【中島 茂信】アメリカ産ジャガイモ輸入解禁で国産ジャガイモ壊滅か…「倒産の可能性もある」北海道の農家が感じる危機感

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アメリカ産生ジャガイモ輸入解禁へ

コロッケ好きとして危惧していることがある。国産ジャガイモで作ったコロッケが食べられなくなるのではと、心配しているのだ。コロッケだけではない。近い将来、ポテトサラダも肉ジャガも国産ジャガイモで作れなくなる可能性が出てきたのだ。

どうしてそんなことが起こりうるのか。アメリカ産生ジャガイモの輸入が解禁されそうなのだ。長年、輸入が禁止されていたアメリカ産生ジャガイモをめぐり、日米政府が輸入解禁に向けて最終協議に入ることがわかった。トランプ米政権が要請していた生ジャガイモの輸入解禁を、日本政府が受け入れようとしているのだ。

北海道の農家がいま感じていること

アメリカ産生ジャガイモが輸入されると何が起こりうるか。北海道は知床半島の斜里町でジャガイモを栽培する髙圭吾(たかけいご)さんに話を聞いた。

「北海道のジャガイモ農家が倒産する可能性が高いと思います。なぜなら耕作面積が雲泥の差だから。生産コストが安いアメリカのジャガイモには太刀打ちできません」

輸入資材が高騰するもジャガイモの売値が上がらず、北海道でさえ倒産する農家が多い。アメリカの安いジャガイモが入ってくることで倒産する農家が増えるだけでなく、ジャガイモ栽培をやめる農家が出てくる可能性があると髙さんは危惧している。

アメリカ産ジャガイモなら以前から輸入されているはずだと、思う方もいるだろう。冷凍のフレンチフライは遅くとも1980年代には輸入されている。1985年頃、TVCM制作会社の社員だった私は、広告代理店の依頼で米国アイダホ産の冷凍フレンチフライのTVCMを制作したことがある。

いま、日本が輸入を解禁しようとしているのは、「生」のジャガイモだ。生鮮ジャガイモのどこか問題なのか後述する。

ポストハーベスト農薬が揺るがす安全性

髙さんは食の安全性も問題視している。アメリカが生のジャガイモに散布するであろう農薬について懸念しているのだ。

「船でジャガイモを運ぶ際、芽が出ないように発芽抑制剤として除草剤をかける可能性があります」

デンプンなどの加工用であれば、青イモでも芽が出ていても使える。食用として流通させる場合、芽が出ていたり、緑化していると売物にならない。船で日本に輸送する間、発芽する可能性がある。そのため除草剤としてのポストハーベスト農薬の使用が考えられるというのだ。

ジャガイモへのポストハーベスト農薬に関して、農政に詳しい鈴木宣弘先生(東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授)の著書を引用する。

2006年、ポテトチップ加工用に限定し、かつ、輸入期間を2月~7月に限定して、アメリカ産の生鮮ジャガイモ輸入を認めた。これは限定的な輸入だったが、2020年2月に、農水省は、米国産のポテトチップ加工用生鮮ジャガイモの「通年輸入」を認める規制緩和を行う。(『世界で最初に飢えるのは日本』講談社+α新書)

当初2月から7月の「端境期限定」での輸入解禁だったが、2020年2月に通年輸入になったのには理由がある。覚えているだろうか、2017年にいわゆる「ポテチショック」が起こった。店頭からポテトチップスが消えたのだ。前年8月、北海道に4つの台風が上陸・接近。ジャガイモの一大産地を誇る北海道が大被害を被った。菓子メーカー各社は、ポテトチップスの終売・休売を決定。ジャガイモ不足を受け、農林水産省はアメリカ産生のジャガイモを期間限定から通年輸入に切り替えたと考えられる。

同時期、規制緩和をしたのは、農林水産省だけではなかった。厚生労働省も規制緩和を行なった。鈴木先生は同書に記している。少し長いが引用させていただく。

2020年6月、厚生省は、ポストハーベスト農薬として、動物実験で発がん性や神経毒性が指摘されている殺虫剤ジフェノコナゾールを、生鮮ジャガイモの防カビ剤として食品添加物に指定した。あわせてジフェノコナゾールの残留基準値を改定し、これまでの0.2ppmを4ppmと、20倍に緩和している。 日本では収穫後の農薬散布はできない。だが、アメリカからジャガイモを輸送するために、防カビ剤の散布が必要になる。それゆえに、ジフェノコナゾールの食品添加物に指定することで、ジャガイモへの収穫後の農薬散布を可能にした。(『世界で最初に飢えるのは日本』講談社+α新書)

髙さんは、発芽を防ぐための除草剤とジフェノコナゾールの併用が考えられると危惧する。

「皮まで食べるジャガイモに農薬を使い、食の安全性を担保できるのでしょうか。ポストハーベスト問題には、食の安全性へリスクを感じています」

根絶は不可能「ジャガイモシストセンチュウ」

髙さんだけでなく、北海道のジャガイモ農家全員が一番危惧していることがある。ジャガイモ栽培の最重要病害虫「ジャガイモシストセンチュウ」の問題だ。

「0.5mmのジャガイモシストセンチュウが根に寄生し、大幅な減収を引き起こします。一度出てしまうとバイオハザードのように増え続けます。卵の状態で土壌中で10年以上生息するため、根絶はほぼ不可能とされます」

ジャガイモシストセンチュウの説明をする前に、ジャガイモ栽培について復習しよう。子どもの頃、自宅の庭などでジャガイモを栽培したことがないだろうか。半分に切った生のジャガイモを植えたはずだ。

