仮眠中の20代女性に無理やりキス、被害者と同い年の娘を「証人」に立たせた50代父に裁判官が厳しく叱責
「どれだけ考えているんですか!」
裁判官から被告人に力強く放たれた言葉は、「叱責」と表現するほかなかった。
冷静な判断が求められる裁判官が感情をあらわにすることに、否定的な意見を持つ人もいるかもしれない。しかし、被告人を自らが起こした事件に向き合わせるという意味では、必要な言葉だったように感じた。
大阪地裁は9月2日、不同意わいせつ罪に問われた50代男性に、拘禁刑2年(求刑同じ)、執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。
法廷で被告人は、被害女性にキスをしたことなどを認めつつ、「酒に酔っていた」と繰り返し弁明した。
しかし、被告人が厳しく問われたのは、犯行そのものだけではない。酒に酔っていないはずの事件後に取った行動もまた、裁判官の強い叱責を招くことになった。(裁判ライター・普通)
●眠っていた被害者にキス
起訴状によると、被告人は客として訪れていた深夜の飲食店で、従業員控室に入った。
そこでは、女性従業員のAさん(20代)が眠っていた。被告人は、Aさんが同意する意思を示すことが困難な状態にある中、額にキスをした。さらに、目を覚まして驚くAさんの手をつかむなどの暴行を加えたうえで、唇にキスをしたとされる。
被告人はキスをしたことは認めたものの、Aさんの手をつかんで押さえ込もうとはしていないとして、起訴内容の一部を否認した。
●「娘と同じ歳の子とキスできて…」
捜査機関に対するAさんの供述からは、事件への強い怒りがうかがえた。
Aさんが勤務中の休憩時間に仮眠を取っていたところ、控室に被告人が入ってきた。それまで接客していたため、顔は認識していた。
被告人からLINEの交換を求められ、それに応じたあと、再び眠ろうとした。
すると、額に何かが触れる感覚があった。直感的にキスされたと感じて目を開けると、被告人がAさんのマスクを外してキスをし、舌を入れてきたという。Aさんが抵抗しても、被告人は手をつかみ、覆いかぶさるようにして2~3秒ほどキスを続けた。
その後、被告人は「ごめんな」と言ったかと思うと、「いや、自分(の娘)と同じ歳の子とキスできて、ありがとうか」などと口にしたという。
●示談を望んだ女性、被告人はLINEをブロック
Aさんが上司に被害を報告すると、被告人が常連客だったことから、示談で解決することを希望された。
Aさんは被告人とLINEを交換していたため、他愛もない話から徐々に事件の話を持ち出した。すると、被告人からブロックされてしまった。
さらに、被告人と一緒に店を訪れていた人物に問いただしたところ、「俺は関係ない」「名前も知らない」などと言われたため、Aさんは刑事告訴を決めたという。
事件後、Aさんは情緒が不安定になり、アルバイトを辞めた。男性の視線が気になるようになり、着られる服も限られるようになった。交際相手とのケンカが増え、交際も解消した。
ネイルサロンを開く夢に向けて必死に働いていたが、その夢も一時、諦めざるを得なくなったという。
一方、被告人は捜査機関に対し、酒に酔っていて記憶があいまいだとしながら、「同意していないのはわかったが、軽く考えていた」などと供述した。
●「死ぬまででもいい」生活を見守る娘
弁護人が情状証人として法廷に呼んだのは、被告人の娘だった。
同じ女性として事件をどう思うかを問われた娘は、「呆れた」「怒った」「女として気持ち悪い」「次はない」などと答えた。
娘は被告人とは近い距離に住んでいるものの、別居しているという。それでも今後は、被告人とこまめに連絡を取り、実家に顔を出す。被告人のGPSを確認し、金銭も管理する──。再犯を防ぐため、さまざまな対策を考えていた。
検察官:働きながらで大変じゃないですか?
娘:これぐらいしないと。
検察官:いつまでおこなうつもりですか?
