今でも覚えており、
「『なぜあれを言い返さなかったのだろう』といまだに思います。一回起きたらもう取り返しがつかない。一生残ります」と語る。

園から保護者への報告が遅れた点などについて、菅野さんはこう見解を示す。

「未就学児であるだけに、ちょっとしたからかいや、悪気があったわけじゃないと片付けてしまいがちですが、現場の先生も、まだ幼いから善悪の区別がつかないと軽視してしまった側面が否めない。けれど、幼稚園・保育園でも5、6歳になれば、確実に相手を傷つけることが分かっているはずです。そして、何より、『じゃれ合い』と『いじめ』は確実に異なる行為、ととらえなければなりません」

「しね」という言葉が出る背景について、菅野さんは一般論としてこう分析する。

「アニメや漫画で言葉を知ることはあると思いますが、特に幼い年齢であれば、いじめる本人がかなり精神的なプレッシャーを抱えていることが多い、と言われています。親をはじめ自分のことを認めてもらえていなくて、注目を引きたいという心理もあります。

いずれにせよ、『しね』という言葉を使う心理的背景には、相当なストレスを抱えていることが推測されます。家庭環境が影響しているという背景もよくある話ではありますが、親のせい、家庭のせいと単純に結論づけることはできません」

いじめが低年齢化する理由についてはこう分析する。

いじめの認識が高まって、昔は『からかい』『じゃれ合い』とされていたものが顕在化し、認定されるようになったのも一因。もう一つは、子どもの数が少なくなり、一人に習い事や勉強を集中してさせるようになり、子どもにストレスやプレッシャーがかかっていること。それがはけ口としていじめにつながる、という専門家の指摘は多いです」

さらに、近所の子どもと園の外で遊ぶ機会が減り、実体験がないまま動画や情報だけが増えている「歪んだ構造」もあるのでは、と菅野さんは私見を述べる。

「昔の喧嘩は『ここまでならいい、ここから先はまずい』と分かっていたのに、今の子は動画でしか見ていないから加減が分からない、という話を少年事件で聞いたこともあります」

また、現場が重大性を認識しにくい背景には、深刻な人手不足も原因と菅野さんは指摘する。

「年齢が上がるにつれて、一人の先生が見る子どもの数が急に多くなります。目が届かない背景には、先生が事務処理や他の業務も課されており、一人ひとりの園児に逐一真摯に対応できないことがあります。先生が子どもに時間を割ける環境への改善が急務であると思われます。

それには人員確保と、子どもに関係ない事務処理は別の人が担当するなどの役割分担が必要です。先生の負担を減らして、子どもたちに避ける時間を作るシステムにしていかないと、現状では不十分なままです。いくら法整備を進めても、現場が改善しなければ未然に防ぐことはできません」

一方、被害を受けてしまった園児と保護者の救済策として、菅野さんは現実的なフォローを提言する。

「PTSDを発症してしまったら、カウンセリングや心療内科で地道にケアをして寄り添ってあげるしかありません。ただ、カウンセリングは医療行為ではないので保険がきかず、自己負担となります。頻繁に通えば何年も続き、何十万円、あるいはそれ以上になる可能性もあります。家庭によっては負担が大きく、『通えない』と諦めてしまうことも。被害に遭ったのですから、収入制限なしの公的な費用補助があれば、受けやすくなります」

同時に、いじめた児童へのケアの重要性を菅野さんは強く訴える。

いじめた側のケアも確実に必要です。「いじめ」は繰り返してしまう可能性があり、何らかの問題を抱えていることも多いので、そうした児童こそカウンセリングなどを必要とすることが多いのです。親だけに任せるのは負担が大きく、途方にくれるケースもあるでしょう。園側が単なる『紹介』ではなく『行ってください』と促し、家庭をサポートするシステムが必要だと思います」

まだ幼いうちこそ、早期発見で改善の余地が十分あるということだ。

そのためには現場の大人の意識を変え、先生が子どもに専念できる環境を整え、親が積極的に子どもの声を拾い続けること。被害者と加害者の両方を支える仕組みをつくること。法の空白を埋めるのは、結局「人」の手にかかっている。

折り紙に書かれた「しね」の文字が、二度と子どもの手から生まれないように。私たち一人ひとりができることから、始めていきたいものだ--。