「ジャガイモは種子ではなく、親イモを植える『栄養繁殖』が一般的です。北海道のジャガイモ農家のなかには、自家栽培の種イモを植える人もいなくはありませんが、大半の農家が種イモ専門農家が育てた種イモを買っています」

わざわざ購入するのには理由がある。クローン栽培とも呼ばれる栄養繁殖のネックは、ウイルスのような病原体が親イモから子イモにコピーされてしまうことだ。

「ジャガイモシストセンチュウのような寄生性の線虫は、子イモには引き継がれる恐れはありません。でも、畑がジャガイモシストセンチュウで汚染されている場合、土の移動で病害虫がまん延します」

種イモ専門農家は、広大な畑で種イモ以外の大豆や小麦なども栽培する。種イモの畑に行くときは、ジャガイモシストセンチュウが広がらないようにトラクターなどのタイヤに付着した土を落としたり、履いていた靴を洗浄したり、靴にカバーをかけるなどの予防対策を徹底している。

種イモ専門農家が育てた種イモは、何度も検査を受け、病害虫の有無をチェックされる。ある程度品質が担保された種イモがジャガイモ農家の手元に届くわけだが、それでもジャガイモシストセンチュウがまん延してしまう。

まん延リスクが上昇する

農林水産省の機関である植物防疫所が発行する『病害虫情報第135号』(2024年9月発行)では、ジャガイモシストセンチュウが「欧州、北米、南米、アフリカ等に生息している」と指摘する。

また、農林水産省の『輸入禁止対象病害虫の海外における発生情報』(2012年7月~9月)によれば、アメリカ最大のジャガイモ生産地のアイダホ州各地でジャガイモシストセンチュウが発見されていると記している。

『ジャガイモ事典』(財団法人いも類振興会 2012 年発行)には、ジャガイモシストセンチュウは、「日本では1972(昭和47年)に北海道で初めて発生と被害が確認された。現在、北海道以外では、長崎、青森、三重、熊本で発生が確認されている」とある。

令和の時代も北海道各地でジャガイモシストセンチュウが発生している。病害虫のまん延に気を使っていても根絶できないのに、アメリカ産が入ってきたらどうなるか。ジャガイモには窪みがあり、土が付着している。どんなにきれいに洗浄したとしても完璧に土を落とすことはできないし、0.5mmのジャガイモシストセンチュウが潜んでいる可能性はゼロにはならない。購入したアメリカ産ジャガイモを食べる人もいるだろうし、庭などに植える人もいるかもしれない。

「犬や猫などに付着したシストセンチュウが畑に運ばれる可能性もあります。可能性が1%でもある以上、いかなる対策を施したとしてもシストセンチュウのまん延をゼロリスクにはできないと断言できます」

過去には疫病による飢饉も…

高校時代、世界史の授業でアイルランドで起こった「ジャガイモ大飢饉」を習わなかっただろうか。1845 年にアイルランドでジャガイモに疫病が大発生し、ジャガイモの大半が疫病にやられた。アイルランド人の主食がジャガイモだったことから、1849年まで続いた大飢饉で100万人が餓死したとされる。結果、150万人ものアイルランド人が新天地を求めて去っていった。のちに第35代アメリカ合衆国大統領に就任するジョン・F・ケネディもジャガイモ大飢饉で米国に渡った末裔である。

ジャガイモ大飢饉についても先の『植物防疫所病害虫情報第135号』は記している。

欧州では、1840年代のジャガイモ疫病の発生による大飢饉を受けて、ジャガイモ疫病抵抗性品種の育成のために南米からジャガイモを輸入した。これにより南米原産の本線虫(筆者注:ジャガイモシストセンチュウ)が欧州に侵入・まん延した。

農林水産省の機関である植物防疫所がジャガイモシストセンチュウの恐ろしさを指摘しているにもかかわらず、日本政府はトランプ政権の圧力に屈し、ジャガイモシストセンチュウが侵入するリスクが皆無ではない生ジャガイモをアメリカから輸入しようとしている。

日本にはジャガイモの一大産地の北海道があり、収量も多いのに、なぜわざわざアメリカ産を輸入する必要があるのか。

国産ジャガイモに迫る危機

「日本政府は、ジャガイモシストセンチュウの被害が出ていない地域のアメリカ産ジャガイモを輸入すると思います。でも、ジャガイモに付着する土に潜んでいた場合、日本にジャガイモシストセンチュウがまん延する可能性が高いです」

近い将来、北海道はもちろん、国内でジャガイモを栽培できなくなるかもしれない。その場合、われわれ日本人は、アメリカ産生ジャガイモを食べることになるのだろうか。

最後に鈴木先生の文章を紹介する。

さらに、もう一つの懸念事項がある。食品安全委員会は、2017年に、米国シンプロット社が開発した遺伝子組み換えジャガイモを承認した。(中略)アメリカでは、すでにシンプロット社が開発した遺伝子組み換えジャガイモが広く流通している。このシンプロット社は、米国マクドナルドのジャガイモ納入業者である。(『世界で最初に飢えるのは日本』講談社+α新書)

鈴木先生によれば、米国マクドナルドは消費者の遺伝子組み換えジャガイモへの拒否感を背景に、遺伝子組み換えジャガイモを扱わないと表明しているという。

とはいえ、アメリカ産生ジャガイモの輸入が解禁されることで、遺伝子組み換えジャガイモが日本に入ってくる可能性は否めない。いや、もう既にポテトチップス用やファストフードなどのフライドポテト用に使われているかもしれない。

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