娘:死ぬまででもいいと思う。
その言葉からは、娘の強い覚悟が感じられた。
●裁判官が思わず割って入った被告人の説明
続いて、被告人本人が質問に答えた。
まずAさんに謝罪の言葉を述べ、今後は酒を飲まないと誓った。そして、事件当日の話に移った。
Aさんとは、その日が初対面だった。接客を受けながら楽しく会話をしていたが、途中でAさんが見当たらなくなったため、わざわざ控室まで探しに行ったという。
検察官や裁判官から「なぜ探しに行ったのか」と繰り返し問われたが、被告人は「気になったんで」としか答えられなかった。
Aさんの供述とは異なり、被告人によると、控室に入ったときAさんは起きており、2~3言、言葉を交わしたという。そして突然、キスをした。
弁護人:なんでキスをしたんですか?
被告人:酒が入って、制止できなくて。
弁護人:手をつかんでキスをしたんですか。
被告人:抵抗できなくするためではないですが、そうです。
弁護人:あなた自身の体勢を支えるために手をついた、というのが正しいですか。
被告人:はい。
すると、裁判官が割って入った。
裁判官:そうなんですか? 被告人:……違います。
それでも被告人は、Aさんから抵抗はなかったと主張した。
●なぜLINEをブロックしたのか
事件後のAさんとのLINEについても質問が及んだ。
被告人によると、Aさんとはしばらくやりとりを続けていた。しかし、「話したいことがあるんですけど」と言われ、事件のことだと思い、とっさにブロックしたという。
被告人は事件当時、生活保護を受給していた。謝罪したい気持ちはあったものの、お金がなかったため何もできなかったと弁明した。
検察官:話したいことがあると言われて、どう思ったんですか。
被告人:怖くなりました。
検察官:なんで?
被告人:脅されたりするのかなと思って。
検察官:LINEで謝罪メッセージを送ることもできたんじゃないんですか。
被告人:送れませんでした。
検察官:どうして?
被告人:怖くなったので。
被告人の口から語られたのは、まるでAさんが悪いかのような言い分だった。
●「この事件で被害者を2人生んでいる」
裁判官からの質問は、終始厳しい口調だった。
被告人は、なぜ犯行に及んだのか、なぜAさんだったのか、自制しようとは思わなかったのかなどと問われ、そのたびに「酒に酔っていたから」と答えた。
それほど酔っていたことを強調する一方で、Aさんを手で押さえつけたわけではないという点については、明確に記憶していると主張した。
LINEをブロックした理由についても、「怖かった」「お金を請求されると思った」などと繰り返した。
そして、裁判官は被告人にこう問いかけた。
裁判官:Aさんと同じ歳の娘が同じ目にあったらどう思うんですか? 初対面の中年男性に仕事中にいきなりキスされ、連絡を取ろうとしたら相手からブロックされ。
被告人:……腹が立ちます。
裁判官:よりによって不同意わいせつの裁判に、娘を証人に立たせて生活監督の誓約をさせる。どういう気持ちでさせているんですか? あなたは、この事件で被害者を2人生んでいるんですよ! どれだけ考えているんですか!
被告人は、何も答えることができなかった。
●判決の日にも同席した娘
判決は、被告人がAさんを手で押さえ込もうとはしていないなどと起訴内容の一部を否認している点について、Aさんの供述は具体的で信用できるとして、被告人側の主張を退けた。
そのうえで、Aさんが受けた嫌悪感や精神的被害の大きさに加え、事件後の被告人の不誠実な態度などを指摘し、卑劣で下劣な犯行だと厳しく非難した。
一方、執行猶予を付けた理由の一つとして、事件を知ったうえで、被告人の娘が今後の生活を見守る姿勢を示していることを挙げた。
判決当日にも、娘は法廷に来ていた。
被告人が二度と被害者を生まないことはもちろん、この事件によって重い役割を背負うことになった娘の覚悟を無にしないためにも、再犯しないことを強く願う。
